お別れ
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「え、このまま帰っちゃうの?」
「ああ」
「まだ、見ていない部屋もあるけど……」
「これまでに見た部屋と、似たようなものだろう。それに、ここにいる奴隷を引き連れて町に戻るのは、私たちだけでは時間も手間も掛かりすぎるぞ?」
そう言われてしまうと、反論の余地が無い。薬のせいで、自発的に動こうとしない奴隷を先導して山を下りるのは、想像するだけで面倒くさそうだ。
「町の役人や衛兵に話を通して、面倒な事後処理は任せてしまえばいい。こちらの話をすぐに信じてくれればよいのだが」
「あ。――――それなら打ってつけの人物がいるよ」
そう言って、俺はレジーナに見張りを頼んで山を下り、ラップを連れて戻ってきた。
ラップは(意外なことに)俺の話をすぐに信じてくれて、最初から顔見知りの役人に同行を依頼してくれたので、現場を見せるだけで殆ど説明は不要だった。
「こ、この男たちを、レジーナさんが一人で倒したんですか?」
「そうだ」
両足をへし折られた上に頭を殴られて気絶――――要するに、半殺しにされている男たちを呆然と眺めながら、ラップは金魚のように口をパクパクとさせた。屋敷の中を見に行った役人も、血相を変えて戻って来た。
「坊ちゃん! この人の言ったとおり、屋敷の中に大量の奴隷が!」
「すぐに町に戻って、親父に知らせろ! 衛兵を連れてくるんだ!」
「は、はいっ!」
役人は頷くと、足をもつれさせて転がるようにしながら、再び山を下りて行った。
「お前、坊ちゃんって呼ばれてんの?」
「そんなことはどうでもいいだろ! それより、詳しい話を聞かせてくれ。多分、衛兵からも同じことを尋ねられると思うが……」
「それなら、後でまとめて話すのでもいいだろう」
同じ話を何度もするのは面倒くさい、と。
レジーナは、横から俺たちの会話に割り込んでくると、おもむろに屋敷の二階を指さした。
「それより、屋敷の中に鍵の掛かっている部屋があったんだ。室内から誰かの泣き声や呻き声が聞こえたような気がする。気になるから、見てきてくれないか?」
「本当ですか!? なら、一緒に……」
「私もシノブもヘトヘトなんだ。頼む」
「……分かりました! 俺が見てきます!」
ラップは俺を睨み付け「この場を頼む」と言い残すと、駆け足で屋敷の中に入っていった。
「鍵の掛かった部屋なんてあったっけ?」
「嘘だ」
レジーナはあっさり嘘を認めると、大きく伸びをしてから、俺に向き直った。
「それじゃあ、お別れだ」
「え?」
それは、あまりにも唐突な別れだった。
「私はこの町を去るよ。目的も達成できたし。――――このままだと、私も捕まってしまいそうだからな」
レジーナが言うには、奴隷商が反抗的な奴隷に薬を投与しておとなしくさせる行為は、廃人にするなどの明確に違法な目的で無い限りは黙認されており、犯罪ではないのだそうだ。
そうなると、人買いグループの男たちが犯した罪は(まだ、アセビの町の住人を拉致していないのであれば)貴族の別荘の無断使用のみということになり、全員を半殺しにする理由としては弱いのである。
「でも、こっちは襲われているわけだし、正当防衛に……」
「私が先に攻撃しているぞ」
「……」
そうでした。
しかも、魔法で服を燃やしたところを、峰とはいえ鉄の武器で殴っているので、下手をすれば人買いグループの方に正当防衛が成立してしまいかねない。
「いずれにしても、このままでは、私たちも取り調べを受けることになるだろうからな。自分で言うのもなんだが、私の素性がバレるとかなり面倒なことになる」
そう言って、レジーナは人前では一度も脱いだことのないフードを軽く触った。
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