奴隷商
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「落ち着いたか?」
「うん……。なんとか」
その後、這って逃げようとした男たちを、レジーナが(再度攻撃して)完全に気絶させた後、俺たちは貴族の別荘だった建物まで歩いてきた。
「すまないな。シノブを驚かせたり、怖がらせたりするつもりはなかったんだ」
「いや、大丈夫。それより、助けてくれてありがとう。レジーナ、めっちゃ強いね」
「そうか? それほどか?」
(嬉しそうだな……)
ドヤ顔でニヤニヤするレジーナを横目で見ながら、俺は先程の大立ち回りを思い出した。
「炎を出したのって、魔法?」
「そうだ。基礎の基礎だけどな」
それにしては、アミが訓練でよく唱えている基本的な呪文とは、違うものだったような気がする。まともに聞き取れなかったので、何とも言えないが。
「なんだ、この建物は。まったく手入れをされていないじゃないか」
別荘の正面入口の前に立ったレジーナは、憤慨した様子で建物の周囲を見回した。
遠目には立派な屋敷だったが、近づけば雑草が生え放題。外壁の塗装も剥げて、見るからにボロボロの状態だった。
「今は、誰も管理していないみたいだね」
「そんなことだから、あんな連中に利用されるんだ!」
レジーナはぶつぶつと文句を言いながら、正面入口の扉に手を掛ける。
「他にも仲間がいるかもしれないから、気を付けないと」
「警戒しているから問題無い。もし、何かあっても、私が守ってやる」
(いちいちイケメンだなぁ……)
もし、レジーナが男だったら、完全に主人公の座を乗っ取られていただろう。
俺も、これくらい実力があったら、こんなイケメンムーブができるのだろうか? いつかは、そうなりたいものだ。
扉を開けて別荘に入った俺たちは、屋内の光景を見て――――絶句した。
虚ろな目をした何人もの人たちが、拘束された状態で、床に座り込んでいたからだ。全員、侵入者である俺たちを一瞥しただけで、まったく騒ごうとしない。
そして、多くの人の頭には、犬や猫のような獣の耳が付いていた。
――――獣人だ。
(これは……予想が当たったみたいだな)
どうやら、人買いグループの男たちは、隣国である獣人国からやって来たようだ。
だから、男たちを生け捕りにした前回は、取り調べの過程で獣人国の政情不安を知ることができ、翌年の奇襲に備えることができたのだろう。
「なるほど。そういうことか」
人知れず答え合わせをする俺の隣で、レジーナも納得したように頷いた。
「こいつらは奴隷だな。あの男たちは奴隷商だったというわけだ」
思案する様子もなく、あっさりと正解を口にする。
「見ただけで分かるものなの?」
「反抗的な奴隷は、薬を使用して、無理やりおとなしくさせるんだ。こいつらが全員、反抗的だったとは考えにくいが、恐らく、逃走防止のためだろう」
限界を超えて、廃人になるまで薬物を投与しなければ、時間を掛けて元の状態に戻すことはできるのだという。
「奴らにとっては、こいつらは人ではなく商品だからな。人道に対する倫理観が、一般人とは乖離しているのさ。すべての奴隷商が、同じことをしているとは言わないが」
屋敷の中を歩き回り一部屋ずつ確認していくと、人買いグループの男たちが寝起きしていたと思われる部屋に、小分けされた大量の粉薬が入っている袋が置いてあった。
「多分、これだ。一つ、証拠として持ち帰ろう」
そう言って、小さな手紙のように折り畳まれた薬包紙を俺に手渡すと、
「さて。――――それじゃあ、町に戻ろうか」
レジーナは当然のように、アセビの町に引き返すことを提案した。
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