↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/89

一番やってはいけないこと

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「アミにも、変わったことはないか尋ねてみたのだが、期待するような話は聞けなかった」


「それ、町中の人に聞いて回っているの?」


「まさか。そんなことを聞いて回ったら、衛兵に目を付けられてしまう」


 どうやら、変わったものや不審者を探すという目的が、客観的に見ればかなり怪しいということは、レジーナも自覚しているようだ。


「一人で図書館に籠もって調べ物をする毎日だったからな。シノブやアミと出会えたことは、幸運だった」


「ラップは?」


「誰だ、それは?」


「いや……。知らないならいいんだけど」


 ラップの話では、レジーナがラップに声を掛けてきたらしいのだが――――当のレジーナは綺麗さっぱりラップのことを忘れているようだ。不憫な奴である。


「それにしても、平和な良い町だな」


 弁当を食べ終えた後、レジーナは高台から見えるアセビの町を眺めながら、しみじみと呟いた。


「戦争の影などまったく無い」


「田舎だし、前線からも遠いからね」


 今、本当の意味で平和な国は、世界中のどこを探しても存在しない。魔王軍がすべての国と戦争をしているからだ。


 だが、アセビの町のように前線から遠く離れた場所では、仮初の平和が保たれている。


 そういう場所に住んでいると、戦争なんてイメージ先行の大げさな話だと、思わず錯覚してしまいそうになるのだが、それは大きな間違いだ。


 隣国が裏切れば、町は一夜で戦禍に巻き込まれる。


 隣人が悪事を働けば、家族は一瞬で不幸に突き落とされる。


 今、当たり前のように享受している平和な時間こそが、いつ覚めるか分からない夢のようなものなのだ。


「レジーナの故郷はそうじゃないの?」


「そうだな……。平和と言えば平和……いや、そうでもないのかもな。いつも、戦争の話題でピリピリしていている。あの雰囲気は、あまり好きではないな」


「そうなんだ」


 平和ではあるが、戦争の話題で雰囲気は良くない――――前線から離れた軍の駐屯地にでも住んでいるのだろうか?


 そんなことを考えていると、レジーナは急に神妙な表情になって、俺を見た。


「シノブ、国が戦争をするにあたって、一番やってはいけないことは何か、分かるか?」


「え?」


「そもそも、戦争をすべきではないとか、そういう議論ではなく、戦争をする上で、やってはいけないことだ」


 急に禅問答じみた話題になってしまった。


 戦争でしてはいけないことなど、たくさんあると思うが……。


「……民間人への攻撃とか?」


 俺が当てずっぽうで答えると、レジーナは薄っすらと笑って、首を横に振った。


「違う。勿論、やってもいいという意味ではないけれど、一番ではない」


「じゃあ、何なの?」


「簡単さ。――――負けることだよ」


 レジーナは茶化すような素振りもなく、大真面目に答えた。


 そんなこと、言われるまでもない……と思ったが、たしかに、そのとおりだ。


 選抜試合のような勝負事なら、負けても得るものはあるが、戦争にそんなものは無い。


 負けたら、一方的に奪われるだけ。


 家族も、財産も、故郷も、文化も、歴史も、尊厳も、何もかもを奪われて、押し付けられた新しいルールに従って生きなければならない。


「だから、戦争を仕掛けるにしても、応じるにしても、始めるのであれば、負けてはいけないんだ。たとえ、相手の何もかもを奪うことになっても」


 だから、戦争はいつまで経っても終わらないんだよ、と。


 レジーナは自嘲するように笑った。

評価、ブックマーク、いいね、感想などをもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。