一番やってはいけないこと
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「アミにも、変わったことはないか尋ねてみたのだが、期待するような話は聞けなかった」
「それ、町中の人に聞いて回っているの?」
「まさか。そんなことを聞いて回ったら、衛兵に目を付けられてしまう」
どうやら、変わったものや不審者を探すという目的が、客観的に見ればかなり怪しいということは、レジーナも自覚しているようだ。
「一人で図書館に籠もって調べ物をする毎日だったからな。シノブやアミと出会えたことは、幸運だった」
「ラップは?」
「誰だ、それは?」
「いや……。知らないならいいんだけど」
ラップの話では、レジーナがラップに声を掛けてきたらしいのだが――――当のレジーナは綺麗さっぱりラップのことを忘れているようだ。不憫な奴である。
「それにしても、平和な良い町だな」
弁当を食べ終えた後、レジーナは高台から見えるアセビの町を眺めながら、しみじみと呟いた。
「戦争の影などまったく無い」
「田舎だし、前線からも遠いからね」
今、本当の意味で平和な国は、世界中のどこを探しても存在しない。魔王軍がすべての国と戦争をしているからだ。
だが、アセビの町のように前線から遠く離れた場所では、仮初の平和が保たれている。
そういう場所に住んでいると、戦争なんてイメージ先行の大げさな話だと、思わず錯覚してしまいそうになるのだが、それは大きな間違いだ。
隣国が裏切れば、町は一夜で戦禍に巻き込まれる。
隣人が悪事を働けば、家族は一瞬で不幸に突き落とされる。
今、当たり前のように享受している平和な時間こそが、いつ覚めるか分からない夢のようなものなのだ。
「レジーナの故郷はそうじゃないの?」
「そうだな……。平和と言えば平和……いや、そうでもないのかもな。いつも、戦争の話題でピリピリしていている。あの雰囲気は、あまり好きではないな」
「そうなんだ」
平和ではあるが、戦争の話題で雰囲気は良くない――――前線から離れた軍の駐屯地にでも住んでいるのだろうか?
そんなことを考えていると、レジーナは急に神妙な表情になって、俺を見た。
「シノブ、国が戦争をするにあたって、一番やってはいけないことは何か、分かるか?」
「え?」
「そもそも、戦争をすべきではないとか、そういう議論ではなく、戦争をする上で、やってはいけないことだ」
急に禅問答じみた話題になってしまった。
戦争でしてはいけないことなど、たくさんあると思うが……。
「……民間人への攻撃とか?」
俺が当てずっぽうで答えると、レジーナは薄っすらと笑って、首を横に振った。
「違う。勿論、やってもいいという意味ではないけれど、一番ではない」
「じゃあ、何なの?」
「簡単さ。――――負けることだよ」
レジーナは茶化すような素振りもなく、大真面目に答えた。
そんなこと、言われるまでもない……と思ったが、たしかに、そのとおりだ。
選抜試合のような勝負事なら、負けても得るものはあるが、戦争にそんなものは無い。
負けたら、一方的に奪われるだけ。
家族も、財産も、故郷も、文化も、歴史も、尊厳も、何もかもを奪われて、押し付けられた新しいルールに従って生きなければならない。
「だから、戦争を仕掛けるにしても、応じるにしても、始めるのであれば、負けてはいけないんだ。たとえ、相手の何もかもを奪うことになっても」
だから、戦争はいつまで経っても終わらないんだよ、と。
レジーナは自嘲するように笑った。
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