不運と絶望
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「追い詰めろ! 登り坂をいつまでも全力疾走なんかできるはずがない!」
男たちは殺意をマシマシにして俺を追走したが――――
「ぜぇ……ぜぇ……。嘘だろ……?」
「なんで、あのガキ、ペースが落ちないんだよ!?」
いつまで経ってもペースを乱すことなく、山道を全力疾走で登り続ける俺に、男たちの方が先に音を上げた。
当然である。
俺は前の周回でも、前の前の周回でも、暇さえあれば走り込みをしていたのだ。育成ゲームにおいて、序盤に体力の上限を増やすのは最強キャラを作るための鉄板ムーブである。
強さを次の周回に引き継ぐこと(強くてニューゲーム)ができる俺にとっても、体力作りは避けては通れない道だったと言える。
(お前らとは、年季が違うんだよ!)
今の俺はフルマラソンを走破できる程度には、体力が付いている。運動不足の大人に負ける要素など一パーセントもなかった。
だが、ここでコンマ数パーセントの不運が起きてしまう。
「このっ!」
男の一人が自棄になって投擲したナタのような刃物が、くるくると回転しながら飛来して、俺のふくらはぎをエグったのだ。ちょうど刀を振り下ろすような角度で、刃の部分が命中してしまった。
「ぐぅっ!」
まったく予期していなかった激痛に襲われて、俺は負傷した足を引きずるように蹴躓いた。
「やった!」
「捕まえろ!」
男たちの喜ぶ声を聞きながら、俺は歯を食いしばったが、ここで更なる不運に見舞われてしまう。
立ち止まってはいけない――――その思いだけで前に進もうとして、道を踏み外して斜面を滑落してしまったのだ。
草木を押し潰し、土煙を上げながら斜面を転がり、太い木の幹に背中を強打したところで、俺の体はようやく停止した。
顔を上げれば、慎重な足取りで斜面を降りてくる男たちの姿が、頭上に見える。
(くそ……。これならいっそのこと、一番下まで転がり落ちた方が良かったか?)
思わずそんなことを考えたが、転がり落ちる過程で頭を強打したり、折れた木の枝に串刺しになったりするリスクもあったのだ。打ち身やすり身だけで済んだのは、むしろ幸運だろう。
だが、このままでは確実に捕まってしまう。
生け捕りにされるなら望みはあるが、口封じに殺されてしまう可能性もある。足を負傷して歩けない奴隷の商品価値は、かなり低くなるだろう。
(ここまでか……)
ふと、諦観の念が頭をよぎった。
だが、これで終わりではない。たとえ、ここで死ぬことになっても、俺には次の周回がある。次はもっと準備を万端に整えて、上手くやればいいのだ。
問題は、プリムラが気を利かせて、今日の記録を残しておいてくれるかなのだが……。
(……駄目そう)
驚くほど早く自分の中で結論が出てしまい、俺は絶望した。
兄貴も言及していたが、プリムラはポンコツだ。こういう時に、機転を利かせて情報を書き残してくれるような有能秘書ムーブなど期待できない。
「自分がやるべきこと、分かってるよなぁ!?」
俺は自棄になって、虚空に向かって声を荒げた。
多分、プリムラは聞いているはずだ。退屈して他のことをしている可能性も無くはないが、半々くらいの確率で聞いていると信じたい。
「女神だろ!? 自分の仕事をしっかりやれよ! 今日のことを記録に残すんだぞ!」
「なんだ、こいつ?」
「気でもふれたのか?」
男たちは足を止めて、急に叫び出した俺を怪訝な顔で見ている。
だが、すぐに何の策も無く、破れかぶれになっているだけだと気づいたようだ。
「……まあいい。さっさと捕まえちまおう」
男の一人が一歩、前に踏み出し、俺に向かって手を伸ばした。
――――万事休すか。
そう思った時、ヒュンという風切り音と同時に、前に伸ばした男の腕が跳ね上がった。
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