状況証拠
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
(――――覚悟は決まった。全員、助ける)
そのためには、どうすればよいか。
ベストは、いち早くラップとクランにも危機感を共有してもらい、アセビの町に非常事態を伝えることだ。町の入口には軍から派遣された衛兵がいるし、今ならアカデミーにはペダルがいる。
アカデミーの教官か、軍の衛兵。そのどちらかが動けば、人買いグループを追い払うことができる。あわよくば、捕まえることもできるかもしれない。
「なあ。この車輪の跡って、行方不明になった人が付けたものなのか?」
俺の問い掛けに、ラップとクランは即答できずに口をつぐんだ。
「町で見かける、隣町や王都に行くための馬車じゃないよな?」
「そうだな。平地に広い街道があるのに、わざわざ山道を馬車で移動する理由が無い」
今度は、ラップはすぐに同意した。
「そもそも、この山道は頂上までしか続いていないはずだ。山を越えるための道じゃない」
つまり、公共の交通機関としての馬車の線は無いことになる。
「人を運ぶためじゃなくて、物を運ぶための荷馬車とか? 行方不明になった人って、たしか山菜を採るために山に入ったんだよね?」
クランが正解を思いついたと言わんばかりに発言したが、ラップはしかめ面のままだ。
「個人が山で山菜を採るために、荷馬車まで使うとは考えにくい。まして、行方不明になったのは一人だからな」
「そっかぁ……。一人で荷台一杯の山菜なんか採れないもんね」
クランも納得した様子で、口を閉ざした。
「それじゃ、この車輪の跡は、行方不明になった人が付けたものではないことになるよな?」
満を持して俺が発言すると、ラップは難しい顔をしたまま頷いた。
「その可能性が高い……ということになるな」
「でも、山を越えるための馬車じゃないのなら、この山に何かの目的があって、馬車は山道を通ったことになるよな?」
「そうだな。……何を言いたいんだ?」
何か気づいているのか? と。
ラップは不審者を見るような目で俺を見た。
「この山に、昔、貴族が建てた別荘があるって聞いたんだけど」
「あるぞ。でも、かなり前から放置されていて、今じゃ空き家を通り越して廃墟に……」
そこまで言いかけて、ラップは俺を見た。
「その廃墟に、誰か――――不審者や余所者が住み着いているって言いたいのか?」
「うん」
「町の住人が行方不明になったのも、そいつらが関与していると?」
「可能性としては、あるだろ? 少なくとも、馬車を使って荷物を運んでいる奴がいるのは、確定なんだから」
俺は「可能性はある」と曖昧な言い方をしたが、内心ではほぼ確信している。
というか、人買いグループが山中にある空き家を根城にしていることは、過去の周回で既に答え合わせ済みなのだ。間違っているはずがない。
後は(なぜか)この場を仕切ってリーダーのように振舞っているラップを納得させるだけ。
ラップはしばらく考え込んでいたが、
「……まあ、可能性はゼロではないな」
俺の仮説に一定の理解を示してくれた。状況証拠と呼べるものは、車輪の跡だけだったが。
「それなら、今から確かめに行くか。別荘があるのは、このすぐ近くだ」
「え? 私たちだけで行くの?」
クランが驚いた様子で、聞き返してくる。
「様子を見に行くだけだ」
「危ないよ! 大人たちに任せた方が……」
「勿論、シノブの言っていることが正しければ、俺たちが不用意に首を突っ込んでいい話じゃない。でも、ある程度の裏付けがないと、大人たちだって動いてはくれないだろ? そもそも、ただの思い過ごしの可能性だってあるんだ」
むしろ、ラップとしては「可能性を潰す」ために、様子を見に行くと言っているのだろう。自分で言うのもなんだが、道に残っていた車輪の跡だけで、犯罪者が山中に潜んでいて、町の住人を拉致していると結論付けるのは、あまりにも飛躍しすぎている。
だが、そんなラップの予想を、現実はあっさりと裏切った。
メインの山道から、別荘へと続く脇道を曲がってすぐに、俺たちは地面に残っている車輪の跡と、複数人の足跡を発見したからだ。
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