第一被害者は誰なのか
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「俺の場合は弓じゃなくて、北の山に用事があるんだ。ただ、わざわざ一人で行くほどの用ではないから、どうしようかと思っていたんだが……。お前らの話を聞いたからな」
「つまり、訓練には参加しないってことか」
「簡単な手伝いくらいはできるぞ」
どうやら、ラップの言う「用事」とは、片手間に訓練の手伝いをしながらでも、できることらしい。
「その用事って、何かの事件と関係しているのか?」
試しに、俺がカマをかけてみると、途端にラップは真顔になった。
「なんだ? お前、何か知っているのか?」
「いや。何も知らないけど……。なんとなく、そう思っただけだよ」
お前こそ何か知っているのか、と。
俺が改めて同じ内容の質問をすると、ラップは周囲を見回して、近くで話を聞いている者が他にいないことを確認した。
「……仕方ない。特別に教えてやるけど、誰にも言うなよ?」
「分かった」
俺は内心でほくそ笑みながら、神妙な顔で頷いた。
ラップの「誰にも言うなよ」は、もはや決めゼリフというか、様式美のようなものだ。これさえ言っておけば、守秘義務違反にはならないと考えているのだろうか? 単純な奴だ。
「ここだけの話だけどな。つい最近、北の山で行方不明になった人がいるんだ」
その人物は、山菜を採るために一人で山に入り、それっきり帰ってこないのだとか。
「雪が残っているわけでもないし、遭難するような山ではないからな。何日も帰ってこないのは妙だと思ってさ」
「それで、実際の山道を確かめてみようって?」
「まあ、そんなところだ」
もしかしたら、野生の動物に襲われたのかもしれない。
あるいは、斜面で足を滑らせて、滑落してしまったのかもしれない。
様々な可能性を考えて、一度、現地を見てみたいらしい。ラップなりに町のことを考えて、町長である父親の役に立とうとしているのかもしれない。
(この時点では、ラップもまだ人買いグループのことを知らないのか。……まあ、そりゃそうか)
もし、ラップが人買いグループのことを知っていたら、俺のことはともかく、クランが山に入ろうとすることだけは、全力で止めているはずだ。同行を申し出たのは、人数が多い方が安全だと考えているからであり、拉致ではなく、遭難の方を警戒しているからだろう。
とはいえ、人買いグループが既に北の山に潜伏している可能性は高い。
既に行方不明者が出ているからだ。
(クランが最初の犠牲者ではないんだな)
クランはあくまでもアカデミーの生徒の中から出た、一人目の行方不明者。
だとすると、アカデミーの生徒が被害に遭わなければ、教官たちが山狩りをすることは無いのかもしれない。
それはそれで薄情な気もするが――――まあ、そんなものだろう。
その時、俺はそんなことを考えていたが、クランが失踪することでアカデミーの教官たちが山狩りをすることになる理由はもっと別のところにあり、それは実にシンプルなものだった。
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