本校編入の話
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「――――それはそうと。アミ・ダンファンスでしたか? 貴方、本校への転入の話を断ったというのは、本当ですの?」
食後の紅茶を飲んでいる時、コレットが唐突にそんな質問を口にした。
初耳だったので、俺は驚いてアミを見た。
「えーと……はい」
アミは気まずそうに頷く。
「いつの間に?」
「昨日、交流戦が終わった後に呼び出されて……」
「昨日の今日どころか、即日じゃん」
コレットの説明によると、本校は才能ある分校の生徒を見つけると、片っ端から声を掛けて本校への転入を勧めているらしい。青田刈りというやつだろうか?
「そんなことをされたら、交流戦で本校が勝つに決まってるじゃん」
「当然ですわ。本校は分校よりも、あらゆる面で環境が整っていますもの」
そもそも、交流戦の目的そのものが、将来有望な分校の生徒を引き抜いて、一人前の士官に育て上げるため、本校で英才教育を施すことらしい。
「じゃあ、お前も引き抜かれた口なのか?」
「私のことを「お前」と呼ぶのは、お止めなさい!」
無礼千万ですわ、と。
コレットは俺を一喝したが、ごほんと咳払いをして、質問には答えてくれた。やはり、良い奴のようだ。
「貴族は勧誘するまでもなく本校に進学するので、引き抜きの対象は自ずと平民が中心になりますわね」
「平民は、貴族の少ない分校の方に集まりやすいってことか。……アミが勧誘されたのって、やっぱり、昨日の二重詠唱が原因?」
「それ以外には考えられませんわね。――――で。アミ・ダンファンス。貴方はなぜ、本校への転入の話を断りましたの?」
閑話休題とばかりに、コレットはアミに踏み込んだ質問をする。
コレットからすれば、本校への転入は栄転なので、断る理由が思いつかないのだろう。
だが、この質問に対する答えはシンプルだ。アミは争いごとが嫌いであり、アカデミーを卒業した後も、軍に入る気が無いからである。
アミがまるで悪いことをした言い訳をするように、しどろもどろになりながら説明すると、コレットはしかめ面をして頷いた。
「そう……。勿体ないですわね。せっかく優れた才能をお持ちなのに」
「ごめんなさい……」
アミは意気消沈して、謝罪の言葉を口にする。
それを見て、コレットはゆっくりと首を横に振った。
「謝ることではありませんわ。争いごとが嫌いなのは、悪いことではありませんもの。他人から咎められる筋合いはありませんわ」
「……怒らないんですか?」
「ですから、私には貴方を咎める理由がありません」
意外そうな顔をするアミに、コレットは優しく言い聞かせるように説明する。
「そうですわね……。もし、貴方が特別な人間で、国や国民のために尽くすべき使命や責務を背負う立場であったなら、私は貴方を叱責していたと思います。でも、そうではない。貴方には自分を犠牲にしてまで、社会全体に尽くす責務は無いのです」
「お前にはあるのか?」
「当然ですわ。貴族ですもの」
コレットは自信満々に即答した。
「アミ・ダンファンス。貴方の平穏な暮らしは、この国の貴族である私たちが必ず守ってみせます。だから、ご安心なさい。貴方は、貴方自身が幸せになることを優先してよいのです」
最後の方は優しく諭すように告げると、コレットは伝票を持って立ち上がった。
「今日のこの偶然の出会いを記念して、ご馳走して差し上げますわ。今日一日、王都で過ごす時間が、貴方たちにとって素晴らしく、有意義なものになりますように」
ごきげんよう、と。
優雅に一礼すると、コレットは「決まりましたわ……」とドヤ顔で呟いて、颯爽とこの場を立ち去った。最後の呟きを聞かれてしまうところが、実にコレットらしいとも言える。
それはそれとして、アミはコレットの言葉に感銘を受けた様子で、黙り込んでいた。
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