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二重詠唱

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 何事かと思えば、観客の視線はすべて隣の試合場に向けられている。


 どうやら、俺の試合と同時に始まったアミの試合が、佳境を迎えているようだ。


 魔法部門の試合は実戦形式ではなく、自分の陣地にある的を魔法で守りつつ、相手の陣地にある的を魔法で攻撃する、的割り勝負になる。


 アミと対戦相手の生徒は、今まで一進一退の白熱した攻防を繰り広げていたようだが、遂に均衡が崩れて、アミの陣地にある的の一つが燃やされた。


 的は全部で五つ。すべての的を破壊されると負けになるが、自陣の的が減るということは、防御しやすくなるということでもあるため、魔法部門の試合は完全決着することは殆ど無く、壊した的の数で勝敗が決まることが多いらしい。


 アミは立て続けに二つ目の的も破壊されてしまい、このままでは敗色濃厚という展開だ。


 だが、ここでイレギュラーなことが起きた。


 アミが呪文を唱えると、なぜか対応する魔法が二つ同時に発動して、そのうちの一つが敵の防御をすり抜けて、的を破壊したのだ。


「二重詠唱が起きましたわね」


 俺の隣で観戦していたコレットが、しかめ面で呟く。


「それは何だ?」


「呪文を詠唱する際に、声が震えたり、割れたりすることで、同じ魔法が二つ同時に発動してしまうことですわ」


 要するに、緊張や焦りから、意図せず起きてしまうアクシデントのようなものらしい。


「二重詠唱が起きると慌ててしまい、魔法を制御できなくなることが多いのですけれど……。あの方は冷静に片方だけを操作して的を壊しましたわね」


「詳しいね」


「私、魔法も使えますもの」


 貴方とは違いますわ、と。


 コレットは得意げに鼻を鳴らした。


「いずれにしても、予期せぬアクシデントが起きて差が縮まったのですから、運が良かったと考えるべきでしょうね」


 だが、ここでまたしても予期せぬことが起きた。


 アミの魔法が、また二つ同時に発動したのだ。


「二回連続!?」


 コレットが驚愕に目を見開いて、目の前で起きている現象を注視する。


 しかも、二つ同時に発動した魔法は、それぞれが敵陣の的に向かって正確に飛んで行った。


 対戦相手である本校の生徒は、二つのうちの一つを迎撃するが、もう一つの魔法が的に命中し、壊した的の数は同じになった。


「まさか、狙って二重詠唱を起こせますの……?」


 あり得ない、と。


 コレットが呟いたところで時間切れとなり、勝負は引き分けに終わった。


 挨拶の後、試合を観戦していた多くの生徒がアミを取り囲み、最後に起きた二重詠唱の件について質問攻めにしていたが、アミは自分でもよく分かっていない様子で、愛想笑いを浮かべながら、あたふたとしていた。


「偶然……みたいですわね」


「そんなことあるの?」


「確率的には……ゼロではないですけれど」


 あるいは、先天的または後天的な理由で特殊な声帯を持っている者なら、通常よりも高い確率で二重詠唱が発動することはあるらしい。


「って、なんで私が貴方に説明しないといけませんの!?」


 敗北者は明日カフェで食べるパンケーキのことでも考えていろ、と。


 コレットは妙に具体的な捨て台詞を吐くと、不機嫌な様子でその場を立ち去ってしまった。

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