住む世界が違う
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
目が覚めた時、電気を点けていないのに、周囲はまだ明るかった。
てっきり、既に深夜になっていると思っていたのだが。
(もしかして、本当に暗くなる前に起きられたのか? 目覚ましも掛けていないのに?)
にわかには信じがたい話だ。
夕方までには起きるなんて、自堕落な生活を送っている自分に対する言い訳でしかない。
なにしろ、実際に暗くなる前に起きられたことなど、今までに一度も無いのだ。だいたいは夜に目が覚めて、暗闇の中、自転車をこいでコンビニまで夜食を買いに行くのが常である。
だが、今はまだ明るい。これは朗報だ。
ばっちり睡眠を取ったので睡魔は消え去り、明日まで時間はたっぷりある。
となれば、やることは一つ。
(ゲームをやるぞ)
俺は積み上げていた未プレイのゲームの山に手を伸ばそうと、体を起こした。
そこで、初めて自分がソファの上で眠っていたことに気が付いた。
「ん? ここ、どこだ?」
室内を見回すが、どこからどう見ても自分の部屋ではない。
広いし、綺麗だし、お洒落だし、全体的に白い。そして、何と言っても家賃が高そうだ。
「月十万……いや、二十万くらいか?」
月五万円のワンルームに住んでいる俺には、相場がまったく分からない。これが生活水準の違い――――俗に言う「住む世界が違う」というやつなのだろうか?
「金持ちなんだな……」
「お金持ちでごべんなざい……」
「――――え?」
突然、背中越しに声が聞こえてきたので、俺は後ろを振り返って、
「うわぁ!」
そして、仰天した。
髪の長い女性が、ソファのすぐ横で土下座していたからだ。
女性は顔を上げると、ほふく前進をするように俺ににじり寄り、足に縋りついた。
「お願いしばすぅ……。私を助げでくださいぃ……!」
しかも、号泣している。
「……は?」
「この哀れな雌豚を助げるどおぼってぇ……。もう、シノブさんじがいないんでずぅ……!」
「ちょっと!?」
俺はもう、驚きを通り越して、激しく混乱していた。
間違いなく、俺のニ十年弱の人生の中で最も「訳が分からない」事態だ。
ここはどこなのか?
この女性は何者なのか?
なぜ、俺の名前を知っているのか?
そして、なぜ、なりふり構わずに泣きついてくるのか?
確認したいことが、大渋滞を起こしてしまっている。
(どうする……って、順番に処理していくしかないよな)
幸いにも、目の前の女性からは害意を感じないので、身代金を要求された挙げ句、殺されるような事態にはならないだろう。油断は禁物だが。
「落ち着いて、顔を上げてください。いろいろと、説明してほしいんですけど」
「はいぃ……。何でも話しまずぅ……。今、紅茶をいればすから……」
そう言って、顔を上げた女性の鼻と俺の膝に、びろーんと鼻水のアーチが架かった。
「きたねーな!」
「ごべんなざい! ごべんなざいぃぃ!」
女性はティッシュでチーンと鼻をかむと、次に俺の膝を拭こうとした。
「同じティッシュを使うな!」
「ごべんなざいぃぃぃ!」
女性は平謝りしながら、その後もテーブルに足の小指をぶつけたり、ティーカップを床に落として割ったり、紅茶を零したり、角砂糖を勝手に四つも入れたり――――多くの粗相を繰り返して、なんとか落ち着いて話せる状況になるまでに、数十分もかかった。
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