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見捨てるという選択肢は無い

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 重い衝撃。


 直後に、振り下ろされた剣の切っ先が、俺の腹を突き抜けて、背中から飛び出した。


 不思議なことに痛みはあまり感じない。きっと、アドレナリンが異常なほど大量に分泌されているのだろう。傷口からは痛みではなく、むしろ熱さを感じた。


 ああ、これは致命傷だな、と。


 酷く冷静に、分析することができた。


 ごぼり、と。


 逆流した血が、口から溢れ出る。


「シノブ!?」


 背中越しに、アミの声が聞こえた。


 俺は唾液の代わりに血を飲み込んで、できるだけ穏やかな声で、アミに告げた。


「アミ、逃げるんだ……。アカデミーまで……」


 せめてアミだけでも生き延びてくれ、と。


 息も絶え絶えに、希望を託すのが精一杯だった。


 ――――見捨てられなかった。


 何が起きても生き残る覚悟をしていたはずなのに、行動に移せなかった。


 大局的な判断よりも、目の前の感情を優先させてしまった。


 ……でも、まあ、これでいい。


 これはこれで、正解なのだ。


 絶体絶命のピンチに、ヒロインを見捨てて自分だけ助かろうとするギャルゲーの主人公など存在するはずがないのだから。


「おい……」


 目の前で剣を握りしめている獣人の兵士を、俺は睨み付けた。


「次は……お前の思い通りにはならないからな……。今回は……引き分けで勘弁してやる」


「引き分けだと……?」


 獣人の兵士の顔が、強張った。どう見ても致命傷を負っている俺が、薄笑いを浮かべながら意味不明なことを口走っていることに、僅かに恐怖を感じているようだ。


「引き分けっていうのはな……。――――こういうことだよ」


 そう言うと同時に、俺はラップから受け取った短剣を鞘から抜き取り、獣人の兵士の首に突き立てた。

 渾身の力で刺し貫き、手首を回転させて捻る。


 ラップに言われたとおり、一切、躊躇はしなかった。


     *


「シノブ! シノブ! しっかりして!」


 獣人の兵士を道連れにして、地面に崩れ落ちた俺の顔を、アミが泣きはらした顔で上から覗き込む。涙がポタポタと、俺の頬に降り注いだ。


「アミ、ごめん……。最後まで……守ってやれなくて……」


「守ってくれたよ! シノブが助けてくれなかったら……!」


「アカデミーに……早く、避難を……」


「嫌だよ! お父さんも、お母さんも、シノブも、置き去りになんかできない!」


 アミは聞き分けの無い子供のように、いやいやと首を振った。


 ――――困った。


 このままここにいたら、また敵兵に見つかってしまう。


 それでは、俺のしたことは、アミを庇って先に死んだだけ。死ぬ順番を入れ替えただけの、ただの自己満足になってしまう。


 アミには生きてほしい。生き延びてほしいが――――


 その考え方こそが、先に死んでいく側の、押し付けなのではないかとも思う。


 仮に、アミが生き延びたとして、この先、どうすればよいのか?


 幸せな人生を送れるのか?


 両親を失って、天涯孤独になって、心に深い傷を負ったまま、一人で生きていかなければならないのではないか?


 世界がループしていることを知らないアミにとって、それは生き地獄のようなものだ。


 俺が、もっと上手く立ち回れていたら。


 きちんと対策を講じていたら。


 何より、もっと強かったら。


 こんな結末にはならなかったはずなのに。


 ――――ごめん。ごめんな。


 俺は何度も謝りながら、ゆっくりと目を閉じた。


 もう、全身に力が入らない。さっきまで傷口が熱かったのに、今は全身が冷たい。


 目を閉じた俺が最後に聞いたのは、遠くから駆け寄ってくるラップの声だった。


 ラップか。生きていたんだな。約束を守れなくてごめん。


 アミのことを――――頼む。


 最後に心の底から願って、俺は意識を手放した。

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