Xデー
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次回の更新は明後日です。
Xデー。
過去の周回で、俺と兄貴が何度も命を落としたと思われる運命の日の朝。
異変は目が覚めると同時に始まっていた。
(朝……朝か?)
外はまだ暗い。窓を開けて外を見ると、遠くの空が薄紫色に染まっている。どうやら、夜明け直前のマジックアワーやゴールデンアワーと呼ばれる時間帯のようだ。
そして、俺が「異変」を感じた理由は、町全体を包む喧騒だ。明らかに早朝の騒がしさではない。まるで、町のどこかで祭りやイベントでも開催されているような――――
「シノブ!」
俺が窓から顔を出して、そんなことを考えていると、不意に横から声を掛けられた。
振り返ると、ラップが息を切らして、こちらに駆け寄ってくる。
「おはよう」
「挨拶なんかしている場合か! さっさと逃げる準備をしろ!」
物凄い剣幕だ。良く見ると、ラップは腰に訓練用ではない本物の剣をぶら下げていた。
「どうした? 何があった?」
さすがにただ事ではないと察して、俺が尋ねると、ラップは信じがたいことを口にした。
「奇襲だ! 獣人国が攻めてきた!」
「は?」
一瞬、頭が真っ白になる。
それは、あり得ない。獣人の国と、人間の国と、エルフの国は、魔王軍との戦争で共闘しているのだ。三つの国が協力して、やっと戦線を膠着させている状態。それなのに、仲間割れなど起こしたら、戦線が一気に崩壊する恐れがある。
それは、魔王軍を利する行為であり、結果的に自分の首を絞めることになってしまう。
だから、普通に考えればあり得ない。
あり得るとすれば――――
「獣人国が魔王軍に寝返ったってことか!?」
「そんなの知らねーよ! いいから、さっさと外に出てこい!」
俺が唯一の(そして最悪の)可能性について言及すると、ラップは考えたくないと言わんばかりに激しく首を振って、俺を怒鳴りつけた。
「もう、町の西側は酷い状態だ! あいつら、女も子供も関係なく、手当たり次第に攻撃してくるぞ! お前もさっさと避難しろ! アカデミーに行けば、教官たちもいる!」
「アミは? 隣の家にアミが……」
「A組のアミ・ダンファンスなら、さっき、家族と一緒に避難した! 彼女もお前と同じことを言っていたから、俺が代わりにやってきたんだ!」
だから、さっさと後を追い掛けろ! と。
ラップはアカデミーの方角を指さして言いながら、俺に短剣を差し出してきた。
「お前、武器は持ってるか? 無いなら、これを持っていけ。訓練とは違うからな。生き残りたければ、やられる前にやるんだ。躊躇するな」
ラップの差し出した短剣を受け取る。短剣なのに、訓練用の木剣よりもずっしりと重い。
「お前は? どうするんだ?」
「俺は逃げ遅れている人がいないか、声を掛けて回る」
「そんなことしたら、お前が危ないだろ!」
獣人国の兵士だって、何も考えずに町を徘徊しているわけではないのだ。大声で避難誘導などしていたら、敵が集まってきてしまう。
「一緒に逃げよう。学生の俺たちが、そこまで危険を冒す必要は無いだろ」
「ばーか」
俺の言葉を、ラップは鼻で笑って一蹴した。
「俺はこの町の町長の息子だぞ? まだ逃げ遅れている人がいるかもしれないのに、真っ先に俺が避難するわけにはいかねーよ。親父の顔に泥を塗ることになるからな」
「……何だよ、それ」
俺は感情を押し殺すように、受け取った短剣の鞘をぎゅっと握りしめた。
そんなの、強がりに決まっている。
ラップは、俺より強いかもしれないが、それでも、やはりB組の生徒なのだ。A組の生徒や訓練された兵士と戦って、勝てるとは思えない。
だが、俺はラップの言葉を、否定することはできなかった。
ラップが自分から「俺は町長の息子だ」と口にするところを、俺は初めて聞いたからだ。
自尊心を満たすためではなく。
権力を笠に着るためでもなく。
責任を背負うために、その言葉を口にするのか。お前は。
「……馬鹿野郎。カッコつけてんじゃねーぞ」
「何、言ってんだ。俺は普通にカッコいいんだよ」
ラップは口角をつり上げて不敵に微笑み、俺に背中を向けた。
「……シノブ。生き残ろうぜ、お互いに」
「そうだな。後で、アカデミーで合流しよう」
ラップの言葉に、俺は力強く頷いた。
そうだ――――こんな理不尽な強制イベントで死んでたまるか。
生き残るために、今日まで努力を積み重ねてきたのだ。
覚悟と心構えなら、最初からできている。
(絶対に生きて、プリムラの部屋に情報を持ち帰ってやる……)
――――たとえ、何が起きようとも。
誰かの命を奪い、見捨てることになろうとも。自分が生き残ることが最優先だ。
俺は決意を新たにすると、家を飛び出して、アカデミーの方角に駆け出した。
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