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失踪事件

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「親父から聞いた話だから、口外するなよ? どうやら、山に人買いグループが潜伏しているらしい」


「は!?」


「デカい声を出すな。まだ、そういう噂があるというだけだ。真偽は定かじゃない」


 だが、もしも、その噂が本当なら、町の中でも絶対に安全とは言えなくなる。町で滑落することは無くても、人買いグループが山から下りてくることはあり得るからだ。


(だから、さっき、早く帰れって言ったのか。……女子に言えばモテるのに)


 なぜ、男の俺にさりげない優しさを発揮してしまうのだろうか? 不憫な奴だ。


 だが、それはそれとして、この情報はもう少し詳しく知る必要があるだろう。


「人買いグループが山にいて、山に入った人たちを攫っているってことか?」


「噂が本当なら、その可能性はある」


「攫われた人はどうなる?」


「奴隷として売られるんじゃないか? 人買いって、そういうものだろ」


 ラップは当然のように、奴隷という言葉を口にした。


 現代の地球(特に平和な日本)から転移している俺にとっては違和感しかないが、この世界にはまだ奴隷市場というものが存在する。口減らしの目的や、あるいは借金のかたとして、人間が合法的に売り買いされているのだ。


「でも、さすがに犯罪だよな?」


「当たり前だ。やっていることは、人買いじゃなくて、人攫いだからな」


 買うのではなく攫うのであれば、ただで商品を仕入れることができるので、ぼろ儲けができるということらしい。


「許せねーな。そいつらのアジトを探して、壊滅させようぜ」


「お前、弱いくせに血の気が多すぎるんだよ。絶対に止めろ。教官たちの仕事を増やすな」


「教官?」


 俺がペダルの顔を思い浮かべながら尋ねると、ラップはしまったと言わんばかりに顔をしかめて、耳打ちでこっそりと機密情報を教えてくれた。


「誰にも言うなよ? 実は、アカデミーの生徒からも行方不明者が出たから、今度、分校の教官たちを筆頭に有志を募って、捜索を兼ねた山狩りをすることになったんだ」


 山の中を捜索して、もし、行方不明者を発見できたら救助し、人買いグループを発見したら戦闘になるかもしれないらしい。


「じゃあ、俺たちも山狩りに参加しようぜ」


「ばーか。有志とはいえ、軍の兵士も参加するんだぞ。交流戦で優勝するような剣の腕前ならともかく、選抜試合にも勝ち残れない俺たちの出る幕じゃねーよ」


 足を引っ張るだけだからおとなしくしていろ、と。


 ラップは憮然とした表情で、自分に言い聞かせるように呟いた。ラップなりに、何もできないことに対する不甲斐なさや、無力感のようなものを感じているのかもしれない。


「それにしても、町長の息子だけあって情報通だな」


「絶対に口外するなよ? 情報が漏れたら、真っ先に俺が疑われるんだからな」


 知らなければ毎日を気楽に過ごせるのに、知ってしまったら、心配せずにはいられない。


 ――――でも、何もできない。


 ラップからすれば、父親経由で次から次へと機密情報が耳に入ってくる今の状況は、決して良いものではないのだろう。


(口外されるのが嫌なら、俺にも教えなければいいのに)


 心の中ではそう思うが、あえて、それを指摘するような真似はしない。今後もラップには、ただで機密情報を教えてくれる情報屋であり続けてほしいからだ。


「アカデミーの生徒にも行方不明者が出ているって、本当か?」


「本当だよ。……まあ、これは話してもいいか。ちょっと調べれば、分かることだし」


 そう言って、ラップは行方不明になっている生徒の名前を教えてくれた。


 ――――知り合いでなければ。


 ――――出会ってさえいなければ。


 それは、人名以上の意味を持たない、単なる記号でしかなかったのだろう。


 だが、結果的に俺は、この日一番の衝撃を受けた。


「うちの――――B組のクランさんが、三日前から家に帰っていないらしい」

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