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固定イベント

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 それからは、特に大きなイベントは起きなかった。


 未来はほんの些細なことの積み重ねで変わってしまうらしく、既に俺や兄貴が過去の周回でノートに書き残した内容が、未来予知の預言書として機能することは無くなっている。


 ただ、個人の行動で変えることができるのは、殆どの場合、日常の枝葉の部分だけだ。例えば、雨が降る前日に新しい傘を買っておけば、翌日はその傘を差して外出するようになるという、その程度のことだけである。


 そして、世の中には、個人の行動では覆すことのできない奔流――――大きな流れのようなものがある。ゲームでいうところの固定(強制)イベントというやつだ。


 ある日の放課後、アカデミーに残ってラップと実戦訓練リターンマッチともいうをしていた俺は、連敗の自己新記録を更新したところで、ラップからそのことを知らされた。


    *


「せい!」


「ぐっ!」


 肩口に痛みが走る。


 布を巻きつけてあるため衝撃は緩和されているはずだし、ラップも手加減してくれていると思うのだが、それでも痛いものは痛い。


 相手の動きをよく見ようとして消極的になったところで、攻勢に出られてしまい、そのまま押し切られてしまった。


(自分より強い相手には、冷静になって考える余裕を与えたら、もう勝てないな)


 これなら、勢いに任せてゴリ押ししていた時の方が、まだ勝機があったような気がする。


 とはいえ、攻め一辺倒になっても捌き切られてしまうし、守勢に回れば押し切られてしまうのが現状。押すにしても、引くにしても、まだ圧倒的に経験値が足りないのだ。


(こいつもこいつで、最近は真面目に訓練を受けているみたいだし)


 選抜試合以来、クラン曰く「真面目に訓練を受けていない」はずだったラップは、すっかり改心して、真面目に訓練を受けるようになったらしい。おかげで、俺がどんなに努力しても、実力差は縮まらないままなのだ。


「もう一回だ。なんか、極意を掴みかけている気がする。そろそろ、お前には踏み台になってもらうぞ」

「さっきも同じことを言っていただろ。悪いが、今日はもう終わりだ。お前も暗くなる前に、早く家に帰れ」


 ラップは水筒の水を一口飲んで汗を拭くと、訓練の終了を告げた。


「なんだよ。ちょうど自分が勝ったところで終わりにするつもりか?」


「勝ったり負けたりしているみたいな言い方はやめろ! お前、通算ゼロ勝だろ。選抜試合の時から、現在進行形で俺に連敗中だからな」


 これが実戦なら、お前はもう何度も死んでいるぞ、と。


 ラップは珍しく冷静な口調で挑発を一蹴すると、俺から訓練用の木剣を没収して、さっさと片付けてしまった。


「最近、町の北にある山に出かけた人たちが、帰ってこない事件が多発している。用心するに越したことはない」


「ああ、遭難事件か」


 それに関しては、兄貴もノートに書いていたし、俺も過去の周回で書き留めていた。


 毎回、同じ事件が起きているということは、いずれの周回でも、同じ人が、同じ理由で山に行き、そして、同じように遭難しているのだろう。アセビの町の北にある山では、春から秋にかけて山菜や薬草が豊富に採れるため、ピクニック感覚で山に入る人が大勢いるのだ。


(そういえば、遭難事件の顛末についてはノートに書いてなかったな)


 それに、単発ではなく、多発しているというのも初耳だ。少なくとも、遭難したのは一人ではないらしい。


「山に遭難しやすい場所でもあるのか?」


「絶対に無いとは言い切れないけど……。それでも、雪の残っていない春の山で、立て続けに何人も遭難するのは不自然だな」


 ラップの物言いは、まるで行方不明者が多発している原因が、山で遭難したからではないと確信しているようだった。


「何か知っているのか?」


 滑落などが原因でないとしたら、熊などによる獣害だろうか?


 ラップは周囲に人がいないことを確認すると、驚愕の事実を口にした。

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