強くてニューゲーム
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
(……でもまあ、そういうことなら、気にする必要は無いのか)
幸いなことに、プリムラの発言の信憑性については、兄貴の存在が担保してくれている。現実の世界で兄貴が十年間も行方不明になったことは無いのだから、兄貴はきっと無限ループを三周した後、ギブアップして「元の時間軸」に戻れたのだ。
「とにかく、やってみるしかないってことか……。なんとかして、前の周回の死因だけでも調べないとなぁ」
そうやって、一つずつでもいいから対策を練り、不安要素を取り除いていかないと、何回もデッドエンドを繰り返すことになってしまう。同じ轍を踏んで死亡を繰り返すなど、はっきり言って死に損であり、時間の無駄だ。
もっとも、ループする際に、記憶にリセットがかかってしまうのは、デメリットばかりではない。覚えていないからこそ、怖いもの知らずでいられるのだ。死ぬときの記憶を保持したまま何回もループするのは、多分、精神が持たないだろう。
(となると、問題は……)
個人の力ではどうすることもできない原因で、死亡したケースだろう。
強盗に殺されるのなら、家を留守にしておけばいい。
馬に蹴られて死ぬのなら、馬車に近づかないようにすればいい。
でも、大規模な自然災害に巻き込まれたり、俺に個人的な恨みを持つ者に殺されたりするのであれば、デッドエンドを回避するのは困難になる。
(強くなるにしても、一年弱の期間じゃ限界があるし……)
どんなに効率よく鍛えたところで、ループしたらまた一からやり直しなのだ。死ぬ度に振り出しに戻ってしまうと考えると、すべてが不毛な努力に思えてしまう。
「何か、無いんですか? その……主人公の恩恵というか、神様の加護というか、チート能力的なものは」
「ありますよ」
「え?」
プリムラがあっさり頷いたので、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あるんですか?」
「はい。私、シノブさんを通じて世界を観測しているので、お互いの存在がリンクしているというか、互いに影響を及ぼし合っているんです。その結果、私のおかげでシノブさんは大きな恩恵を受けられているんですよ」
「それはいったい?」
「現状維持の力です」
プリムラの説明によると、主人公である俺は、プリムラのおかげで「ちょっと特殊」なこの部屋の恩恵を受けられているらしい。
つまり、今の俺は、どんなに時間が経過しても肉体的な劣化が起こらない状態。
「ループが起きても、鍛えて強くなった分はそのままということですか?」
「そうです。記憶にはリセットが掛かっても、強さにはリセットが掛からなくなっています」
「強くてニューゲームじゃん」
それは、クリアするために膨大な時間を要するRPGで、周回プレイを快適にするためのご褒美的な要素だ。クリア時の強さで最初からゲームを始めることができるため、RPGで最も時間を浪費するレベル上げの手間を省略できるのである。
何はともあれ、強くてニューゲームができるのであれば、すべての前提が覆るので、話は変わってくる。とにかく、暇さえあれば体を鍛えておけばよいのだ。たとえ、その周回で死んでしまったとしても、鍛えた時間は無駄にならないのだから。
「ちなみに、私がループの影響を受けてしまうのも、多分、シノブさんとリンクしているからなんですよね」
「そう考えると一長一短なんですね」
ただ、それについては我慢してもらうしかないだろう。強くてニューゲームの恩恵があるのと無いのとでは、攻略難易度が雲泥の差だ。
「取りあえず、そのままでお願いします」
「分かりました。無限ループの原因究明、お願いします」
俺はプリムラに頭を下げられて、ループする世界に転移した。
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