お助けキャラ
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「……プリムラって?」
「あ、私のことです」
俺が何気なく発した言葉に、女性が素早く反応した。
「本名は、プリムラ・マラコイデス・ジュリアン・シネンシス・オブコニカなんですけど」
「長すぎる」
「長かったらプリムラでも、プリムでも、プーちゃんでも、好きなように呼んでください」
「……」
それはそれで、神様としての威厳が無さすぎて、どうかと思う。
「……じゃあ、プリムラで」
「あらあら。シノブさんは親しくなった女の子を、下の名前で呼んじゃう派なんですか?」
「……」
「痛い痛い痛い! 調子に乗ってごべんなざい!」
イラっとしたので、無言で頬をつねると、兄貴曰く「話し掛けるのも躊躇してしまうほど容姿の綺麗な女性」ことプリムラは、情けない声をあげて謝罪した。
(なるほど……こういうキャラか)
感情の浮き沈みが激しく、繊細であるかのように見えるものの、実は厚かましくて図々しい性格をしているため、最終的に「雑に扱っても大丈夫」となるキャラ。
こういうキャラは、同性の友人枠であることが多いが、ゲームにも登場する。雑に扱うことができるため、いなくても困らないし、いたらいたで役に立つし、何かと便利なキャラだ。
「お助けキャラのポジションなんですね」
「え? 何のことですか?」
「いえ、別に……」
不思議そうに首を傾げるプリムラから目を逸らして、俺は兄貴からの手紙を見た。
(さて。どうしたものかな……)
根拠の無い与太話に付き合うつもりで話を聞いていたのに、兄貴の手紙が出てきたことで、笑い飛ばすことができなくなってしまった。
兄貴の字に関してだけは、俺は筆跡鑑定と同じレベルで判定することができる。
そして、断言するが、この手紙に書かれている文字は兄貴の文字で間違いない。
更に言えば、兄貴はこんなことで嘘はつかない。誰かの片棒を担ぐこともしない。
要するに、プリムラが言っていることは、すべて本当なのだ。
困った。信じるしかなくなってしまった。
「幾つか聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「何でしょう? 聞きたかった三つのことには、すべてお答えしたと思うんですけど」
「今度はもっと実務的なことです」
俺は要点をまとめて、プリムラに確認したいことを指折り数えた。
「まず、俺は別人として、その世界に入るんですか?」
「いえ。あくまでも「主人公枠」なので、天堂シノブさんのまま転移していただきます。あちらの世界では「シノブ・テンドー」になると思いますが。勿論、ご家族の苗字もテンドーに変わりますよ」
「……ちなみに、言葉は?」
「日本語で大丈夫です」
プリムラは何でもないことのように答えたが、これはトンでもないことだ。
(現実を改変してる……)
さすがはギャルゲーの神様と言ったところだろうか? すべてが主人公にとって、都合良く書き換えられてしまうようだ。
「いっそのこと、ギャルゲー担当の神様の力を使って、問題を解決できないんですか?」
「この力は、主人公であるシノブさんを、違和感なく世界に送り込むためのものなので、それ以上のことはできないんです」
「そこを何とか」
「無理ですよぉ……。そんなことができたら、とっくにやっていますもん」
(まあ、それはそうか)
言葉の壁が無い状態でスタートできるだけでも、ありがたいと思うべきなのだろう。
「それじゃ、兄貴の残したノートって、ありますか?」
「はい。お預かりしています」
プリムラは頷くと、本棚に移動して、数冊のノートを手に取って戻ってきた。
「これが、ジュンさんが書いた攻略日誌です」
ノートを受け取り、パラパラとめくってみる。さすがは兄貴だ。その日に起きた出来事と、それに対する考察が事細かに記載してある。
「ん?」
俺はその中の一文に目を付けた。
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