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不思議な少女と狂った世界

「お前……その腕、黒い線が出てるじゃないか」

綾華の左手のひらには、隼人の父親と同じ――いや、それ以上に濃く、禍々しくうねる黒い線がハッキリと浮かび上がっていた。血消病の末期症状だ。発症すれば1ヶ月で死に至るこの病において、彼女の呼吸はすでに浅く、一刻を争う状態だった。

「わ、私に構わないで……! 早く逃げて、あなたまで捕まっちゃう……」

「うるせぇ。ここで見捨てたら、俺が親父を見殺しにしたのと変わらねぇだろ」

隼人はポケットから、父親が命と引き換えに残してくれた小さなケースを取り出した。

――『キャンディ』。一粒十万円、病の進行を1ヶ月だけ抑える奇跡のカプセル錠剤。

自分の命をつなぐための唯一の生命線。だが、目の前で震える少女を前にして、迷いはなかった。隼人はシートからカプセルを押し出すと、綾華の口元へと差し出した。

「ほら、口開けろ。これ飲めば、少しは楽になるはずだ」

「……これ、高価な……! そんなの、もったいない……!」

「いいから黙って飲め!」

半ば無理やり綾華の口にカプセルを含ませ、ポケットから取り出した水筒の水を飲ませる。カプセルが喉を通り過ぎてしばらくすると、綾華の荒かった呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻していった。手のひらの黒い線の広がりも、ピタリと止まる。

「……はぁ、息が……できる……」

「よかった……。で、お前いったい何者なんだ? さっきから追われてるみたいだが」

息を吹き返した綾華は、周囲を怯えた目で警戒しながら、小さく震える声で語り始めた。

「私……沢城綾華は、ずっと政府の研究所に隔離されてたの。……血消病の感染者が爆発的に増えたとき、世界中の研究者が特効薬を探した。その過程で、偶然見つかったのが……私の体だったの」

綾華が袖を少しめくると、そこには無数の注射痕と、痛々しい採血の跡が残っていた。

「私の血は……この病の進行を抑えるどころか、完全にウイルスを死滅させる『本物の特効薬』になり得るって、研究員たちが言ってたの。突然変異で生まれた、奇跡の血液だって……」

――突然変異。血消病の特効薬。

その言葉を聞いた瞬間、隼人の背筋にぞっと冷たいものが走った。

世界人口の9割が感染し、人類が緩やかな絶滅へ向かっているこの世界で、「病を完全に治せる血を持つ人間」が何を意味するか。それは、人類の救世主であると同時に、世界中の権力者や富豪たちから狙われる、最も危険な「生きた金庫」であることを意味していた。

「政府や特急部隊が血眼になって探してるのは……私なの。私一人の血があれば、莫大な利権が手に入るから……」

「ふざけやがって……。人間を治療薬扱いしてやがるのかよ」

血金券の社会ですら狂っていると思っていたが、その裏で政府すら絡んだ、さらに巨大な狂気がこの少女を追っていたのだ。

「……ねえ。私、もうあんな実験室に戻りたくない。殺されるか、道具として血を吸い尽くされるだけの人生なんて、絶対に嫌……!」

綾華の瞳から、また一筋の涙がこぼれ落ちる。その雫は、やはり眩い黄金の輝きを放ちながら地面に落ちた。

遠くで、再びけたたましい特務部隊の警笛と、足音が近づいてきた。このエリアの包囲網が狭まっている。

「立てるか、綾華?」

「うん……!」

「行くぞ。ここから北にあるって噂の『安住の地』へ、死にもの狂いで逃げ切るんだ」

最底辺の血液等級5の少年と、世界を揺るがす黄金の血を持つ少女。

追う政府、追われる逃亡者。1日毎に生死の線引きが厳しくなる、命がけの逃避行が本格的に動き出した。

最後までみて頂きありがとうございます!

初心者ですので書き方などはまだ勉強中ですので頑張っていきます

よければどんな感想でもいいのでお願いします

参考にさせて頂きます

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