無価値の紙幣
「おい!親父なにやってんだよ!もったいねーだろ」
「あぁ隼人起きたか 今朝な世界経済は崩壊して金の価値がなくなってしまったんだってよ。もちろん日本円も無価値。こんな紙切れもう意味ないんだ」
勤勉だった父親は自分で稼いだ金が一瞬で無価値になり紙幣を燃やしながら涙で頬を濡らした。
隼人は言葉を失った。庭のドラム缶から立ち上る煙のなかで、札束が無残に灰へと変わっていく。一昨日まで「受験勉強をしろ」と小言を言っていた父親の目は、どこか虚ろで、人間の尊厳の糸がプツリと切れた音を聞いた気がした。
だが、驚きはそれだけではなかった。
「……父さん、その手のひら」
父親が左手をかばうように引っこ込めた。しかし、薄暗い庭の光の中でもそれははっきりと見えた。手のひらの中心から手首にかけて、不気味に這う一本の黒い線。
「……もう、遅かったんだよ。昨日の夜から、指先の感覚がなくてな」
「嘘だろ……血消病……?」
未知の病――血消病。感染すれば体内の血液が徐々に薄まり、全身の機能が失われて早ければ1ヶ月で死に至る。世界人口の9割以上が発症したと言われるこの悪夢が、ついに目の前の家族を蝕んでいた。
父親は掠れた声で笑い、立ち上がると家の中から古びた手帳と、1つのPTPシートに入った小さなカプセル錠剤を取り出した。
「これを持っていけ。……お前だけは、生き延びるんだ」
「なんなんだよこれ……!」
「『キャンディ』だ。医者をしている知人から、全財産をはたいて手に入れた。この一粒で、病の進行を1ヶ月だけ抑えられる……だが、一粒十万円だ。今の俺たちには、もうこれしか買えん」
父親は隼人の胸元にキャンディのカプセルを押し付けると、ふらりと家の中へと戻っていった。
それから数分後、家の中で乾いた音が響いた。
――パーン。
「父さん……っ!」
隼人が飛び込んだとき、すでに父親の姿は冷たくなっていた。絶望の果ての選択だった。遺されたのは、灰になった紙幣と、十万円の価値を持つひとつの「キャンディ(カプセル)」、そして――。
最後までみて頂きありがとうございます!
初心者ですので書き方などはまだ勉強中ですので頑張っていきます
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