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レクシア -de quodam lexicone fabula-  作者: Nekke
第2章 ルーメル編
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0032 逃走

 私は、カイルに手を引かれて路地裏を歩いていた。

 速い。同年代だとは思えない速さだ。これでも速度は遅めに走ってくれてるんだろうけど、それでもだ。

 石畳を蹴る音が、短く響く。

 何度も角を曲がり、人通りの少ない道を選び続ける。その動きに、迷いはほとんど無かった。ひょっとして、こういうの慣れてるのかな?


「……カイル、ちょっと速いんだけど、どこまで行くの?」

「東の城壁へ。できるだけ速く行って、神殿騎士を撒く」

 前へ走りながら、カイルは答える。

「城壁?」

「城門は待ち伏せされてるかもしれないから」

 なるほど、確かに待ち伏せは間違いなくあるだろう。

「ルーメルの城壁は確かに高い。けど、抜け道を通ればいいだけだ」

「へえ…なんで知ってるの?」

「たまたま見つけたんだ」

 そうだったのか…。運が良かったのかも。私も追われやすい体質な気がするから、気をつけておこう。


 そう考えていた矢先、背後で突然花火が打ち上がる時のような音が聞こえた。

 振り返ると、ギルドの方から打ち上げられた光が空中で爆ぜ、大きな音と共に、昼間でも目立つ明るい光を放っていた。

「増援要請か。ギルドの方だ」

「そうなの?」

「ああ。3人は、うまくヘイトを買ってくれてるみたいだ。今のうちに逃げよう」


 その時だった。目の前から、急に白い鎧とマントが見えた。…神殿騎士だ。

「いたぞ!」

 騎士の一人がこちらを指差す。

 まずい。反射的に足を止めそうになるが、カイルは止まらなかった。

「突っ切るぞ」


 そう言って、騎士がいる方へと走っていく。神殿騎士は3人。剣を抜きながら一斉に距離を詰めてくる。

「抵抗するな!」

「その少女を引き渡せ!」

 その声を聞きながら、カイルは腰の剣へ手を伸ばす。

 次の瞬間、大きく踏み込んで先頭の騎士の懐に入った。

「なっーー」

 騎士が反応するより早く、鳩尾へ斬撃が刻まれる。

「ぐふっ」

 深手を負った騎士は、耐えきれず地面へ崩れ落ちた。


 さらに続けて、横から剣が振るわれる。

 カイルは最小限の動きで身をかわし、その手首を掴む。そのまま体を捻って、側にあった木箱へと騎士を投げた。


「早く、こっちに!」

 カイルに呼ばれて、慌てて駆け出す。

 騎士たちは追いかけてくることはなかった。どうやら、傷ついた騎士を回復しているようだ。

「……強いんだね、カイルは」

 走りながら思わず呟く。流石は『勇者の卵』だ。

「そんなにでもない。勇者の卵の中だったら、普通ぐらいだ」

 …そっか。というか、勇者の卵って何人かいるんだよね。まだカイル一人としか会ってないから、実感は湧かないけど。


 それからしばらく、二人で路地を走る。

 背後から追手の気配は感じない。けれど、安心できるほど離せた訳でもないらしく、カイルは一度も速度を落とさなかった。

「なあ、レクシア」

 不意に、カイルの方から話しかけてきた。

「どうしたの?」

「お前は、神殿の連中に追われてるみたいだけどさ…、一体どういう理由で追われてるんだ?」

 …追われてる理由か。正直、心当たりが多すぎて特定できないんだよね。


①偽装を見破られ、魔物であることがバレた

②聖女を【探識】したのがバレた

③ノーモスさんの図書館に関係しているのがバレた


 この辺りの可能性が高い。まず、①は恐らく無い。…と信じる。

 そしたら次に、あの神官の話の内容から、②と③の可能性が高い。

 でも、②は分かるけど、どうして③が理由で追われるんだろう?グランディス家の人たちも、あの図書館を「禁書庫」って呼んでたけど、私が見た限りではそこまで重要そうな本は無かったような気がする。


 まあ、ここまでを統合して、答えとしては……

「禁書庫に、関わってるからかな」

「…そうか」

 再び、路地裏に静寂が訪れる。二人は黙々と、走り続けた。


 しばらく走っていると、城壁の真下にたどり着いた。

「抜け道はここから右にある。あともう少しだ」

 城壁は、少なくとも10メートル以上はあり、真下から見ると圧巻の光景だった。灰色の石が何十段も積み上げられ、そこらの建物とは比べ物にならない高さまで続いている。

 さらに通路を曲がり、壁沿いに走る。後少しで出られるという高揚感が、二人を支配していた。


 だが、その時だった。

「……間に合わなかったか」

 不意に、カイルが足を止める。その視線の先には、白い鎧の騎士たちが並んでいた。

 振り返ると、後ろにも同じように白い鎧の姿が見える。…完全に、包囲された。

「包囲したぞ!」

「気を緩めるな!茶髪のほうは、なかなか手強いぞ!」

 さっき倒した騎士がそう叫ぶのが聞こえる。騎士たちは、徐々に包囲網を縮めていく。

「くそっ、どうしてここで!」

 そう言って、カイルも空を仰ぎ見る。前と後ろからは神殿騎士、横には高い城壁。逃げられそうもない。


 その時だった。カイルが不意に何か閃いたような顔を見せ、こちらを向いて言った。

「なあ、お前、風属性は使えるのか」

「使えるけど……それがどうしたの?」

「ああ、少し…空を飛ぼうと思ってな」


「は?」

 思わず間の抜けた声が出た。

「空を飛ぶって……」

「そのままの意味だ。空を、飛ぶんだ」

 カイルは真顔だった。

 神殿騎士たちも、一瞬だけ動きを止める。

「何を馬鹿なことを言っている!」

「追い詰められて気でも狂ったか!」

 騎士の一人が叫ぶ。私も同意見だ。


「風属性は使えるんだろ?」

「使えるけど……」

「じゃあ、大丈夫だ」

 何が大丈夫なんだろう。嫌な予感しかしない。


 カイルは剣を鞘へ戻すと、ゆっくりと城壁を見上げた。

「高さは12メルトくらいか」

「そんなの登れるわけ……」

 そこで言葉が止まる。

 カイルの足元から、淡い光が溢れ始めていた。それは、魔力だった…でも、普通の魔力ではない。


「それって……」

「身体強化だ。短時間しか続かないから、一発で決めてくれ」

「決めるって、何を…」

「俺を上に飛ばせ」

「え?」

「城壁の上まで」

 12メルト…日本で言うと三、四階建てくらいの高さだ。

「できる範囲でいい」

 カイルはそう言って、私の目をしっかりと見る。

「後は俺がなんとかするから」

 その目は本気だった。


 後ろでは、神殿騎士たちが迫ってきていた。

「確保しろ!」

「逃すな!」

 もう、迷っている時間はない。私は深く息を吸った。

 風属性生活魔法、ブリーズのページを開く。

 本来は涼しい風を起こすだけの魔法…でも、魔法は使い方次第だ。


 ページにひたすら、魔力を込めていく。イメージするのは風。この魔法で、カイルが空を飛んでいるところをイメージする。

「ブリーズッ!」

 爆発のような突風が生まれ、カイルの身体が一気に空へ打ち上がる。

 だが、道半ばで城壁の上までは届かなかった。…だが。

「はあっ!」

 カイルは壁を蹴った。一度。二度。そして、三度。信じられない勢いで石壁を駆け上がる。

「なっ……!」

 騎士たちが絶句するのを尻目に、カイルの手が城壁の縁を掴んだ。

「レクシア!」

 上から声が飛ぶ。

 次の瞬間、一本のロープが投げ下ろされた。

「捕まれ!」

「…うん!」

 それに私が捕まった瞬間、カイルがロープを一気に引き上げる。

 私たちは無事、ルーメルを脱出することができた。

これにて第2章 ルーメル編の終了です。ここまで見てくださった方へ、本当にありがとうございました。

今回は小休止を取る予定はありません。

これからも応援していただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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