0031 襲撃
翌日の昼前。
私はクレアさんに連れられて、再び冒険者ギルドへ来ていた。
昨日よりも人は多い。討伐から戻った冒険者たちが酒場の方で騒いでいて、昼間だというのにかなり賑やかだ。
「おっ、来たか」
聞き覚えのある声に振り向く。
そこには、ローディスさんたちがいた。
レンさんは相変わらず軽そうな笑みを浮かべていて、カイルは少し後ろで静かに立っている。
「クレアから話は聞いてる。冒険者登録、したんだってな」
「はい」
「そりゃめでたい」
ローディスさんはそう言って笑うと、不意に真面目な顔になった。
「で、今日は正式なパーティ登録だ」
そう言って、私を見る。
「改めて聞くが——本当にいいんだな?」
その問いに、私は少しだけ目を瞬かせた。
……本当にいいのか。
少し前まで、私は一人だった。まあ、【偽装】が手に入るまではあえて一人になってたってところはあるけど…。そんな私が、誰かと一緒に戦う側に入る。
正直、まだ実感は薄い。…でも。
「……はい」
小さく頷く。
「よろしくお願いします」
私のその言葉に、レンさんが吹き出した。
「ははっ、固い固い!もっと気楽でいいんだぜ、レクシアちゃんよぉ」
「レン」
「おっと」
ローディスさんに睨まれて、レンさんは肩をすくめる。
「まあでも、歓迎するぜ」
そう言って、レンさんは笑った。
その空気に、少しだけ肩の力が抜ける。
「それじゃ、受付に行くか」
ローディスさんが歩き出そうとして——
「お待ちください」
不意に、低い声が、ギルドの空気を切り裂いた。
ざわついていた酒場が、一瞬だけ静まる。
入口の方を見ると、そこには白い法衣を纏った男たちが立っていた。
あの時、私に声をかけた神官。そして、その後ろには武装した騎士の姿も見える。……神殿の勢力だ。
先頭にいた神官が、真っ直ぐこちらを見る。
「その少女を、我々に引き渡していただきたい」
空気が、冷えていくのを感じた。周囲の冒険者たちが、より静かになる。不穏な空気を感じとって、多くの者たちはギルドを後にしていく。
ローディスさんたちの表情も、一気に険しくなった。
「……どういう意味だ?」
ローディスさんが低く問う。
神官は静かな笑みを浮かべたまま答える。
「少々、確認したいことがありまして」
「確認?」
「ええ。そこの少女に、少しだけ用ができたのです」
「…私、ですか?」
今のところ、神殿にはいい思い出がない。その上で確認するだなんて、嫌な予感しかしない。
「あの時、あなたが聖女様を鑑定したのは、あなたでしょう?」
…バレてたのか。まあ、考えなしに【探識】を浴びせてたのは私だから、しょうがないと言えばしょうがない。
「そのことについては、不問といたしましょう。ただ、一つ、聞きたいことができましてね。そう、一言で言うなら…」
神官は、咳払いを一つして続ける。
「禁書庫、について聞かせていただきたい」
空気が、凍りつくのを感じた。クレアさんが、目を見開くのが見えた。そのまま、小声で言う。
「…逃げて」
その間も、彼らはさらに前へ歩を進める。
「さあ、知っているのでしょう?早く、こちらへ。もし、来ないのなら……」
「逃げて!」
クレアさんが私とカイルの肩を強く押した、その瞬間だった。金属同士がぶつかる轟音。いつの間にか踏み込んでいた神殿騎士の剣を、ローディスさんが盾で防ぐ音だった。
「神殿がギルドの中で抜刀とは、随分好き勝手してくれるじゃねえか」
レンさんが笑みを消したまま短剣を抜く。その目は、さっきまでの軽薄さが嘘みたいに鋭かった。
「これは命令ですから」
神官は淡々と告げる。
「先ほどの少女は、大聖女様に関する重大な事項に関与している可能性があります。速やかな身柄の確保を」
その言葉に、神殿騎士たちが冒険者ギルドの外へと駆け出す。
「行かせるかよ!ウィンドカーテン!」
入り口に張られる、透明な風の膜。レンの魔法だ。神殿騎士たちを弾き返し、室内へと逆戻りさせる。
「ひょっとして、私の、神殿の邪魔をするのですか?であれば、容赦はできませんね…」
そう言って、不気味に笑う。
「ホーリースピア」
神官の手元から、白い槍が生まれる。槍は前線にいたローディスに、一直線に向かっていく。
「させるものですか!ホーリースピア!」
全く同じ魔法を打って、魔法同士を相殺させる。高度な魔法制御の下で成り立つ技だ。
眩い光と光が、ギルドの中央で激突した。
「クレア……!」
神官がわずかに目を細める。
「神殿所属の聖職者でもありながら、こちらに刃向かうのですか?」
「今は冒険者ですよ、私は!」
クレアが杖を構えたまま叫ぶ。
「先が思いやられますね」
「こっちのセリフですよ!どうして、冒険者ギルドを襲撃したんでしょう!もっと別の場所もあっただろうに、頭悪いんじゃないですか!?」
神官のこめかみに、ぴくりと青筋が浮かんだ。
「この命令を下したのは教皇自身です。……神殿への侮辱と受け取りますよ?」
「そうですか、教皇自身の…言ってしまいましたね!まさか、こんな簡単な罠に引っかかるとは、思ってもみませんでした!」
クレアさんがそう叫んだ瞬間、ギルドの空気が変わった。
「……何?」
神官の声が低くなる。
クレアは、してやったりと言わんばかりに口元を吊り上げた。
「ギルド襲撃なんて、普通なら神殿側が絶対に避ける行為です。だからこそ、"誰の命令か"を明言させたかったんですよ」
「貴様……!」
「そう、言うならば、この状況は…チェックメイト、です!」
「……冒険者風情が、小賢しい…!」
「神官なのに、今日は随分と荒々しいんですね!」
完全に言い逃れできない、そんな状況に、クレアは持ち込んだ。…悪足掻きさえ、しなければ。
「では、こうしましょう。今ここで、あなたたち全員を葬り去る。そうすれば、今日の出来事も無かったことになる。これでどうでしょう?」
「おいおい、何を言ってやがんだ?この状況から、お前が勝てるわけねえだろ」
「それは、どうでしょうねぇ…。ライトニング!」
明るい光が、冒険者ギルドの外へと向かっていく。窓を抜けて、大きく弾けた。
「3分以内で、外に待機している増援が来ます。…形勢逆転ですね」




