0030 登録
お久しぶりです。
今日から月金で投稿を再開します。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
クレアさんが、受付嬢に何やら書類を渡しているのが見える。あのまますぐに、冒険者登録をすることになった。
「承りました。少々お待ちください」
受付嬢はそう言うと、慣れた手つきで書類を整理し始めた。
私はその間、ギルドの中をこっそり見回す。
相変わらず、人が多い。
昼間だからか、依頼を受けに来た冒険者や、討伐から戻ってきたばかりらしい人たちでかなり賑わっている。鎧の擦れる音、酒場の方から聞こえる笑い声、紙をめくる音。それらが全部混ざって、不思議と落ち着く騒がしさになっていた。
「緊張してる?」
隣から、クレアさんが小さく笑いながら聞いてきた。
「……ちょっとだけ」
冒険者になる、ただそれだけなのに、不思議な高揚感を感じていた。同時に、緊張も。
「大丈夫ですよ。冒険者登録くらいなら、そこまで構えなくても」
「…本当に?」
「本当に。あっでも、レクシアさんの鑑定結果だったら、少し気をつけたほうがいいかも」
「えっ」
「冗談ですよ。もし何かあっても、私がいますから」
冗談だとしても、心臓には悪い。
そうこうしているうちに、受付嬢が何かを確認するように書類へ目を落とし——ぴたりと動きを止めた。
「……え?」
小さな声だったが、今の私にはやけにはっきり聞こえてしまった。
「どうかしましたか?」
クレアさんが自然な調子で尋ねる。
「あ、いえ……その……」
受付嬢は一瞬だけこちらを見て、慌てて咳払いをした。
「失礼しました。少し珍しい結果でしたので」
なんとなく分かってたとはいえ、やっぱり怖いものは怖いね。
受付嬢は気を取り直すように書類を整えると、改めてこちらへ向き直った。
「それでは、冒険者登録について簡単に説明いたしますね」
「はい」
「まず、冒険者ランクは下からF、E、D、C、B、A、Sとなっております。初回登録の場合は、基本的にFランクからのスタートです」
やっぱりそういうのあるんだ。ちょっとだけワクワクする。
「依頼を達成することで功績が認められ、ランクが上がっていきます。また、一定ランク以上になりますと、受けられる依頼や入れる地域も増えます」
「地域?」
「はい。危険区域などですね。あとは、一部の街では高ランク冒険者にのみ解放される施設もあります」
なるほど、身分証みたいな意味もあるのか。
「それから」
受付嬢はそこで少しだけ声を潜めた。
「冒険者ギルドでは、実力主義が基本です」
「実力主義?」
「年齢や身分に関係なく、実力がある方は評価されます。逆に言えば、実力が無ければ軽く見られることもあります」
……ああ、何となく分かる気がする。冒険者って、命を懸ける仕事だもんね。
「そのため、ギルド内での揉め事については、基本的に自己責任となります。もちろん、殺傷沙汰などは厳罰ですが」
受付嬢は慣れた様子で説明を続ける。
「また、ギルドカードには簡易的な身分証明の機能もありますので、紛失にはお気をつけください」
「分かりました」
……思ったより大事なものなのか。失くしそうで怖いな、私のことだし。
「では最後に、登録用の魔力刻印をお願いします」
「魔力刻印?」
「はい。このカードに魔力を登録していただきます。本人確認用ですね」
差し出されたのは、手のひらほどの白いプレートだった。シンプルなデザインで、冒険者ギルドの意匠が背面に描かれている。
「こちらに魔力を流してください」
「……分かりました」
私は恐る恐るカードを受け取る。見た目はただの板みたいだけど、触れるとほんの少しだけ魔力の流れを感じる。
そのまま、指先から少量の魔力を流し込む。
すると、白かったプレートの表面に淡い光が走った。
縁の色が茶色に変化し、まるで水面に文字が浮かび上がるみたいに、ゆっくりと情報が刻まれていく。
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レクシア
ランク:F
所属:ルーメル冒険者ギルド
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「おお……」
思わず声が漏れる。これで、冒険者の始まりって感じがする。
「縁の色はランクを表します。ランクFから順に、茶色、緑、水色、青、黄色、橙色、赤です」
へえ、分かりやすくていいね。
「さて、全ての手続きが完了したので、これで登録完了です」
受付嬢が微笑む。
「これでレクシアさんも正式に冒険者ですね!おめでとうございます」
「このまま、パーティ登録も行いますか?」
…パーティ登録?
私がきょとんとしていると、クレアさんがすかさず口を開く。
「お願いします。私の、『黎明の剣』に。私はパーティーリーダーじゃないので、仮登録で」
「承知しました。少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は奥に入って、少し大きめの魔道具のようなものを取り出した。
「こちらに、先ほどのギルドカードを置いてください」
指示された場所にギルドカードを置くと、その反対側にクレアさんが同じようにギルドカードを置いているのが見えた。縁の色は青。ランクCだ。
受付嬢が魔道具を操作するのを終えると、二人のギルドカードが淡く光った。
「それでは、確認してみてください」
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レクシア
ランク:F
所属:ルーメル冒険者ギルド
パーティー:黎明の剣(仮)
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カードを見つめながら、私は小さく瞬きをした。
「……パーティー」
口に出してみると、なんだか急に実感が湧いてくる。
冒険者になっただけじゃない。ちゃんと、誰かと一緒に戦う側に入ったんだ。
「嫌でしたか?」
クレアさんが少しだけ不安そうにこちらを見る。
「いえ、そんなことないです」
慌てて首を振る。
「その……なんだか、感慨深くって」
「ふふ、それならよかったです」
クレアさんはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「とはいえ、仮登録ですからね。本登録にはパーティーリーダーのローディスさんの承認が必要です」
「なるほど、だから"仮"なんですね」
「そういうことです」
「…では、これで全て完了となります」
受付嬢がぺこりと頭を下げる。
「今後とも、ルーメル冒険者ギルドをよろしくお願いいたします」
こうして。
私は正式に、冒険者になった。




