0025 聖女
昨日は諸事情で投稿できませんでした。遅くなりましたが、今日投稿します。
白い石で作られた神殿は、近くで見ると想像以上に大きかった。空へと伸びる尖塔は、下まで来るとまるで空そのものに触れようとしているみたいで、思わず見上げてしまう。
入口の前には人だかりができていた。皆、同じ方向を見ている。ざわめきの奥に、どこか張り詰めた空気が混ざっていた。
「……あっちか」
人の流れに紛れながら、少しずつ前へ進む。押し合うほどではないけれど、簡単に前に出られるほどでもない。ちょうどいい距離感だった。
やがて、視界が少しだけ開ける。
白い階段の上。その中央に、一人の少女が立っていた。
話に聞いていた通り、小柄な体つきだった。年齢も、確かに十歳前後くらいに見える。白い衣装に身を包み、風に揺れる淡い水色の髪が、光を受けて柔らかく輝いていた。…聖女だ。
でも、周りの大人たちに囲まれて、少し緊張しているような感じもする。なんか、連れてこられた感?がする。もっと神聖な雰囲気かなと思ってたけど、思ってたより内気そうな子だね。
一応、【探識】で確認をしてみる。
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??? 種族:????? 年齢:?? 性別:?
役職:?? レベル:??
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なんだこれ、ほとんど「?」で埋め尽くされてる。今まで、どんなに高レベルでも種族や年齢くらいは表示されてたよね?ひょっとして、聖女だからなのかな?鑑定を防ぐ道具やスキルみたいなのがあるのかもしれない。
まあでも、確かにもう少し知りたいけど、一目見れたからいっか。まだ特に何もできてないけど、帰ろ。できることもこれ以上無いしね。
そう思ってたら、急に近くにいた神官に声をかけられた。
「そこのあなた」
びくっと肩が跳ねる。 呼ばれた?私が?なんで?
周囲を見回すと、同じ方向を見ていた人たちは誰も反応していない。どうやら、本当に私に向けられた声らしい。
「……はい?」
恐る恐る振り向くと、白い法衣を纏った男がこちらを見下ろしていた。年の頃は三十代くらいだろうか。柔らかな笑みを浮かべてはいるけれど、その目はどこか鋭い。
「少し、よろしいですかな」
……やっぱり私だ。なんでだろ?確かに【探識】は使ったけど、目立つようなことはしてないよね。
「何か、ありましたか?」
できるだけ自然に、首を傾げてみせる。
神官は一歩だけ距離を詰めた。
「いや、大したことではないのですが。ただ…」
そこで言葉を区切り、私の目をじっと見つめる。
「一旦、確認のために審問室まで来ていただけますかな?」
えっ、それって多分やばいやつだよね…
「大丈夫です、何も問題が見つからなかったら特に何も致しませんので」
「いえ、その…」
問題だらけだよ、めっちゃ後ろめたいよ。だからもし連れて行かれたらもうおしまいだよ、きっと【偽装】にも限界があるだろうし。
そう思っていたら、急に後ろから手を引かれた。振り返ると、黒い髪の女性が私を手招きしていた。
「早く、こっちへ」
ひょっとして、助けてくれるってことかな?それじゃあ、付いていこうかな。
「少し用事を思い出したので、失礼します!」
気まずくてもう絶対に神殿には来れなくなるけど、どうしようもないや。行っちゃえ!
人混みを縫うようにして、私はそのまま女性に手を引かれて走った。神殿の前のざわめきが一気に遠ざかっていく。石畳を踏む足音がやけに大きく響いて、心臓の鼓動と重なった。
「こっち」
短くそう言って、彼女は路地へと入る。大通りから外れた細い道は人通りも少なく、さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かだった。
角をいくつか曲がったところで、ようやく足を止める。
「……もう大丈夫」
そう言って、彼女は私の手を離した。
「はぁ……はぁ……」
息を整えながら、私は目の前の女性を見る。
黒い髪を後ろで一つにまとめた、落ち着いた雰囲気の人。年はちょうど18歳くらいだろうか。動きに無駄がなくて、洗練されている。
「ありがとうございます。助かりました」
「別に」
そっけない返事。でも、その目は少しだけこちらを観察するように細められていた。
「……神殿に目をつけられたのは初めて?」
「えっ、はい」
突拍子のない質問に思わず素直に頷く。
「そう。なら運が悪かったわね」
彼女は軽く肩をすくめる。
「今は聖女様が来てるから、あそこ、かなり神経質になってるのよ。普段なら見逃される程度の違和感でも、すぐ拾われる。まあ、今回はそれを利用させてもらったけど」
利用?どういうことなの?
「それと、【偽装】のレベルはもう少し上げておいた方がいいわ」
「…どうして?」
本当に、どうして分かったんだろう。ひどく焦って、鼓動が速くなる。でも、ばれたならもう逃げた方がいいかな?
「大丈夫、私には【偽装】を使ってることくらいしか分からないし、特に詮索をするつもりも無いわ。ただ、本当に少しだけ…質問をしてもいいかしら?」
「…質問?」
「そう、質問。でも、その前に名乗っていた方がいいわね」
そう言って、彼女は少しだけかしこまって言った。
「私はマーサ…マーサ・グランディス。グランディス家の次女よ」




