0024 噂
目を覚ました時、窓から差し込む光はすでに少し傾いていた。
……ちょっと、寝過ぎちゃったかな。
体を起こすと、少しだけ頭がぼんやりしている。けれど、魔力の感覚はかなり戻っていた。軽く手を握ると、指先にしっかりと力が入る。
なんとなく外に出てみる。…そういえば、クレアさんからもらったお金もあるし、時間はちょっと遅いけど何か食べに行こうかな。
外に出ると、街は活気に満ちていた。討伐隊があったから冒険者はいないけれど、それでもなお商人や職人たちが行き交っていて、人の流れが途切れることはない。私もその流れに乗って道を横切っていく。
しばらく歩いていると、通りの一角に屋台が並んでいる場所があった。焼いた肉の匂いに、香辛料の刺激的な香りが混ざって、自然と足が止まる。
しばらく迷って、串焼きのお店に決めた。
「これ、ください」
「あいよ」
串焼きを一本買う。受け取ったそれは、想像してたよりもずっと香ばしい匂いがした。
「いただきます」
口に運ぶと、まず最初に強めの塩気が舌に触れた。続いて、じわっと肉の旨味が広がる。香辛料は少し独特で、前世ではあまり嗅いだことのない香りだけど、嫌な感じはしない。むしろ、食欲を引き立てるような風味だった。
「……美味しい」
思わず小さく呟く。気づけば、もう一口、もう一口と食べ進めていた。
串から最後の一片を外して飲み込むと、ほんの少しだけ名残惜しさが残る。……もう一本くらい、食べてもいいよね。
そう思ってまた串焼きを頼んでいた時、不意に周囲の会話が耳に入ってきた。
「おい、聞いたか?南の森の件」
「聞いた聞いた。蹂躙が起きたんだろ?」
「そうだ、しかも数も多いらしい」
「そうか…まあ、今は確かギルマスがいるんだよな?だったら大丈夫だろ」
もうその話が広まってるんだ。…でも、オーガの話は広まってないみたい。ひょっとして、情報統制をしてるのかな?
というか、ギルマスってエルヴァンさんのことだよね?あの人ってやっぱり強そうだったし、有名なのかな?
私はさりげなく屋台の脇に立ったまま、耳を澄ませる。人混みに紛れているし、今なら【隠密】も効いているはず。視線を向けられる気配はない。
「そんなことよりも、最近神殿にまた動きがあったみたいでな」
「そうなのか?それは初耳だ。何があったんだ?」
「なんでだか、聖女様が来たんだよ、ルーメルに」
聖女!ここに来て、異世界の定番が出るとは…やっぱり聞いてみてよかった。
「こんなところまでか?なんでだ?」
「さあな、よく知らねえが…どうせまた、権力争いじゃないか?」
「ああ、王宮と神殿のか…なんであんな長いこと揉めてるんだか。うちの街みてえに、仲良くやっていけばいいのに」
「よく分かんねえけどよ、そうも行かないんじゃねえか?」
なるほどね、今は王宮と神殿が権力争いをしてるってことか。言い方からして、恐らく今はその二強なのかな?
「そういや、お前はどうだった?見れたのか、聖女様は?」
「ああ、一瞬だけどな。遠目からだったけどよ」
「どうだった?」
「まだ幼い子供だったな。10歳くらいか?」
「本当か?可哀想に…魔法の才能があるってだけで、権力争いに巻き込まれちまうなんてよ」
へえ、10歳ってことは、私より年下みたいだね。いつか会えるかな?
話が終わるタイミングで、私もちょうど食べ終わった。…神殿か。きっと、奥のあの白い建物だよね。石造りの尖塔が空へと伸びていて、他の建物より頭一つ分高い。
「……ちょっと、見に行くだけならいいよね」
誰に言うでもなく、そう呟いて。
私は人の流れに紛れながら、その白い建物の方へと歩き出した。




