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【未完】ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第六章 予期せぬ種族の坩堝にて

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47:王都行きの決断

 エルダ村の仲間たちとの話し合いを経て、僕たちが進む方向性は定まった。


 人間族の歴史が意図的に歪められた虚構である可能性。

 その裏で糸を引いていたであろう『異界の賢者』という正体不明の存在。


 魔王軍との全面衝突を回避し、かつ、人間族の王家の言いなりにもならない第三の道を歩むためにすべきこと。まずは数百年前の真実――『聖戦』の引き金となった出来事と、その黒幕の正体を突き止めることが鍵となる。

 しかし、その証拠は辺境に残された記録などから見つかるはずもない。


「……当時の一次資料、つまり改竄される前の真実の記録が残っている場所はどこか。考えるまでもなく、限られてきますね」


 テーブルの上に広げられた大陸地図。

 僕は、その中央に位置する巨大な都市を指差した。


「王都にある『王立大図書館』の最深部、王族や一部の特権階級しか立ち入れない『禁書庫』。あるいは、聖戦を主導した『創世教団』の大聖堂の地下書庫。そのどちらか……、あるいは両方です」


 王都。

 それは、ギデオン村長たちにとっては、この辺境への赴任を命じ、詳細を明かさないまま三十五年も放置し続けた、祖国の中枢。

 そして僕にとっては、理不尽に追放された勇者パーティーの拠点であり、トラウマに近しい感情を植え付けられた故郷。そしてつい先日、アレクたちを罪人として騎士団に引き渡したことで、王都公認の勇者パーティーに反目したと見られたかもしれない。現状では『仮想敵地』と言っても過言ではないかもしれない。


「……危険すぎるじゃろ、アルト様」


 ゼノンさんが、渋い顔であごを撫でる。


「勇者パーティーの一件で、王都の上層部は、この村の存在と、あなた様の異常な力に気づき始めておるはず。大手を振って正門から入れるとは思えん」

「ええ、分かっています」


 僕は頷いた。彼の言わんとしていることは理解している。


「でも行かなければ、僕たちは歴史の掌の上で踊らされるだけの駒で終わります。魔王軍との戦いも、理由が分からないまま、ただ消費されていくだけだ」


 もう誰の道具にもなりたくない。それが、僕の偽らざる気持ちだった。

 僕が見せた決意に、ギデオン村長が立ち上がった。


「ならば、ワシが同行しよう。三十五年前とはいえ、ワシは元騎士団長。王都の地理は頭に入っておるし、旧知の仲間の中には、まだワシの顔と名前を覚えている者もいる。そのコネを使えば、王立大図書館への侵入経路を探ることも……」

「それは悪手ですわね、お爺様」


 ギデオン村長が、勢い込むように提案をしてきた。

 しかし、セラフィナが扇子を揺らしながら冷ややかに一蹴する。


「あなた方が国に見捨てられ、この村に幽閉されたことを忘れたのですか? 王家にとって、あなた方は『消えたはずの人間』、あるいは『不都合な真実を知る可能性のある者』です。そんな人間が王都にノコノコと現れれば、コネを使うどころか、即座に捕縛されて秘密裏に処分されるのがオチですわ」

「ぬぅ……!」


 村長が悔しそうに唸る。セラフィナの言う通り、彼が王都でなにかを調べるように動き回るのは、リスクが高すぎるように思えた。


「しかし、他にどうしろと……」

「ふふっ。簡単なことですわ」


 セラフィナは、扇子をパチンと閉じ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「隠密行動や潜入工作なら、わたくしたち魔族の十八番。わたくしの『認識阻害』の魔法と、アルト様が作る『変装用道具』を組み合わせれば、誰もわたくしたちの正体には気づきませんわ。王都の城門など、素通りも同然です」

「認識阻害の魔法……?」

「ええ。周囲の人間から、『そこにいるけれど、気にならない存在』として認識させる魔法です。完全に透明になるわけではありませんが、警戒を解くには十分すぎる効果がありますわ」


 さらに彼女が言うには、その認識阻害の魔法を使って王都で動き回ったことがあり、効果は実証済みだという。

 胸を張ってそんなことを言ってのけるセラフィナに、ギデオン村長たちはなんとも言えない複雑な顔をしていた。思わぬところから王都の守護の脆弱性を突きつけられたのだから、仮にも王家に仕える元騎士団の人間として反応に困ったのだろう。


 それはともかく。

 確かに、セラフィナが使う認識阻害の魔法と、僕の【物質創造】で作る精巧な変装用魔道具、例えば顔の骨格をわずかに変えるマスクや、瞳の色を変えるカラーコンタクトのようなものを組み合わせれば、完璧な偽装ができる。バレないよう調査に動こうとするなら、この上ない手段と言えるだろう。


「……確かに。それなら、リスクは最小限に抑えられそうだ」


 魔族が王都潜入体験を告白、などの聞き捨てならない話もあったが。

 ひとまずそれは置いておいて。


 今の僕たちの目的を考えるなら、セラフィナの提案は想像以上に有用なやり方かもしれない。

 僕が同意すると、ルナがスッと手を挙げた。


「アルト、私も行きます。王立大図書館の文献を読み解くには、古代語の知識が必要だと思います。それに、あなたを、一人で危険な場所には行かせられません」

「でも、君はエルフだ。王都でエルフの姿は、目立ちすぎる」

「それなら、アルトの変装用魔道具で耳を隠せばいいでしょう? 私は絶対、一緒に行きます」

「ルナ……」


 彼女は、僕の目をまっすぐに見つめて、逸らそうとしない。

 僕は、何が起こるか分からない土地へ彼女を連れていくのは抵抗があった。

 けれど、ルナの決意は固かった。エルフの誇りに懸けて、僕と共に真実を見極めるという強い意志を感じる。それと、僕の身を案じてくれるその気持ちに、胸の内が温かくなってくる。


「やれやれ。お熱いですこと」


 僕とルナで見つめ合っていたところに、セラフィナの合いの手が入った。

 傍から見てどんな状態だったのかを自覚して、僕の顔が一気に熱くなる。

 同時にルナも、白くて透き通った肌を真っ赤にして。

 弾かれたように、二人揃って距離を取ってしまった。


 そんな僕とルナを見て、セラフィナが呆れたように肩をすくめる。


「わたくしも同行しますわ。シルゼリウ様からの監視任務もありますし。何より、人間族の王宮の書庫に何が隠されているのか、純粋に興味がありますからね。それに、いざという時の火力は多い方がいいでしょう?」


 確かに。何が起こるか分からない以上、備えとして戦力を確保しておくのは必要なことだろう。その点で、セラフィナは適していると言える。


 彼女が同行すれば心強い反面、絶対に何かトラブルを起こすという確信があった。だがセラフィナが自分で言っている通り、彼女の魔法は潜入に不可欠だ。


「……分かった。じゃあ、メンバーはこうしよう」


 僕は、羊皮紙に四人の名前を書き出した。


「僕がリーダー兼、解析役。ルナは古代語の知識役。セラフィナさんは、潜入工作と……まあ、いざという時の切り札。そして」


 僕は、ギデオン村長を見た。


「ギデオンさん。顔を晒すのは危険ですが、王都の地理や、教団の内部構造に詳しいあなたの知識は、絶対に必要です。僕たちの『案内役』として、そして、ルナとセラフィナの制御……いや、護衛として、同行していただけませんか?」


 ギデオン村長は、少し驚いた顔をしてみせる。

 そして、深く頷いた。


「……承知いたしました。アルト様のご指名とあらば、喜んでこの老骨に鞭打ちましょう。王都の裏道から、教団の秘密の抜け道まで、ワシの記憶のすべてを役立ててみせます」

「お願いします」


 こうして、王都潜入のための選抜メンバーが決定した。

 アルト、ルナ、セラフィナ、ギデオン村長の四人。

 それぞれが全く異なる立場と能力を持ちながら、一つの真実を求めて、因縁の地へと乗り込む。


「留守の防衛は、ワシらに任せておけ!」


 ギドさんが、厚みのある自分の胸をドンと叩いた。


「ゴーレム部隊の調整も、新しい防衛兵器の開発も、バッチリ進めておくわい。お前さんたちは、安心して行ってこい!」

「ミミも、悪いやつが来たら、匂いで見つけてやっつけるニャ!」


 ミミも、元気よく拳を突き上げる。

 ゼノンさんたちも、村の守りは万全だと力強く請け負ってくれた。

 村の仲間たちの心強い言葉に、僕は深く頭を下げた。


「みんな、ありがとう。必ず、真実を突き止めて、帰ってきます」


 話し合いを終え、僕たちは出立の準備に取り掛かる。


 僕は作業小屋 (セラフィナとルナに壊された後、頑丈に作り直した) に籠り、ギドさんと共に潜入用の特殊装備の創造に没頭した。


 顔の輪郭を変える特殊な粘土、魔力を隠蔽するローブ、いざという時のための閃光弾や煙幕弾など。【物質創造】の力をフル稼働させ、考えうる限りの状況を想定して、アイテムを作り出していく。


 出発は、二日後。

 不安がないと言えば嘘になる。

 だが、それ以上に、僕の胸には、自分が何者にも縛られず、自らの意志で世界の真実へと迫っていくという、静かな高揚感が満ちていた。




  ◇   ◇   ◇




 そして、出発を翌日に控えた日の夕刻。


「ア、アルト様! 大変じゃ!」


 僕が作業小屋で最後の装備の点検をしていると、ゼノンさんが慌てた様子で駆け込んできた。あまりの勢いに、思わず身構えてしまう。


「どうしたんですか、ゼノンさん。魔物の襲撃ですか?」

「いや、そうではないのじゃ!」


 ゼノンさんは首を横に振った。じゃあ一体何が、と訝しむ僕。

 彼は、封蝋がされた一通の立派な手紙を差し出してくる。


「王都から……王都のギルド本部から、早馬の使者がやってきて、この手紙を置いていった」

「王都の、ギルドから……?」


 封蝋には、見覚えのある、王国騎士団とギルドの連名を示す紋章が押されている。僕は手紙を受取り、丁寧に封を切る。

 その中に書かれていたのは、僕の理解を、そして想像を超えるものだった。



『親愛なる錬金術師、アルト殿へ。

先日の、勇者パーティー保護の件、誠に感謝申し上げる。彼らは、王都の優れた治癒術師たちの治療により、魔族の洗脳から完全に回復した。

そして、彼らは自らの過ちを深く反省し、魔王軍討伐という本来の使命を果たすべく、再起のために活動を再開することとなった。

つきましては、彼らのたっての希望により、貴殿に再び勇者パーティーへ参加し、彼らを支えていただきたい。王国は、貴殿の過去の不遇を謝罪し、勇者パーティーの正規メンバーとして、最高の厚遇をもって迎えることを約束する。

早急に王都へ戻り、合流されたし。』


「……は?」


 無意識に、間抜けとしか言いようのない声が漏れた。


 僕は、その羊皮紙の文字を、三度、読み返した。

 読み返しても、内容が変わることはなかった。


 勇者パーティーが、再起?

 そして僕に、またパーティーに戻ってこい、と?

 僕たちの村を襲撃し、ゴーレムにボコボコにされて、縛り上げられて馬車で連行されていった、あの三人が?


「……どういう、ことだ?」


 僕は、混乱の極みに達していた。

 彼らは王都で裁きを受けているはずだ。魔族に操られていたとはいえ、国家の英雄が辺境の村を襲撃したのだ。そう簡単に無罪放免になるはずがない。騎士団のバルトロ副団長だって、事の重大さを理解していたはずだ。


 贖罪のための、ある種の労役として、再起のために魔物討伐の任に就く。

 それ自体は分からないでもない。

 しかしなぜ、僕を呼び戻そうとしているのか。


 思わず、意味もなく手紙を透かしてみる。

 もちろん、それで何かが変わるわけでもない。


 この手紙は、本物なのか?

 ……僕の能力を知った王都の上層部が、何かを目論んでいるのか?


「アルト? どうしたのですか、そんな声を出して」


 ルナが、不思議そうな顔をして小屋に入ってきた。

 その後ろから、セラフィナもひょっこりと顔を出す。


「あら、ラブレターでも届きましたの? アルト様も隅に置けませんわね」

「……冗談言ってる場合じゃないです」


 僕は、二人に手紙を手渡した。

 手紙を読んだルナは、目を丸くして絶句した。

 セラフィナは、扇子で口元を隠して笑みを浮かべる。


「……なるほど。これはますます、王都へ行くのが楽しみになりましたわね」


 セラフィナのその言葉が、僕の混乱に拍車をかける。

 戻ってこい?

 いやいや、今さらだろう。

 そもそもアレクたち自身が、それを自覚しているはずだ。


「じゃあ、『戻ってこい』と言ってるのは、誰だ?」


 僕を追放した過去が。

 僕の楽園の守護者としての現在が。

 そして、世界の真実を求める未来が。

 すべてが複雑に絡み合いながら、僕を王都へと引きずり込もうとしている。


「……行くしかないな」


 僕は、羊皮紙を強く握りしめた。

 この手紙の真意を確かめるためにも。

 そして、今度こそ、過去の亡霊たちに、完全に引導を渡すためにも。


 明日の朝、僕たちは王都へ向けて出発する。



 -つづく-

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回更新は……おそらく4月18日になるかと。


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