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【未完】ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第六章 予期せぬ種族の坩堝にて

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44:エルダ村の多種族円卓会議 (サミット)

 ここ数日前のドタバタが嘘のように、今日の村の集会所は張り詰めた緊張感に包まれていた。窓の外は曇り空。重く垂れ込めた雲が、これから始まる会議の難航を予感させているようだった。


 集会所に置かれた大きな丸テーブル。まるで円卓のようなそれに手を置きながら、同じように席についている面々を見渡す。


 僕の右隣には、エルフの姫であるルナ。彼女は背筋を伸ばし、真剣な眼差しで正面を見据えている。


 左隣には、魔王軍四天王の一角、「聖女」セラフィナ。退屈そうに扇子を揺らしながらも、その瞳の奥には鋭い光を宿していた。


 正面には、元王国騎士団長のギデオン村長と、元宮廷魔術師団のゼノンさん。彼らの顔には、国への忠誠と、自分たちは見捨てられていたのではないかという疑念が滲んでいる。


 その隣には、腕組みをして不機嫌そうに座るドワーフのギドさんと、状況がよく飲み込めていないのか、きょろきょろと辺りを見回しているミミがいる。


 人間、エルフ、魔族、ドワーフ、獣人。

 かつては敵対し、あるいは友好的な関係を持ち、一方で関わりを避けてきたこともある。そんな五つの種族が、こうして一つのテーブルを囲んでいる。今の人間族の感覚では、想像しがたい光景だ。もしかすると前例さえないかもしれない。


「……では、始めましょうか」


 僕は、軽く深呼吸をして、口火を切る。

 全員の視線が、僕に集まった。


「今日の議題は、僕たちの今後の『立ち位置』についてです。魔王軍からの勧誘、人間族の王家への不信感、そして世界の真実。これらを踏まえて、僕たちエルダ村は、どう動くべきなのか」


 いろいろなことを知ってしまった。それでいて、果たしてそれらが本当のことなのか、どれだけ信じていいものなのかを判断する素地がない。なにを頼りに生きていけばいいのか分からない、と嘆いたとしても、決して言い過ぎではない状況だ。


 僕の言葉が終わるや否や、ギデオン村長が口を開いた。


「……正直に申せば、ワシは混乱しておる。我々は国に忠誠を誓い、この地を守ってきた。その王家が、我々を見捨て、意図的にこの地に縛り付けていたかもしれないなどと。……信じたくはないが、状況証拠が揃いすぎておる」


 彼の拳が、テーブルの上で震えている。三十五年という歳月を捧げた忠義が、根底から揺らいでいるのだ。無理もないことだと思う。


「フン。人間族の王など、所詮そんなものよ」


 対して、村長の苦悩を皮肉気に一笑に付す者もいる。

 魔族の、セラフィナ。彼女は冷笑を浮かべて口を挟んだ。


「自分たちの都合の悪い真実は隠蔽し、邪魔者は切り捨てる。数百年前の聖戦だって、そうやって始まったのですわ。あなた方は、ただの捨て駒だったのです」

「……貴様! 言葉を慎め!」


 ギデオン村長が激昂して立ち上がる。

 だがその勢いも、セラフィナの感情に少しの揺らぎさえ与えない。


「事実を言ったまでですわ。それとも、まだあの腐った国に未練がおありで? 魔王様の下につけば、あなた方の忠義に見合うだけの正当な評価と、役割を与えて差し上げますのに」

「黙れ! 魔女め、誰が貴様らの手先になどなるか!」


 やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめるセラフィナ。

 そんな彼女に、ギデオン村長は睨みつける眼力を強くする。さらにゼノンさんも激高し、杖を構えて威嚇してきた。


「やめなさい、セラフィナ。挑発が過ぎます」


 ルナが、静かだが強い口調で制した。

 セラフィナは、強いてその制止に反発しなかった。ふん、と鼻を鳴らして口をつぐむ。


「彼らの痛みは、かつて人間族に裏切られ、故郷を追われた私たちエルフ族の痛みと同じです。それを嘲笑う権利は、誰にもありません」


 ルナの言葉に、ギデオン村長たちも怒りを抑え、口を閉ざした。

 かつて人間族の側に立ちながらも、戦後は孤立し、衰退していったエルフ族。その末裔であるルナの言葉は、彼らに重く響いた。


「……ワシらドワーフも、似たようなもんじゃ」


 ギドさんが、苦々しげに吐き捨てた。

 皆の目が、ギドさんへと向けられる。彼の声は、今までに聞いたことがないような苦渋に満ちたものだった。


「人間族に武具を売り、その金で食いつないできた。奴らの戦争が長引けば長引くほど、ワシらは潤う。自分たちが何を作っているのか、その先にどんな悲劇があるのか、見ないふりをしてな。ワシらは、人間族の欲望に寄生して生きる、ただの道具屋に成り下がっておったんじゃ」


 人間族と、ドワーフ族の関係。

 需要と供給がかみ合った、と言えば聞こえはいい。けれど実態は強大な依頼主と金銭で縛られ逆らえない使用人みたいなものだと、ギドさんは吐き捨てるように言う。

 彼はそんなドワーフ族の在り様に嫌気がさし、伝説とも王国一とも謳われた鍛冶師としての名声を捨てて、古い鉱山に閉じこもっていた。その後に、僕と出会ったんだ。


 集まった全員が、自らの種族について、思うことを口にする。

 それぞれの種族が抱える、人間族との歪んだ関係と、拭えない不信感。

 そして、魔族という新たな選択肢への、恐れと迷い。

 議論というよりは、それぞれが思うことを吐露しているだけのような場になっていた。何かを口にするたびに、重苦しい空気が支配していく。


「……難しいニャ」


 ミミが、ぽつりと呟いた。

 彼女はこの場の全員の言葉を聞きながら、自分のことは何も語っていない。

 奴隷商人に追われて、この村に逃げ込んできたミミ。それより前のことは、彼女から聞いたことはない。どこでどんな風に生きてきたのかも知らない。亜人種という希少性から、悪しき感情に振り回されてきただろうことは想像できる。けれど、この村で楽しそうに笑顔でいられているのなら、強いて過去を掘り起こすこともない。そう思っていた。

 だからこそ、ミミの言葉が染み入る。


「ミミは、難しいことは分かんないけど……人間も、魔族も、どっちも怖そうニャ。でも、ここにはアル兄がいる。ルナ姉も、ギド爺もいる。……ミミは、みんなと一緒にいられれば、それでいいニャ」


 単純だけれど、大切なこと。

 その純粋な言葉が、胸の内に温かく波紋のように広がった。

 そうだ。僕が、僕たちが守りたいのは、国でも、魔王でもない。

 この村で築き上げた、この小さな『繋がり』なんだ。


「……ミミの言う通りだ。僕たちは、国に従うのでも、魔族に従うのでもない。この『エルダ村』という、新しい居場所の理に従うべきなんじゃないでしょうか」

「エルダ村の、理……?」

「はい」


 顔を上げて、改めて大切にすべきものを言葉にした。

 そんな僕を、ギデオン村長が見つめ返してくる。


「僕たちは、それぞれの場所で居場所をなくし、この村に流れ着きました。そして、種族の違いを越えて、助け合い、この楽園を作ってきた。……それが、僕たちの『正義』です」


 僕は、全員の顔を一人ひとり見渡した。

 人間、エルフ、魔族、ドワーフ、獣人。

 エルダ村は、種族がごった煮になった状態だ。それでも誰が上か下かなど気にすることなく、楽しく日々を過ごすことが出来ている。素晴らしいことだと思う。


「人間族が間違っているなら、正せばいい。魔族が正しいことを言うなら、耳を傾ければいい。でも、どちらかの陣営に盲目的に従う必要はない。僕たちは第三の勢力として、自分たちの目で真実を見極め、自分たちの意志で道を選ぶべきじゃないでしょうか」


 僕の提案に、場が静まり返る。

 第三の勢力。それは、人間族と魔族、世界の二大勢力のどちらをも敵に回しかねない、あまりに無謀で、そして険しい道だ。

 だが、誰の目にも、迷いの色は消えていた。


「……ふっ。第三勢力、か。面白いのう」


 ギドさんが、ニヤリと笑った。


「ワシらの作った武具と、師匠の錬金術があれば、どこの国にも引けを取らん独立国家が作れるかもしれんわい」

「……そうですな。我らが王家に捨てられていたとしても、新たな主君を見つけるのではなく、自らが主となる道を選ぶ、か」

「悪くない」


 ギドさんの挑発的な言葉。それを受けて、ギデオン村長も言葉を漏らす。小さな声ではあったが、その顔は憑き物が落ちたような表情をしていた。

 ゼノンさんも、憤りでしかめていた顔から、強張りが抜けている。


「アルト。私は、あなたについていきます。エルフの誇りにかけて、真実を見極めるその日まで」


 ルナが、僕の手を握った。想いをこめ、上気させた顔で。


「フン。甘ちゃんたちですこと」


 セラフィナは呆れたように、しかし満更でもない表情で肩をすくめる。


「まあ、いいでしょう。あなた方が魔王軍の敵にならない限りは、静観するという約束でしたからね。……それに、あなた方が人間族の王にどう落とし前をつけるのか、見物させてもらうのも一興ですわ」


 今のセラフィナは、聖女という名に相応しい高貴さと、自身に溢れた堂々とした態度を見せていた。

 村にいる時の態度がゆるすぎるせいで忘れがちだけれど、彼女は魔族の四天王のひとりだ。れっきとした実力者で、シルゼリウやヴァルガスがいる現在の魔族を代表して、この村にやって来ている。

 そんなセラフィナが、僕たちの『均一に距離を置く』という考え方を否定しないでくれている。ならば、そうした考えた、自分たちの理想を求めて動いて行こう。そう思うことができた。


 方向性は、決まった。

 僕たちは、どちらにも与しない。


 だが、実際にその態度を取ろうとするのは困難だろう。

 なにより、情報が足りなすぎる。


 人間族が語る『聖戦』の歴史。

 魔族が語る『侵略』の歴史。

 その食い違いの正体。

 そして、人間族を扇動し、聖戦を引き起こした「黒幕」の存在。


「……まずは、お互いの知っている『歴史』を、全部出し合いませんか」


 僕の提案により、会議は第二段階へと移行した。

 人間側の公式記録である『聖戦記』。

 エルフ族に伝わる『悔恨の書』。

 そして、セラフィナが語る魔族側の『侵略の記録』。


 それぞれの種族が語り継いできた歴史。

 種族としての根幹。

 バラバラの方向を向いていたそれらを、僕たちは突き合わせていく。



 -つづく-

読んでいただきありがとうございます。

次回更新は……おそらく3月28日になるかと。たぶん。きっと。


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