表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【未完】ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第六章 予期せぬ種族の坩堝にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/48

43:懐いた猫と、自重をしないドワーフの日常

 ルナとセラフィナとの奇妙なデートから数日が経って、僕の胃痛もようやく治まってきたある日のこと。

 エルダ村は、ぽかぽかと温かい日差しに包まれ、これ以上ないほど穏やかな空気が流れていた。

 そんな平和な午後、僕の膝の上には、小さな温かい重みが乗っていた。


「ん~……。アル兄、そこ、気持ちいいニャ~」


 猫獣人のミミだ。

 僕は膝の上で丸くなっている彼女にブラッシングをしていた。ミミは喉をゴロゴロと鳴らしながら、髪を櫛でとかれる感触を気持ち良さそうに堪能している。

 亜麻色の髪からピンと突き出た猫耳が、僕の手の動きに合わせてピクピクと動くのが愛らしい。彼女の尻尾も、機嫌良さそうにゆらゆらと揺れている。


「ミミちゃん、本当に気持ちよさそうですね」


 向かいに座って洗濯物を畳んでいたルナが、微笑ましそうにこちらを見ている。穏やかな表情といい、まるでお母さんのようだ。


「うん。最近、ミミも随分と甘えん坊になった気がするな」

「それだけ、心を許してくれている証拠ですよ。最初に来た時の、あの怯えていた姿が嘘みたいです」


 確かにそうだ。奴隷商人に追われ、傷だらけでこの村に逃げ込んできた時の彼女は、誰のことも信用しようとしない、野生の小動物のようだった。それが今では、こうして無防備にお腹を見せて寝転がっている。

 彼女の柔らかい髪をとかしながら、僕は改めて「守れてよかった」と心から思った。


 僕とルナが、いろいろと思い返してほんわかしていると。

 ミミが、片目だけ開けてルナの方を見た。


「ルナ姉も、やってほしいニャ?」

「えっ? わ、私ですか? いえ、私は結構です……」

「嘘だニャ。ルナ姉も、アル兄にナデナデしてほしいって顔してるニャ」

「しっ、していません! 私はもう子供じゃありませんから!」


 ルナが慌てて否定する。ブンブンと首を振り、必死な様子で。

 でも、彼女の耳は少し赤くなっていた。鋭いな、ミミ。


「ふふっ。じゃあ、後でルナの髪も櫛でとかしてあげようか?」


 僕がからかうように、ミミに便乗してそんなことを言ってみる。

 すると、ルナは真っ赤になって俯いてしまった。


「も、もう……。アルトまで、ミミちゃんの真似をしないでください……」


 なんて会話を交わしつつ、ほのぼのとした時間を過ごしていると。

 突然、ドタドタという重い足音が近づいてきた。


「おぅ! ミミ! ここにおったか!」


 現れたのは、ドワーフのギドさんだった。顔中煤だらけで、何かの作業中だったのか。手には何か奇妙な形の金属部品を持っている。


「げっ、ギド爺だニャ。逃げろ~」


 ミミは飛び跳ねるように、僕の膝から降りた。そのまま素早く、ローテーブルの下に滑り込んで隠れようとする。


「こら、逃げるんじゃない! 今日こそは、ワシの最高傑作の実験台になってもらうぞ!」

「嫌だニャ! 絶対に嫌だニャ!」


 ギドさんが、逃げ出したミミを追ってローテーブルの下を覗き込む。低い声で唸りながら追い詰めようとする姿は、申しわけないけれど完全に悪役だ。


「この前の『自動猫じゃらしマシーン』だって、ブンブン振り回されて目が回ったニャ! ギド爺の発明品はロクなことがないニャ!」

「何を言うか! あれは回転速度の調整を少しミスっただけじゃ! 今度の『全自動ブラッシングマシーン改』は完璧じゃぞ! お前のその剛毛も一瞬でツヤツヤになるわい!」

「ミミは剛毛じゃないニャ! フワフワだニャ!」


 ローテーブルの反対側から顔を出したミミと、なにやらテンションが高いギドさんが言い合いを始めた。僕とルナのことはほったらかしにして、かなりくだらないけれど熱はこもっている舌戦が繰り広げられる。


 ギドさんは一見すると厳つい頑固親父だ。でも実はミミのことが可愛くて仕方がないらしい。工房の隅には、彼がミミのために作った木のおもちゃや、小さな家具がいくつも置かれているのを僕は知っている。


 ミミの方も、「ギド爺はうるさいニャ」と文句を言いながらも、毎日のように工房に遊びに行き、彼がハンマーを振るうのを飽きずに眺めているのだ。傍から見れば、完全に「おじいちゃんと孫娘」である。


「二人とも、家の中で暴れないで」


 関係ないところでやられる分には、いくらでもやってくれと思う。でも人が住んでる家に乗り込んで、家主とは無関係なことで騒ぐのは勘弁してもらいたい。

 僕が注意すると、ギドさんは「むぅ」と唸って立ち上がった。


「仕方ない。今日のところは見逃してやるわい。……その代わり、これを持ってけ」

「……ニャ?」


 ギドさんはポケットから小さな包みを取り出し、テーブルの上に置いた。

 ミミが、恐る恐るテーブルの下から這い出てくる。


 彼女が包みを開けると、銀色に輝く小さな鈴のついた、可愛らしい首輪が入っていた。首輪の革は柔らかく鞣され、鈴には精緻な彫刻が施されている。


「これは?」

「フン。余ったミスリル銀の端材で作った試作品じゃ。捨てるのも勿体ないから、お前にやる」


 ギドさんは、そっぽを向きながらぶっきらぼうに言う。

 でも、その耳が少し赤くなっているのを、僕は見逃さなかった。


「ミスリル銀の端材って……そんな高価なものを?」


 ルナが驚きの声を上げる。まぁ、気持ちは分かる。

 ミスリル銀といえば、王国騎士団長クラスの剣に使われるような最高級素材だ。使い道が限られる端材とはいえ、それを猫の首輪にするなんて。


 ミミは、目をキラキラさせて首輪を手に取った。


「きれい……! これ、ミミにくれるの?」

「いらんのなら、溶かして釘にするがの」

「いるニャ! 絶対いるニャ!」


 ミミは大喜びで首輪を自分の首につけた。サイズはぴったりだ。動くたびに、チリン、と澄んだ涼やかな音が鳴る。


「ありがとう、ギド爺! 大好きニャ!」

「う、うむ……。まあ、似合わんでもないわい」


 ミミが、ギドさんの太い足に抱きついた。

 ギドさんは照れくさそうに、ごつごつした大きな手で、ミミの頭をポンポンと叩いた。その顔はどう見てもデレデレの好々爺だった。


「よかったですね、ギドさん」


 僕が言うと、彼は「ふん」と鼻を鳴らした。


「勘違いするなよ、師匠。これは、あいつがどこにいても音で分かるようにするための、防犯対策じゃ。最近は物騒だからな」

「はいはい、分かってますよ」


 素直じゃないなぁ、もう。




  ◇   ◇   ◇




 別の日の夕方。

 僕は、ミミとギドさんの三人で、村外れの小川へ釣りに出かけた。


「今日こそは大物を釣り上げてやるぞ!」


 ギドさんが自作の (無駄に高機能な) 釣り竿を構えて気合を入れる。そして岩場にどっかりと腰を据え、釣り竿を振るった。


「ミミも釣るニャ! お魚さん、待ってろニャ~」


 それに対抗してか、ミミも同じように声を上げた。もっとも、彼女の釣り竿は木の枝に糸を垂らしただけの簡単な仕掛け。ギドさんのものとは正反対だ。


 僕はやる気満々な二人に苦笑しながら、その間に座る。

 元気いっぱいなギドさんとミミを横目に、僕はのんびりと糸を垂れた。


 川面を渡る風が心地よい。水面には、夕焼け色が反射して揺らめいている。

 しばらくすると、ミミの竿に当たりがきた。


「ニャッ! 来たニャ!」


 興奮した声を上げて、ミミが勢いよく竿を上げる。

 引き上げた先には、ピチピチと跳ねる銀色の魚がかかっていた。


「やったー! 大物だニャ!」

「おお、やるじゃないか!」


 ミミが釣り上げた魚を自慢気に掲げて見せた。

 それを見てギドさんが、目を細めながら賞賛する。


「ワシも負けてられんわい!」


 我も続けと、ギドさんも張り切った。さぁこい、さぁこいと、ドワーフの技術の粋を込めた (であろう) お手製の釣り竿を手に、水面を凝視する。

 でもなぜか、彼が釣り上げるのは長靴だったり、流木だったり、なぜか流れてきた村人の洗濯物だったり。肝心の魚は一匹も引っ掛からない。


「ぬおおおっ! なぜじゃ! なぜワシの竿には魚がかからんのじゃ!」

「ギド爺の竿、仕掛けがゴチャゴチャしすぎてるから。お魚さんが警戒してるんだニャ」

「なんと……。そんなバカな……」


 ミミの冷静なツッコミに、ギドさんはがっくりと肩を落とす。新たに釣り上げた藻の塊を手にしたまま、その場に膝をついてしまった。


「ふふっ、ドンマイですよ、ギドさん」


 僕が慰めると、ギドさんは悔しそうに唸りながらも気を取り直した。


「次は絶対釣ってやる!」


 ギドさんは少しムキになって、再び竿を振るった。

 そんな彼を見て、ミミが楽しそうに笑い声をあげる。


 騒がしい二人を眺めながら、僕は幸せな気持ちに浸っていた。

 かつては孤独だったドワーフと、居場所を失った獣人の少女。

 種族も年齢も違う二人が、こうして本当の家族のように笑い合っている。

 僕が作りたかった「楽園」は、きっとこういう場所なんだろう。


「あ、アル兄! 引いてるニャ!」


 ミミの声に我に返ると、僕の竿が大きくしなっていた。

 リールを巻くと、水面から巨大な魚影が跳ね上がった。


「おっと、これはデカいぞ!」

「すげえ! 師匠、ヌシじゃ! ヌシを釣り上げおった!」

「すごーい! 今夜はご馳走だニャ!」


 ギドさんが大興奮で叫ぶ。

 ミミが飛び跳ねて喜ぶ。

 その後も僕たちは、さらなる大物を釣り上げるべく大騒ぎしながら、なんてことのない、平穏なひと時を楽しんだ。




  ◇   ◇   ◇




 その夜、僕たちは釣った魚を囲んで、賑やかな夕食を楽しんだ。

 ルナが魚を香草焼きにしてくれて。

 セラフィナも「あら、意外といけますわね」と珍しく褒める。

 ギドさんは上機嫌でドワーフの酒を飲み。

 ミミは満腹になって、ギドさんの膝の上で眠ってしまっていた。


 僕はその光景を肴に、静かに杯を傾けた。

 外の世界では、魔王の復活や、人間族との対立といった不穏な動きがある。

 けれど、ここには確かな平和がある。


 この小さな幸せを守るためなら、僕はいくらでも戦えるだろう。

 そう思える、穏やかで温かい夜だった。



 -つづく-

次回、第44話。「多種族による円卓会議 (サミット)」。

村の未来について語り合う。もしかすると、あらゆる種族の未来さえ。


ブックマークや☆での評価、感想などいただけると励みになります。

応援のほど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ