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灰燼のイニティウム  作者: 白カラス
太平洋連合経済圏編
8/11

死に損ない Ⅲ

 少しばかり時を戻そう。


《なんだアイツら? 旧世代型……?》


《第三世代機、だよな》


《識別信号は新ソ連とユーラシア社会主義経済圏……傭兵というわけでもない……》


(……おかしい)


 エレーナはVANGUARD軽装型飛行仕様《WHITE GRAVE》のコックピットの中で独り呟く。

 昨日奪取した鉱脈の防衛戦に出撃したが、奇妙なことに旧世代型の数が異様に多いのだ。前線指揮をしているであろうмедведь(メドヴェージ)もいるにはいるが、昨日と比べて数が少ない。


《もしかして昨日ので大半使い果たしたんじゃねぇか!?》


《なら今回は楽だねぇ……!!》


《あっはっはっ!! 死んじゃえ!!》


 戦闘開始から数十分が経とうとしている最中、逸った僚機が大地に突き立て簡易陣地としていたシールドから這い出、前線へと踊り出す。



──違和感(おかしい)



 新ソ連製の第三世代量産機ははっきり言って現行の第四世代量産機よりも弱い。装甲の堅牢化とその為に必要とされる推力がまるで噛み合わず、《鈍足固定砲台(ノロマ)》と揶揄される程なのだ。旋回性にも難を抱えており、まるでこちらの動きについていくことが出来ていない。

 物量を正義とする新ソ連を始めとするユーラシア社会主義経済圏がわざわざ第三世代機を出すのか、という疑問が払拭できないままにエレーナは撃ち切ったアサルトライフルを投棄。高周波ブレードを抜き放ち、擦れ違いざまに旧式機を一刀両断。


《死ねぇぇぇ!!》


「……っ」


 一機のмедведьがこちらに向かって突貫。

 ハルバードの大振りの一撃を跳躍してエレーナは回避しつつ、左前腕部のグレネードランチャーを発射。

 二発ずつのグレネードを三連射、合計六発のグレネードを発射し終えると即座にパージ。


《むぅんっ……!!》


 だがそれらはラウンドシールドによって阻まれる。爆煙の中を突っ切るようにмедведьは増設ブースター及びスラスターを瞬間的に吹かし、突貫。シールドバッシュを放つ。


「ちっ……」


 眼前に現れたラウンドシールドを衝突する前に高周波ブレードで上方向へと弾き、防ぐ。もし受け止めていればシールド表面に搭載されていた四門の爆砕砲の餌食になり、装甲の薄いWHITE GRAVEではあっという間に木端微塵にされていたことは創造に難くない。

 思い切り弾いたことでガラ空きになった胴体へと急加速。WHITE GRAVEはそのコックピットへ向けて高周波ブレードを突き立てんと迫る。


バァンッ!!


「……っ!!」


 медведьのパイロットはにやり、と口角を上げる。


()()()()()()……!! いつ見ても厄介!!」


 胴体正面装甲が爆ぜ、高周波ブレードを吹き飛ぶ装甲板とその衝撃により弾き飛ばし、半ばからその刀身を圧し折る……!!

 大勢を崩すWHITE GRAVEへすかさずмедведьの体当たりが炸裂。


「ぐっ……!!」


 重量差故に簡単に突き飛ばされ、エレーナのコックピットではパイロット保護の為のエアバッグが展開。エレーナはエアバッグにぶつかり、跳ねながらも操縦桿とペダルを忙しなく操作し、体勢を必死に立て直しつつ後方へと急加速。


《うぉぉぉぉぉ!!》


バァァァン!!


 振り下ろされるハルバードを寸での処で回避し、起き上がる。

 だが、медведьより放たれた合計十二発のミサイルが迫る。エレーナはWHITE GRAVEの12.7mm CIWSを起動し、高レートによる銃弾を連射。ミサイルを迎撃しつつ片方が半ばから折れた二振りの高周波ブレードを振るい、CIWSで撃ち落とせなかったミサイルを斬り払う。


(……こいつ、出来る……!!)


 他とは違い、練度が高い──一筋縄ではいかないその相手に冷や汗が頬を伝う。



──静寂。



 互いに瞬時に相手の間合いに飛び込める距離で、両機は睨み合う。



ブゥン……



 WHITE GRAVEの青いモノアイが……そしてмедведьの奥まった位置にある真紅のツインアイが怪しく輝いたその刹那──



──斬ッ!!



 両機は交錯する。



 WHITE GRAVEは高周波ブレードを居合から振り抜いた体勢で。

 медведьはハルバードの柄を短縮した大型トマホークを振り下ろした体勢で。

 互いに静止して数秒後──



ズゥン……



 崩れ落ちたのは──медведьだった。



 だが、



バキィン……!!



 WHITE GRAVEの左腕の付け根から断裂。

 確かにмедведьの一撃は届いていた。


「……ちっ」


 思わず舌打ちをするエレーナ。


《……太平洋連合経済圏のパイロット。一つ、教えてやる》


 VOICE ONLY、と表示された通信が届きエレーナは顔を顰める。


《……この戦い、我々の勝ちだ》


「なにを──」


 次の瞬間。



バァァァァァァン!!



(爆発……!? 一体どこから……この方向は……基地の方か!?)



──()()()()()



《は、はははは……!! お前達も、どの、みち終わり、だ……》


「……黙れ」


 息も絶え絶えなその兵士の乗るмедведьに高周波ブレードを突き立て、コックピットを貫き沈黙させると即座にエレーナは指示を飛ばす。



「全機へ通達!! これは陽動だ!! 繰り返す!! これは陽動だ!!」



 引き返す……否、間に合わない。

 すぐにでもここに別動隊が雪崩込み物量差で押し潰される。


ピコン


ピコンピコン


ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン


 レーダーには敵性体を示すブリップが大量に灯っていく。


(包囲されていた……!? そうか……さっきまで電源を落として引っかからないようにしていたのか……!!)


 やられた、とエレーナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「総員撤退!! 最大戦速で敵部隊を突っ切る!!」


 もうどれだけ僚機が残っているのかもわからない。

 エレーナは指示を飛ばすや否や即座にスラスターを吹かし、事前に覚えていた地形図から最も近い他基地の方向目掛けてWHITE GRAVEを疾駆させる。


「邪魔、すんな……!!」


 倒す必要は無い。

 逃げる為に。そして生きる為に。

 道を妨げる敵機を蹴り飛ばし、足蹴にし、時にメインカメラのある頭部を斬り飛ばす。


 斬る。


 斬る。


 蹴る。


 蹴る。


 斬る。


 斬る。


 操縦桿を握る腕が極限状態から来る疲労により次第に重くなり、ペダルを踏む脚の動きも鈍りが生まれてくる。

 しかし、突破するまでまだ遠い。


 斬る。


 斬る。


 蹴る。


 斬る。





 どれだけ経っただろうか。

 気付けば森の中にいた。

 一直線に突っ切ってきたのだ。方向としては間違っていない。

 だが……



「……応答せよ」



 応える者はいない。



「……各機、応答せよ」



 また、独り生き残ってしまった。

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