死に損ない Ⅱ
キャラクター紹介
エレーナ・コマロフ
階級は中尉。年齢は20歳で、身長は155cm。誕生日は5月1日。
プラチナブロンドのロングヘアに赤い瞳の太平洋連合経済圏のパイロット。アメリカ出身だが、両親は新ソ連の出身であったことから敵性外国人隔離政策により強制収容所で育つ。まともとは言えない過酷な環境から同年代と比べると身長が低く、どこか儚げで大人びてしまっている。
悪運の強さと元来のパイロットとしての適正の高さから各戦域で生き残り続けている。
好きなものは美味しいものならなんでも、猫。嫌いなものは孤独。
「……コマロフ中尉」
報告書を提出し終えたエレーナ・コマロフは痩肉の男に呼び止められていた。神経質そうな細く角ばった眼鏡をかけ、艶のない金髪をオールバックにした長身の男は眉間に皺を寄せ、冷徹そうな三白眼の瞳をギロリとこちらに向ける。
「……なんでしょうか、中佐」
特に不備は無いはずだ──エレーナは怪訝そうに尋ねる。
「確かに、私は鉱脈を手に入れろ、と言った。だが……この弾薬の消費は何だ!?」
雷鳴の如く響き渡る怒号。
エレーナは訳が分からず、ポカンとしている。しかし、それがこの男の怒りのボルテージを引き上げる。
「貴様ら敵性外国人の部隊の弾薬費だ!! 何故純粋な国民でない貴様らが正規軍よりも多くの弾薬を消費している!?」
ダン、と報告書の束をデスクに叩き付ける。
「前線で正規軍の盾になるべき貴様らが基地の弾薬を食いつぶすなどあってはならない!! あれは貴様らの為ではなく、ここにいる正規軍の!! 我が国の民の為の弾薬なんだぞ!? それを……!!」
バキィッ!!
「……っ」
「汚らわしい血を引く貴様らが使っていい理由などあるものか!!」
ダァンッ!!
ごは、と咳き込むエレーナ。
思い切り殴られ倒れ込んだ上に、腹部を思い切り蹴り飛ばされ壁に叩き付けられた衝撃で肺の中の空気が一気に吐き出され、嘔吐く。
「所詮!! 貴様らは!! 美談に塗れた!! 我が国の!! 資源を食い潰すドブネズミだ!!」
「ぐっ……」
怒りは未だに収まらず、男はエレーナを何度も罵倒し踏み付ける。
「虫唾が走る!! 何故!! 貴様らが生きている!? 何故!! この私の足を引っ張る!? 貴様らさえいなければ今頃は!! もっと戦果を挙げて!! 階級だって!!」
痛みに耐えかね、腹部を守るべく蹲るエレーナが無抵抗なのをいいことに繰り返しその背を踏み付ける。
「貴様らさえいなければ私の妻は死ななかった!! 貴様らさえいなければ、平和だったのだ!!」
バァンッ!!
「かはっ……!!」
思い切りエレーナの脇腹に足を振り抜き、吹っ飛ばされる様を横目にはあはあ、と肩で息をする男。
「……次の作戦、使える弾薬は1マガジンのみと覚悟しておけ」
出ていけ!!と咆哮するその男を背に、よろよろと立ち上がったエレーナは痛みで軋む小柄な身体を引きずりながらその男の部屋を後にする。
──見ろよ、またボロボロだぜ
──アイツだけ新ソ連の人間だろ? あーいう役割も引き受けてくれるなんてありがたいねぇ
──しっ!! 聞こえてるわよ!! 目を合わせたら呪い殺されちゃう!!
──ぜーんぶアイツになすりつければいいもんなぁ
冷ややかな瞳。そして、嘲笑。
確かにエレーナは敵国の血を色濃く引き継いでいる。
差別の対象になった彼女ら敵性外国人は一枚岩ではない。自分達の心の安寧を得る為に、この不当な扱いに対する不満の捌け口を作る為に、明確な敵国出身の人間や少数民族を自分たちの共通の敵にする。自分達は悪くない、全部アイツらのせいだ、アイツらがいるから自分達はこの不当な扱いを受けている──根拠の無い噂も相まって、敵性外国人の中でも暴力の構造が形成されていった。
(……仕方無い)
こうでもしないと自分達の心を保てないから──だから、エレーナは反論しない。
こんなのはおかしい、と、否定しない。
誰かを踏み付け犠牲にする社会構造が無ければ、大戦で大きく傷付けられた人の心は仮初とはいえ言えることはないのだから、大手を振って攻撃できる対象がいないと人間は壊れてしまうから。
自己保身の為の犠牲が出ることは、きっと仕方の無いことだから。
エレーナはそう自分自身に言い聞かせて、諦める。
どうしようもない現実の閉塞感を受容し、諦観する。
(……明日の作戦、練り直さなきゃ)
翌日。
「な、なにが起こって……!? ひ、ひぃぃぃ!? 死にたくない!?」
内通者の存在により、別動隊によって基地は壊滅。
現部隊は解散され、生存兵は別戦地へと転属されることとなった。
生存兵、一名。
エレーナ・コマロフ中尉
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