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矜持 Ⅰ

 雪原にて、再びフェリクス率いる第7EFW旅団の新兵で構成された部隊は反抗勢力への武力侵攻を行っていた。

 今回はフェリクスは直接的に戦闘には参加せず、遠巻きに丘の上から俯瞰している。


「今回はうまくやってるみてぇだな」


 前に見せた映像か、それとも自身の叱咤が効いたのか、フェリクスにとっては新兵が自身の意識改革をし、強くなるのであればどちらでも構わない。

 特に隊長を務める新兵の成長は目覚ましい。パイロットとしての技量はまだ粗削りだが、指揮能力や状況を俯瞰する力に秀でている。孤立しないように立ち回りながら、以前は苦戦していた反抗勢力相手に善戦し、確実に追い立てているのが証拠だ。


「……しかし、妙だな」


 何か引っかかる。

 拠点の一つを襲撃したのはいいが、数が少ない。それに、本拠地にいるはずなのに練度もあまり高くない。

 フェリクスが考え込む間に着々と状況が動き、残り数機となったその時。


「……なるほど、君ら(ゴミムシ共)の狙いは俺ってわけね」


 先程まで存在しなかった熱源反応が一気に自機の周囲を取り囲むように出現する。

 電源を落として探知に引っ掛からないようにでもしていたらしい。


「フェリクス・セルゲーエフ大佐だな。貴様にはここで死んでもらおう」


 スピーカー越しに聞こえるのは壮年の男性の声。ぴくり、とフェリクスは眉を動かす。

 どうやらフェリクスはその男を知っているようだ。


「誰かと思えばキミか、シドロフ大佐。いや、()()()と呼んだ方がいいかね?」


「私から言わせてもらえば」


 シドロフ大佐、と呼ばれた反抗勢力の戦闘員は、ブゥン、とその機体の()()を怪しく輝かせる。


()()()()()()()()……我が祖国(ソビエト)にとってな」


「……の、割には敵対者の機体を使うんだねぇ」


「黙れ。今の恥ずべき祖国の機体など使えるものか。我らの手で、清浄に戻してこそ、初めて誇りあるというもの……!!」


「そ。じゃあ、死ねよ、ゴミムシ」


 フェリクスの駆るアジェダハと、シドロフの駆る()()()()()()()()()()()E()F()W()《RSG-CWE-F32M KESTREL 中量型》がそれぞれスラスターを噴かし、激突する。

 アジェダハはその背面バックパックから引き抜いた大型ビームサーベルを振るい、中量型とするべく脚部換装を行ったケストレルはその手に持つ大型バスターソードで以て受け止める。


「邪魔だよ、君ら」


 すると、フェリクスはすかさずバックパック左側に搭載された32連装式の小型ミサイルを周囲のメドヴェージや第3世代機に対しマルチロックによって発射。


「チッ……!!」


 シドロフはフェリクスを押し退け迎撃に向かおうとするが……


「やらせるわけないだろぉ?」


 重量差故に、逆に突き飛ばされ体勢を崩してしまう。更に、体勢を崩した所にアジェダハの前腕部の装甲をスライド、そこから露出した90mm機関砲をケストレルへ向けて斉射。シドロフは大型バスターソードを用いてシールド代わりとすることでそれを防ぐも、フェリクスによる僚機への接近を許してしまう。


「お、お前なんて怖くねぇ!!」


「死ねぇぇ!!」


「よせ!! 隊列を崩すな!!」


 武者震いと共に息巻く反抗勢力の戦闘員は機体を一気に加速させてアジェダハへと近付くが、次の瞬間にはコックピットを次々と一閃。


「ギャハハハ!! そぉらどうしたぁ!!」


 マニピュレーターを兼ねるクローユニットで両断されたメドヴェージの上半身を軽々と掴み上げ、盾代わりにしつつアジェダハは他のメドヴェージへと接近。掴み上げている上半身を鈍器代わりに叩き付け、メインカメラを破壊すると共にクローユニットで胴体正面装甲を鷲掴みにする。


「ひ、ひぃぃ……!? た、たすけ」


「ご臨終だ」


 胴体正面装甲を引き剥がすことで爆発反応装甲を無力化。そのクローユニットを灼熱化させつつ、高周波振動させ切断能力を高め、コックピットを刺し貫く。その体勢のまま、他機体からの攻撃を防ぐ盾とし、残骸を再び鈍器代わりに殴り付けることで吹き飛ばし、衝撃で内部人員を殺害する。


「フェリクス……!!」


 目の前の惨劇に憤慨するシドロフはケストレルの速度を活かし、アジェダハに後方から体当たりを仕掛けた。一瞬だけアジェダハの体勢が揺らぐが……その大型の腕部で以て殴り飛ばされる。


「……何かしたか? ゴミムシ」


 冷たく、地獄の底から響くような声音。

 シドロフは理解する──フェリクスがあの頃(大戦期)と何ら変わらぬ残虐さを持つことを。そして、一度裏切者と断じられた以上、こちらの対話に応じるつもりは微塵も無いことを。


「何故だ……!! 何故貴様は戦う、フェリクス・セルゲーエフ!!」


「何かと思えば……そんなことかよ」


 逆に聞きたいがお前は何の為に戦っている──フェリクスは呆れたようにシドロフに尋ねる。

 決まっているだろう、とシドロフは吠えた。


「祖国の為だ!! あの偉大なる祖国を取り戻す為に!! 我々は今こそ立ち上がり、権力の上で甘い汁を啜り、民衆を顧みぬ政府を倒さなければならない!!」


 これは革命だ、と続ける。


「わからないのか!? 既に祖国はその在り方を醜く歪められている!! 私欲の限りを尽くす奴らこそ、ブルジョワジーではないか!! であれば!! 今こそ奴らを倒し真なる平等を」


「そういうのいいから。尋ねたのが間違ってたよ」


 次の瞬間、ケストレルは思い切り蹴り飛ばされていた。


「な、ぜだ……! フェリクス……お前は我々の思想を理解出来るはず……同志になれるはずなのに……!」


「理解もクソもねーよ。前提がそもそも違うってのに」


 思想に囚われなければシドロフは良い軍人になったはずだ、とフェリクスは内心で呟く。思想に囚われるからこそ熱くなりやすく、そして否定された時に酷く動揺する。確かにフェリクスにも一時期そういう思想に傾倒したこともあるのだろうが、今は違う。


「俺にとって重要なのは、今を生きる若者。そして……俺の嫁と娘だ。もう別れたが……その思いだけは永劫変わることはねぇ」


 体制も、思想も、革命も、何も必要は無い。

 ただ、自分にとって、生きていてほしいと心から願うことの出来る者たちがいるのならそれで構わない。


「そんな……そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?」


「見ている世界が違うんだよ」



──もう、黙れ。



 フェリクスはアジェダハのクローユニットで放心状態のケストレルを掴み上げ、冷酷に言い放つ。


「貴様らゴミムシ共の居場所など、この世に一つもない。……死ね」


 頭部を握り潰しながら……貫手で超熱振動クローをコックピットへと突き立てる。

 深く、深く。

 この凍土に、()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……不愉快だ」


 ケストレルのその背まで貫き、一気に引き抜く。

 ブシャア、と鮮血が迸るように、貫かれた孔からはオイルと肉片の混ざり物が勢いよく吹き出し、やがて、膝をついて雪原へと倒れ伏す。


「大佐、聞こえますか? こちらは作戦目標を達成しました。応答願います、大佐」


「ん? ああ、今行くよ。よくやったねヒヨッ子諸君!! 及第点をあげよう!!」


「は、はい!! ありがとうございます!!」





 正義など、世迷言に過ぎない。











◾︎EFW DATA

機体名:KESTREL

型式番号:RSG-CWE-F32M

所属:コモンウェルス経済圏→反抗勢力

世代:第4世代

全高:18.7m

機体重量:61t

重量帯:中量機

動力源:バッテリー

最大速度:マッハ4

瞬間速度:マッハ2


◾︎地形適正

[地上]〇

[空中]△

[水中]✕

[森林]〇

[砂漠]〇

[寒冷]〇


◾︎兵装

●主兵装

・ULTIMA AR-100

威力と貫通性を重視し、従来品よりも大きな100mm口径のアサルトライフル。下部にグレネードランチャーが取り付けられている。製造コストが嵩んだ為に現在は製造・販売が終了してしまっている。


・HBS/BR-GIGANTES

刀身をヒート兵器とした大型バスターソード。高強度故に腹の部分をシールド代わりにすることも可能。また、グリップを曲げることで大型ビームライフルとしても扱えるようになっている。


・GUST ML-5

両肩に装備された5連装ミサイル。中距離用にレンジを調整されており、マルチロックに対応可能。

同時発射最大数10(左右合計)。装弾数20。


・スラスターバインダー

サイドスカートを兼任する形で装着されたスラスターユニット。地上や低空における姿勢制御能力を大幅に高めることが出来る。


●副兵装

・12.7mm CIWS

側頭部両側に搭載された格納式の近接防御火器。口径は12.7mmであり、高レートでの連射が可能。牽制やミサイルの迎撃において用いられる。


●内装関連

・フレア

誘導ミサイルによる追尾を逸らすために使用する、熱と光を放つデコイ。

両肩上部に搭載されている。


・補助AI

コモンウェルス経済圏の得意分野たるシステム系の最たる製品。高度な人工知能による戦闘時のオペレーティングを担い、僚機へのデータリンクによる集団戦の効率化をも行う。

声音は自由に変更可能。


◾︎機体概要

コモンウェルス経済圏が開発した第4世代量産型EFWの脚部を換装することで積載能力を高めた中量型。速度こそ若干犠牲になったものの、その代わりに重心を低めることで安定性を高めることに成功しており、接地圧の分散により本来アタッチメント無しには不得手としていた雪原での戦闘も可能となっている。若干犠牲になったその速度もスラスターバインダーを装着することによって改善しており、従来の高速戦闘を可能とした。

本機は大戦期の生き残りたるシドロフ大佐用に何者かの手によって齎され、ビームライフルを兼任する大型バスターソードを装備した近接格闘機としてチューンが成されている。

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