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灰燼のイニティウム ──壊れかけの世界で、明日へ藻掻く機械仕掛けの記憶──  作者: 白カラス
第一章「戦火の予兆」ユーラシア社会主義経済圏編
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クズの願い

 やれやれ、とんだ厄介ごとを請け負ってしまった。


「セルゲーエフ大佐、機材の準備が完了しました」


「あー……うん、ありがとね」


 ”コモンウェルス経済圏の新型機の報告”──近年国家間合同で開発が進んでいるとされている第5世代機に関する情報を分析しろのお達しである。正直気乗りしない。

 そもそもこういうことは諜報部隊がやることじゃないのか? だが、新兵教育の為、という命令を下されてしまえばこちらとしては拒否できない。


「……こういうこともするんですか?」


「いんや……今回が特殊ってだけさね」


 新兵諸君がそんなことを聞いてくるが、本当に今回が特殊なだけなのである。ま、それだけ上層部の期待がこの部隊に寄せられてると考えればいいよね。


「知ってるのと知らないのじゃあ、知ってる方がある程度の対策も組めるってもんさね」


 それが出来るかどうかはこれからの伸びしろにかかっているのであはあるが。

 そうこうしている内に準備が出来たようだ。


「各員にはこの情報についての守秘義務が課せられます。大佐、それは貴方とて例外ではありません、との通達が来ています」


 情報管理は必要だろうね。……だがやはり新兵にやらせるものなのだろうか。

 天井から降ろされたスクリーンにプロジェクターによって、映像が投影された。曰く、トライアルの観客席に紛れ込ませたスパイからの情報らしい。……そのスパイは生きてないないだろうね……この体制だ、”処理”されているのだろうさ。


──ワァァ……!


 観客の歓声と思しき音声。

 映し出された光景を見るに、野外に設置された訓練場だろうか。随分と広大だ。

 すると、カメラが動いたことで画面が切り替わる。



──空間を切り裂く、濃紺の閃光。



 それは、展開されている訓練用ドローンが瞬く間に撃墜されていく。


「あ、あれは……!?」


「速い……」


 へぇ……なるほど。奴さん、とんでもない物を作ったみたいだ。

 コモンウェルス経済圏の誇る第4世代量産機《RSG-CWE-F32L KESTREL》の比にならない程の速度だ。戦闘機を模した鋭角かつ流線形のフォルムを引き継ぎつつも更に発展させた、四肢をより薄く、細身に、更に全身に飛行翼を分散配置することで、映像を見る限りだと()()()()()()()()()()()()()単独での飛行が可能らしい。

 しかし、同時に装甲防御は犠牲になっているに違いない。


「クク……あの空力狂い共……本格的に制空権を、戦闘機の役割を奪いに来たな?」


 過去の大戦でもその予兆は見られた。

 コモンウェルス経済圏製の軽量機は速い。しかもただ速いのではなく、小回りが利く。推力任せの他陣営とは異なり、《EFW空力理論》なる、EFWに対してスタビライザーや飛行翼を装着することによる空気力学の観点から見た機動性や燃費の変化に関する検証からEFWへの機動性の向上の為にそれらの形状や位置、稼働を実験し、提唱された理論によって成しえた機動性にあった。

 はっきり言って複雑怪奇であり、これらを実験し、理論として提唱するのは不可能ではないが、証明しようとするのは大馬鹿者のやることである、と一蹴されていたのである。それを、コモンウェルス経済圏の空力狂いの科学者や技術者共は多くの犠牲を積み重ねた果てに、完成させてしまったのだ。


「制空権を……?」


「ああ、そうとも。……ケストレルの時点で既に奴らの機体速度は戦闘機を凌駕している……これまではバックパック換装で空戦に対応させていたが……はっきり言って戦闘機と比べれば細かな機体制御を苦手としていた。……だが、よく見ろ」


 ついでに、巻き戻せ、とも言っておく。

 スタンドアローンと思しき第3世代機やケストレルを相手に、縦横無尽に空中を飛び回り、細かな姿勢制御による回避で被弾を抑え、ビームライフルやガトリングで急所を狙い撃墜。最後は上空から振り下ろしたビーム刃で両断した。


「こいつは空中でも敵弾を回避する程の器用さを持ってやがる。それに、横方向への急速な加減速も問題なく熟せると見た。あとは中身(パイロット)次第だが……やりようによっては今回のような近接寄りから拠点爆撃用にも転用出来るはずだな」


 明らかに戦闘機の機動性を上回り、更に武装に関してはオプション換装を前提としたような装備構成、基本装備の火力もケストレルの基本装備に比べると申し分無しと来た。流石は第5世代というべきか。


「こんなのが量産されたら……」


 確かに、我が祖国、そして陣営たる新ソ連やユーラシア社会主義経済圏の量産機は他陣営に比べれば鈍足だ。速さにおいては太刀打ちできる道理など存在しない。


「そうとも限らないぜ?」


「……?」


「確かに速さにおいては向こうに分がある。だが……俺達は装甲防御、特にパイロットの生存性においては群を抜いている。なら……陣形をしっかりと組み、(弾幕)で押し潰す。あれだけ薄っぺらなんだ。一発当たっただけでも崩れやすいだろう」


 確かに、といった様子で目の前の新兵達は頷いている。

 何ら変わりは無いのだ。

 基本に忠実に、功を焦らず、得意とする数による圧殺により仕留める。張り合うのではなく、持ち味を活かすべきなのだ。

 それに、あの機体はパイロットの技量に極端に依存する機体と見た。であるならば、数を揃えるにはそれなりの時間を要するだろう。一朝一夕に機種転換が進むわけがない。

 今焦るのは少し、速い。


「だからこそ君らには早急に独り立ちしてもらわにゃならん」


「……精進します」


 それこそ、俺の()()()()無しに反抗勢力(ゴミムシ)共を蹴散らせる程度には強くなってもらわなければならない。

 各国・各陣営にて第5世代機の研究が進んでいるというのなら、遠からず勃発するであろう第二次機動大戦の主役は第4世代機から程無くして第5世代機に、そして現在も少数ながら運用されている戦車や戦闘車両、戦闘機や潜水艦というものは第5世代機に各分野において役割を奪われ、この地上から淘汰されていくであろう。

 これらの行き場所(最終処分場)は博物館だろう。そう、旧時代の遺物として、だ。

 であればなおのことEFWパイロットの存在は重宝される──特にそれぞれの兵科に所属していた兵士にEFW操縦訓練を施し専門技術を活かせるようにしたパイロット──こととなる。ちょっとやそっとで死なれちゃ俺は困る。


「ギャハハ!! 頑張りたまえよ、新兵(ヒヨッ子)共。おじさんは期待してるぜ?」


 確かに俺はどうしようもない、救いようのない戦争狂(クズ)だ。

 祖国の為に戦い、散々殺し、奪いつくした。

 家族とも擦れ違いが増え、そうしたいわけでなかったのに、結果的に蔑ろにしてしまった。

 誇りもクソも、今更存在しない。




 だが、若者に生きていてほしい、と願うのは我儘なのだろうか。

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