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灰燼のイニティウム ──壊れかけの世界で、明日へ藻掻く機械仕掛けの記憶──  作者: 白カラス
第一章「戦火の予兆」ユーラシア社会主義経済圏編
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灰色の空 Ⅱ

「苦戦している、か」


 戦場最後方。フェリクスは双眼鏡を覗きながら呟く。

 新ソ連東部にて、フェリクス率いる第7EFW旅団の部隊のうちの一つ、新兵を中心に組織された中隊は反抗勢力鎮圧の為に戦闘行動に入っていた。

 既に2時間が経過しているが、未だに鎮圧しきれていない様子にフェリクスはふん、と溜息を吐いた。


(ま、初陣からそう時間も経ってないし、これだけもたせられれば及第点ってとこだよね)


 新兵相手に無茶な指示は飛ばせない。まあ、自分以外の将校なら無茶を強いるだろうが、と呟きながらフェリクスは右眼に巻いた眼帯を外す。


──戦術義眼


 網膜投影装置の故障によって失明した彼の右眼に移植された義眼である。元は視力を回復する為だけのものであったが、アップデートにより簡略化されたEFWのセンサーと搭載している為にパイロット個人の反応速度や動体視力、戦況解析能力の著しい向上を果たした代物だ。


「……ふむ。この規模なら”1発”で足りるか?」


 義眼内部でレンズが静かに稼働し、積載された超極小の計算装置とセンサーが同期し導いた”解”。

 双眼鏡を仕舞い、フェリクスは自身のEFWへと乗り込む。


「システムチェック完了──起きろ、《AJDAHA(アジェダハ)》」


 第5世代EFW《AJDAHA(アジェダハ)》。

 核融合炉が呻りを上げ、生成される莫大なエネルギーを黒燼結晶を介し更に増幅し、機体全体へと行き渡らせていく。

 立ち上がるは異形。

 その頭部は”竜”を彷彿とさせ、前腕部は大型化している。

 

──ガコン……


 重苦しい音とともにアジェダハの背部バックパック右側に搭載されたユニットがアーム上の接続部によって稼働し、その()()を前方へともたげる。

 Aнафема(アナフェマ)──大型陽電子ビーム砲を大型化したマニピュレーターで支え、義眼及び機体センサーを同期させて照準を合わせていく。


「あー、あー、新兵共ー聞こえてるかー。()()()()()()()()今すぐそこを離れろー」


「そ、そんなこと言われても……!!」


「こん、の……!!」


 新兵達が乗るメドヴェージは反抗勢力側の第3世代機や鹵獲品であろうメドヴェージをどうにか突き飛ばす。尚もしつこくマシンガンやバズーカを撃ち放ち、ハルバードやトマホークを振るい迫る反抗勢力側のEFWに新兵達はある種の恐怖を感じながらもCIWSやビームランチャーを撃ち放ち、近付けさせないようにする。


「……奴さんもしぶといねぇ……”自由”だの”正義”だの……今の新ソ連じゃそんなもの求められていないってのに」


 共産主義に、そしてかつての如く全体主義に染まっている新ソ連。国民に対しては洗脳にも等しい教育が施され、国家の意向に逆らうことを知らない。というのも、少しでも異を唱えれば秘密警察によって良くて()()()。最悪、文字通り()()()()()()()

 民衆に潜在的な恐怖を植え付け、同じ方向を向かせる。

 少しでも異なる方向を見ようとすれば糾弾され、正される。


 誰もがそれが正しいと、信じているから。


 信じ込まされているから。


 だからこそ、届かない。


「ジェネレーターリミッター限定解除、急速充填開始。陽電子発生装置正常稼働。冷却装置最大稼働、砲身温度正常。圧縮率99%。安全弁全閉鎖。エネルギーチャージ完了。磁場・自転誤差修正。照準クリア」


 発射シークエンスを読み上げ確認しながら進める。

 一時的にリミッターを外されたジェネレーターから急速に供給されるエネルギーにより上昇し続ける陽電子ビーム砲の砲身温度を下げるべく冷却装置を最大稼働。圧縮率は99%に達し、危険域到達によるオーバーロードを警告するアラートが鳴り響く中、地球の磁場及び自転の影響によって生じる若干の誤差を修正。

 モニター中央の照準を自軍の機体が撤退する中、反抗勢力の隊列の中央付近へと合わせる。


「警告する、これより当方は陽電子ビーム照射を開始する。自軍は直ちに影響範囲外へと出られたし」


 秘匿回線により自軍への最終通達をするフェリクス。

 コンソールには陽電子ビームの効果範囲が表示された。既に反抗勢力を示すブリップは有効射程内に入っており、自軍は既に有効射程内、及び陽電子の対消滅──この場合電子と陽電子が出会うことで消滅し莫大なエネルギーが発生する──によって発生するガンマ線のような有害な放射線の範囲外に出ていることの確認を終える。


Aнафема(アナフェマ)全システムオールグリーン。照射まで──3」


 秒読みを始める。


 フェリクスはモニターを睨みながら呼吸を整えていく。


「──2」


 逸る鼓動を抑え、深呼吸。


「──1」


 引き金は優しく。


 猫を撫でるように。


「──発射」


 刹那。



──ィィィィィィィィィィィンンンンンンン!!!!!!!!



 耳を劈くような轟音。



 世界を白く染める極光。



 放たれた光の本流は──




「な、なんだ!? 超高エネルギー反応!?」


「計器がイカれているぞ!?」


「あ、あれは」





 その本質を理解するよりも()に。


















 文字通り()()()()()









◾︎EFW DATA

機体名:AJDAHA(アジュダハ、悪竜の意)

型式番号:ZL-ESE-03

所属:ユーラシア社会主義経済圏

世代:第5世代

全高:20.5m

機体重量:98.5t

重量帯:重量機

動力源:核融合炉

最大速度:マッハ4

瞬間速度:マッハ2


◾︎地形適正

[地上]〇

[空中]△

[水中]△

[森林]〇

[砂漠]〇

[寒冷]〇


◾︎兵装

●主兵装

・Распятие(ラスピアーチェ:磔刑の意)

マニピュレーター部に搭載されたヒート兵器と高周波兵器の利点を組み合わせた超熱振動クロー。格闘戦に対応する為に異形とも取れる程に大型化した腕部によって放たれるその一撃は敵機の装甲を容易く引き裂き、刺し穿つ。


・Сожжение(ソッジェーニエ:火刑の意)

背部バックパック両側に搭載された、大型高収束ビーム砲を兼任するアジュダハ専用に設計された大型ビームサーベル。一般的なEFWでは保持が難しい程に軸太と化した分、出力は絶大で同世代のビーム系近接兵装の中でも一線を画する。バックパック接続時はジェネレーター直結式の大型高収束ビーム砲として運用可能。


・Крупа(クローパ:霰の意)

前腕部装甲内部に格納された90mm機関砲。使用時は前腕部の装甲をスライドさせることで砲口が露出する。近~中距離用射撃兵装であり、牽制やミサイル迎撃にも用いられることがある。


・Ливень(リーヴィ二:大雨の意)

背面バックパック左側に搭載された32連装小型ミサイルポッド。ミサイル1発の大きさこそ小型ではあるものの高性能炸薬を使用していることで侮れない威力を持つ。マルチロックにより同時に32機の目標を同時に捕捉し、発射することが可能。


・Aнафема(アナフェマ:破門の意)

背面バックパック右側に搭載された大型陽電子ビーム砲。元々は陽電子砲としての運用が考えられていたが現行の技術力では単体の陽電子砲としての機能では陽電子の保持が困難とされ、さらに大気中で電子との対消滅反応──この場合電子と陽電子が出会うことで消滅し莫大なエネルギーが発生する──によりガンマ線のような有害な放射線や通信障害を起こすほどの強力な電磁波を放つ等の問題も抱えていた。その後の技術開発により当初想定された威力と引き換えにビームに内包する形で陽電子を保持及び安定化に成功しており、また、環境への影響も最小限度に抑えることに成功している。

威力が安定性と引き換えになったとはいえその威力は絶大であり、重量機相手でもビームコーティングを施していたとしても、掠めただけで蒸発させる程である。しかし砲身の冷却の為に連射が出来ない。


・大型スラスターユニット

上記の《Сожжение》《Ливень》《Aнафема》を搭載したウェポンプラットホームとしての役割を兼ねる大型スラスターを搭載したバックパック。高出力スラスターユニットを搭載しており、本機に重量機に見合わぬ高い機動性を与えている。


●副兵装

・12.7mm CIWS

側頭部両側に搭載された近接防御火器。口径は12.7mmであり、高レートでの連射が可能。牽制やミサイルの迎撃において用いられる。


・FS-R4

左脚部に装着された複合装甲採用型の物理シールドの第4次改修型。

脚部防御に特化しており、前進・突撃時の被弾を前提にその部位の防御を行うことで損傷を大幅に軽減することを目的としている。


・HA-2 Леска(レスカ:釣り糸の意)

マニピュレーター基部に左右合計2基搭載された近接用兵装の第2次改修型。

アンカー部をヒート兵器とし、敵機に打ち込むことで動作阻害を行う他、建造物に打ち込み巻き取ることで本体を高速で牽引、外壁を登攀させることで重量機たる本機の機動性を大幅に改善させる兵装でもある。


・対ビームコーティング

機体全身に施された対ビーム兵器用のコーティング。ビームサーベルをも受け止められる程の強度を持つ。


●内装関連

・局地戦用センサーカメラ

獣もしくは竜とも取れる頭部に搭載された天候変化や複雑な地形においての索敵・状況把握・解析に特化したセンサーカメラ。

高解像度光学センサーと短距離レーダーを組み合わせており、煙幕や砂塵、降雪(特に吹雪)、低照度環境下での運用を想定している


・強制冷却機構

高出力兵装使用時の発熱を抑制すべく両肩部に充填された冷媒を吹き付ける機構。


◾︎機体概要

ユーラシア社会主義経済圏の新ソビエト連邦製の第5世代機。同陣営で秘密裏に進められていたジラント(Зилант:竜の意)シリーズの3番機であり、フェリクス用のチューンが施されている。

シリーズ機は全て竜をモチーフにした名称と機体形状をしており、一般的なEFWと比べると異形とも取れる見た目をしている。総じて重装甲かつ高出力、高推力であり、現行の第4世代量産機メドヴェージを大きく上回る機体性能で以て敵対する国家・経済圏を討ち払うことを目的としている。

本機は近接格闘能力を持ちつつ長距離砲狙撃能力や面制圧能力を保持している。また、反応速度を限界まで高めており、咄嗟の反応での回避や防御を可能としている。

モチーフは”邪龍”。

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