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波瀾 Ⅰ

「異動ですか?」


 早朝。アリアは出頭命令により訪れた本部での大佐からの通達に眉をひそめる。


「そうです。貴方には今日付で私の指揮下の第7EFW旅団における第2EFW中隊長を解任し、”独立EFW大隊”を率いる”大隊長”に就くことが本部の命令によって決定しました」


「大隊ちょ……って今日!? いくら何でも急過ぎでは!?」


 本部は自分を何だと思っているのか、フットワークの軽い軍人だとでも思っているのだろうか、と内心でもう抗議するアリア。フットワークが軽いのはあくまでも国境線防衛で駆けずり回っているからであって、異動までは流石に時間を要する。


「……ええ、私もそう思いましたよ。私もこの決定を聞かされたのは昨日の夜なのですから」


 大佐は眉間を揉みながらそう述べる。よく見ると目元にクマが出来ているあたり、この人も苦労してるんだな、とアリアは考えた。


「それだけ上も危機感を抱いているのです。”独立”を冠するくらいですから」


「ああ……」


 何となく察しがついた。

 上層部は第二次機動大戦──要するに本当の意味で世界が終焉しかねない世界大戦の勃発を予期しているのだろう。


「ですが……それだけ上は貴方の腕を信頼しているのです。コモンウェルス内でもきな臭い動きがあります……外へ向ける刃でありながら内に向ける刃としても貴方を使うのでしょう」


 主義主張に価値観も異なる国家を無理に連帯させようとするから味方ですら警戒しなければならないのです──と大佐は内憂外患ともいえるこの情勢を憂い大きく、それはもうとても大きく重苦しい溜息を吐く。確かに、太平洋連合経済圏やユーラシア社会主義経済圏とは異なり、コモンウェルス経済圏には太平洋連合経済圏におけるアメリカ合衆国やユーラシア社会主義経済圏における新ソビエト連邦のような巨大な国家というものが存在しない。烏合の衆──そう言われれば否定のしようがない。

 そもそも大戦が始まる以前から前身となったEUが侵略戦争に対して実力行使に出られず機能不全を起こしていた以上今更ともいえる。

 無理に纏めれば当然のようにひずみが生まれる。


「それと……貴方に任せたい軍人がいます」


「と、言いますと?」


「入りなさい」


 ガチャリ──と扉を開けて大佐が呼び寄せたであろう軍人が入室する。

 金色の長髪をツインテールにした、青い瞳の軍人。

 若いな、とアリアは独り言ちる。


「紹介します。彼女は──」


「クローディア・ワイズマン。少尉よ、ヨロシク」


「……はぁぁ……」


 大佐が紹介するよりも前に自己紹介をする──そこまではいい。大佐が眉間を揉みながら胃痛に苦しみながら腹をさすり、重苦しい溜息を吐いているように、問題はその態度である。

 上官に対しての口の利き方ではない──いや、まあアリアも人の事を言えたクチではないが一応の礼節は併せ持っている。だが大佐がここまで胃を痛めているということは相当、というかおそらく訳ありなのだろう。


「……あたしはアリア・オルセン少佐。クローディア少尉の隊長、ってことになるのかな。……ですよね大佐?」


「……」


「眉間を揉んでないで何とか言ってください大佐」


「……ええ、そうです」


「アンタが噂の”黒夜叉”サマ? へぇ……案外普通ね」


「うわぁ……大佐あたしこいつ苦手です」


「……我慢なさい」


 デスクに置かれていた書類をひったくると、そこにはクローディア・ワイズマンなる人物の経歴が記されていた。

 感想は一言。


──これはひどい。


 多くの現場を転属──この場合はたらい回しにされているのだ。

 この性格からしてかなりの衝突を起こしていたということは想像に難くない。

 一年で同期の中で撃墜数トップになって以降、その傾向が顕著になっていることが書類に書かれている。今のクローディアにとって、それこそが自身のプライドであり、アイデンティティになっているのだろう。


「……えっと、とりあえずさ。言葉遣いから直そっか」


「何ですかぁ? ご不満でも?」


 指摘され直したのだろうが……態度があまりにも酷い。


「……前途多難だ」


「……それと、大隊名は決めておいてくださいね」


「えっ」





 今日いきなりの異動命令に加えて厄介な部下の教育の押し付け。

 それに加えて大隊名を考えろ、とな?

 なんというか、あまりにも──そう、仕事を押し付け過ぎである。








 なんて日だ──そう思わずにはいられないアリアであった。













キャラクター紹介

クローディア・ワイズマン

 階級は少尉。年齢は19歳で、身長は158cm。誕生日は5月2日。

 金色のツインテールに青い瞳のコモンウェルス経済圏のイギリス出身の女性パイロット。士官学校卒業後、1年程度にも関わらずバルト三国戦線にて同期生の中で最多の撃墜数を挙げるが、そこから調子に乗ったのか上官への反抗や命令違反、独断専行等が目立つようになり、問題児として扱われるようになる。以降、厄介払いされるように各戦線をたらい回しにされ、最終的にフィンランド軍、及びアリア・オルセン少佐の指揮下に配属された。 実力だけは確かなもの。

 両親の顔を知らず、生まれてすぐに教会に預けられた孤児。

 生身での戦闘は新兵の域を出ないものの、パイロットとしては類い稀な動体視力と高機動戦闘への高い適正を持つ。

 好きなものはピザ、昆虫、孤児院の皆。

 嫌いなものは自分を縛る人。

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