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神速

「量産試作機のトライアルですか?」


 自身の直属の上司たる大佐からそう通達されたアリアは怪訝そうな表情で尋ねる。

 曰く、コモンウェルス経済圏の各国が合同で製造している第5世代の新型機のトライアルを行うというのだ。それも、メディアを入れた大衆の前で。

 概要を渡され目を通すアリア。


(うーわ……これ止めなかったのか?)


 あからさまに嫌そうな表情を浮かべるが、それもやむなし。

 現行の主力量産機ケストレルはイギリス手動で製造されたが、開発部が空力特性や速度に魂を売ったとも言えるほどの”変態企業”であり、コモンウェルス経済圏内やその前身となる連合軍でスピードジャンキーな兵士が増える片翼を担う(片棒を担ぐ)形となっていたのだ。

 パイロットの安全性はどこへ行った? と罵倒したくなるほどの暴力的な加速性に機動性、その為に機体の装甲を限界まで薄くし当たらなければどうということは無いを地で行こうとするその高機動強襲型の機体コンセプトはまさに”鉄の棺桶”、”高機動棺桶”と揶揄されても仕方の無いのである。誰が言ったか、”墓場まで高機動強襲型”なのだと。

 企画書、並びに仕様書を見るからに、ケストレル以上の速度に加え軽量化を成し遂げているとのことだ。……信用出来ない。


「あ、そうそう。これは既に決定事項なので、拒否権は貴方にはありませんのであしからず」


「……!?!?」


 なんて日だ。

 アリアは思わずそう叫びたくなった。

 ええい、この邪知暴虐な上司と変態企業共を討たねばならぬ、とアリアは心の中で憤怒した。


 そう、心の中で。


 いくら英雄と持て囃されても上下関係からは逃げられず、世知辛い世の中なのである。


「わかりました……やりますよ」


 渋々、といった様子で承諾した。




 そしてトライアル当日。


「意外とコックピット広いんだな」


 渋々といった様子でパイロットスーツに袖を通し、ヘルメットを被ったアリアは新型機《Maelstrom(メイルストローム)》の前に立っていた。

 ケストレルの戦闘機を模した鋭角かつ流線形のフォルムを更に発展させたような、しかし同時に速さの為に犠牲になった装甲防御からもしかしたら今日が命日なのかもしれない、と危機感を抱かざるを得ない程に薄型の躯体に戦々恐々としながら意外と広いコックピットの中に入り、シートに座る。

 大佐やメカニックがコックピットハッチから覗き込んで見守る中、システムをマニュアル通りに起動させていく。


──ALL SYSTEMS ARE GO


 メイルストロームが起動する。

 わっと歓声を上げるメカニック達。我先にとメイルストロームの雄姿を目に焼き付けるべく演習場へと走っていく。


「大佐。これほんとに大丈夫なんです?」


「その時はその時です。貴方の操縦についていけない”ポンコツ”として世に恥を晒すだけですよ」


「うわ性格悪」


「聞こえてますよ」


 眼鏡をくい、と指で上げながらなかなかに性格の悪いことを言ってのける大佐にドン引くアリア。

 自分は実験体か。


「……じゃ、行ってきますんで」


「ご武運を」


 そう言うと上司はコックピットハッチから離れていき、演習場の観客席へと向かっていった。


「やれやれ……フィンランドの信頼はありがたいことだが……連中(コモンウェルス経済圏)のあたしへの信頼の厚さは何なんだ……人をバケモノ扱いしておいて都合よすぎるぜ」


 それにあたしだってミスる(PONする)時はあるんだぜ、とコックピットの中で愚痴る。

 言っていても仕方が無い、と溜息を吐くアリアはカタパルトへと接続されたことを知らせるアナウンスに短く了解、と伝え操縦桿を握り直す。


「……アリア・オルセン。メイルストロームで行くよ」


 リニアカタパルトによる加速……メイルストロームは演習場へと飛び立った。

 アリアはペダルを踏み込み、機体を加速させていく……が。


「……っ!? なん、だこの、加速せい、能……!?」


 ケストレルの比にならない程の加速性能だ。しかも最大速度に到達するまで数秒もかからない。

 メイルストロームは機体全体に飛行翼をつけるその構造からEFWを単独飛行、それもマッハ5へと到達するほどの高速飛行を可能としたのである。



──馬鹿げている(狂っている)



(こんなのを量産しようってのか!? 人が死ぬぞ!?)


 アリアは急激な加速Gに歯を食い縛って堪えつつ、心の中で罵倒する。

 するとモニターにはドローンによってつるされたいくつかの的が映し出された。


「あーもー……どうにかなれぇぇぇ!!」


 右手に装備されたブルパップ式マシンガン《VENTUS BP-MG76》を構え斉射。次々と的の中央付近を撃ち抜いていく。

 遮蔽の間から出現するドローンの的も操縦桿を倒し、機体を急旋回させて斉射。

 全方向からかかる加速Gに歯を食い縛りつつ、その瞳はモニターを見据えていた。

 周囲に敵影反応。

 スタンドアローンで動く演習用の第3世代機だ。


「堕ちろ……!」


 すぐ近くのビルから現れた機体をブルパップ式マシンガンにてコックピットを撃ち抜き撃墜。側面から現れた機体を左手に持った《ヴァルチャー 可変速ビームライフル》の高速モードによる貫通性の高いビームで目標後方に控えた機体ごと撃ち貫き撃墜する。

 後方に現れた三機の機体によるマシンガンの斉射をメイルストロームを上方へと急加速させることで照準を追い付けないようにして回避。反転しつつ、自身の下方に位置するその三機へと右後方に配置された《プルヴィア ビームヘビーガトリング》を斉射。大抵のEFWの装甲をズタズタにして破砕せしめるその連射力を以て蜂の巣にする。


「次は……なるほど」


 次に現れたのは現行の量産機ケストレル──のスタンドアローン機。

 どちらが優れているか、はっきりさせようという魂胆か。


「望むところ……!」


 両機体とも高速機動をウリにしているEFWだ。

 都市部を駆け、遮蔽物を活かしながら互いに撃ち合いを続ける。


(あの機体……大戦期のあたしの運用データ流用してるな? そんなことしてるからバックドア疑惑掛けられるんだよ……)


 当たると思ったら当たらない、躱したと思ったらタイミングをずらされる。

 どうりで戦いにくいわけだ。


「けど」


 どれは五年前のデータだ。

 今の自分自身に通用するものか。


「自分の動きだ……そこから予測を立てればやりやすい」


 広場へと躍り出るメイルストローム。これ幸いとばかりに姿を現したケストレルはミサイルを撃ち放ち、空になったミサイルポッドを投棄し接近。メイルストロームは胸部12.7mmCIWSでそれらを撃墜しつつ爆炎に隠れ、その中から可変速ビームライフルを発砲。

 高速モードで第一射、そして素早くモード変更し攻撃範囲に優れる低速モードで第二射を放つ。爆炎の中で行っている為にケストレル側からは見えない算段だ。

 すると、これまで回避を続けていたケストレルは第二射にて左脚部を大きく蒸発させられてしまう。

 体勢を崩したその瞬間を見逃さず、素早く接近──そう予測したケストレルはビームブレードを抜き放ち、熱源反応に従って振り抜くが──


「間抜けめ」


 それはチャージを途中で終えた可変速ビームライフルであった。

 既にメイルストロームは直上を取っている。


 飛行出来ること、そして急激な加速性能がこの明暗を分けた。


「……終わり」


 腕部ビームガンの出力方式変更によりビーム刃を発振。

 手刀のように構え、上空から最大戦速で降下し、振り下ろした。


 両腕を切り落とされるケストレル。


 トドメとして、メイルストロームはコックピットにビーム刃を突き立てた。





「「「「「」──────ッ!!!」」」」




 湧き上がる歓声。トライアルは成功した。

 ゆっくりと腕を降ろしたメイルストロームの中、アリアはふう、と安堵する。






「武器壊しちゃったけどこれ始末書とか無いよね?」





 最後まで締まらない結果であった。





 後に《神速》と呼ばれ畏怖されるEFWが産声をあげた瞬間である。









◾︎EFW DATA

機体名:Maelstrom(メイルストローム)

型式番号:RSG-CWE-F97L

所属:コモンウェルス経済圏

世代:第5世代

全高:20.2m

機体重量:42.5t

重量帯:軽量機

動力源:高出力型バッテリー

最大速度:マッハ5

瞬間速度:マッハ2.5


◾︎地形適正

[地上]〇

[空中]〇

[水中]✕

[森林]〇

[砂漠]〇

[寒冷]〇


◾︎兵装

●主兵装

・可翔フレーム

コモンウェルス経済圏の主力量産機となった第3世代及び第4世代EFWで培った空力特性の技術の推移を結集させ、試作型を経て完成させたフレーム。肩部装甲並びにバックパックに飛行翼を構成しつつ、機体そのものを戦闘機のような鋭角と流線形を取り入れ、形状自体も薄型とすることで空気抵抗を低減・単独飛行することに成功している。また、飛行翼の形状・位置・角度調整をリアルタイムで制御し、航空機をも上回る急旋回・急制動能力を有する。鍛造方法や材質、黒燼結晶含有率を調整し、格闘戦にも充分耐え得る強度も確保された。


・ヴァルチャー 可変速ビームライフル

可変速式を採用したビームライフルで高速・高収束で貫通力の高いビームと低速・低収束で破壊力と広い攻撃範囲のビームを使い分けることが出来る。下部に近接用高周波ブレードが取り付けられているがフェイルセーフの意味合いが強い。


・プルヴィア ビームヘビーガトリング

右後方に取り付けられた高出力タイプのビームヘビーガトリング。六つの砲口を持ち、高速回転させることで大抵のEFWであれば一斉射撃により装甲をズタズタにし撃墜せしめることが可能である。

基部の可動域が広い為に射角が広い。


●副兵装

・VENTUS BP-MG76

近距離用の76mm口径のブルパップマシンガン。取り回しを重視すべく威力や貫通性を妥協した為威力ははやや低いものの、ブルパップ式を採用したことにより射程や命中精度は殆ど低下していないとされている。


・腕部ビームガン

両腕前腕部に搭載されたビームガン。速射性に優れ、近距離における攻撃手段や迎撃手段も持ち、出力方式を変更することでビーム刃を発振することも可能。ビーム刃は手刀状に出力されるがリーチが短く、フェイルセーフの意味合いが強い。


・胸部12.7mm CIWS

胴体両側に搭載された格納式の近接防御火器。口径は12.7mmであり、高レートでの連射が可能。牽制やミサイルの迎撃において用いられる。


●内装関連

・複合レーダー ヴィシオ

左後方に取り付けられた複数のレーダーを組み合わせたことでチャフや黒燼粒子だけでなく電波ノイズによるジャミングをも無効化し通信可能とした高性能複合レーダー。


・補助AI

コモンウェルス経済圏の得意分野たるシステム系の最たる製品。高度な人工知能による戦闘時のオペレーティングを担い、僚機へのデータリンクによる集団戦の効率化をも行う。

声音は自由に変更可能。


◾︎機体概要

これまでの主力量産機はイギリスのみで企画・製造されていた。しかし、停戦後未だに鉱脈を巡る紛争や帰属をめぐる境界線の争いは止まず、遠からず第五の世界大戦ひいては第二次機動大戦が勃発しかねないことを危惧したコモンウェルス経済圏の各国による合同で製造された第5世代量産試作機。

従来よりも高出力化したことで機体が大型化したにも関わらず鍛造方法や材質、黒燼結晶含有率を調整したことによりケストレルよりも軽量化に成功し、格闘戦にも耐え得る強度を獲得している。バッテリーも高出力化・大容量化が推し進められ、従来よりも稼働時間の延長、更には瞬間的な供給エネルギーの向上に成功し、ビーム兵器をより多様出来るようになった。

高機動強襲機というケストレルのコンセプトを受け継ぐ直接的な後継機とされており、より速く、より強くをモットーに最新鋭の技術が注ぎ込まれた。特に注目すべき点はその機体構造にあり、飛行ユニットを接続せずとも飛行翼と本体を一体化させることで単独高速飛行を可能としたことにある。

また、接地圧削減の為にヒール部分が展開するように作られ、砂漠や湿地、雪原といった環境にも適応した。これにより従来は専用のユニットを装着する必要があった点を克服することに成功している。

新たに製造された複合レーダーヴィシオにより、現状使われている通信妨害たるチャフ及び電波ノイズ双方の無効化に成功し、作戦遂行効率並びに成功率向上に貢献出来るとされた。

鳥のように見える頭部から「鳥頭」の愛称が付けられているらしい。

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