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雪狼

日間空想科学カテゴリランクインしました。

ありがとうございます。

──ガギンッ!!


「……なるほど、四脚獣型のEFWか」


 雪原の中、クローとビーム刃の応酬の後、距離を取った濃紺の異形のEFW《CARCHARIAS》のコックピットの中、アリアは眼前のEFWを見遣りそう呟く。

 雪原に溶け込む為か、寒冷地用の迷彩を意識して白や灰色、水色で塗装された狼を模したような躯体──口腔あたりから伸びた牙のようなビーム刃に背面から伸びる二連装リニアキャノン。擦れ違いざまに斬り付ける為なのか、肩部からもビーム刃が伸びている。

 EFWは人型である必要性は無い──大戦期に至った結論は今尚EFW開発に大きな影響を与えており、例えばアリアのカルカリアスも人型を大きく外れた、蟹を思わせるような異形であることから然程珍しいことではない。

 四脚獣型のような四脚型のEFWはその接地圧を分散させることで機動戦において機体にかかる負荷を削減し、砂漠や湿地、雪原のような足場の悪い地形において一般的な二脚型よりも姿勢制御性に優れるという利点が存在する。


「どうりで担当部隊が壊滅するわけだ」


 国境線に侵入し、その区域の担当部隊を壊滅させた下手人こそ眼前の四脚獣型EFWであった。

 なるほど、あの機動性はコモンウェルス経済圏の主力第4世代量産機ケストレルであっても厳しいと見える。


「……どう来るか」


 カルカリアスは超熱振動クローを発熱及び高周波振動させ、機を伺う。

 四脚獣型が一歩引いた──撤退? 否。



──ダッ!!



 溜めだ。

 ばねのように飛び込んできた四脚獣型。その牙で以てカルカリアスに食らいつこうと迫るが──カルカリアスは前腕部に装着されたガントレットシールドで横合いから叩くことによってその攻撃を機体ごと後方へといなす。

 お返しにアリアは素早く操縦桿を操作し、肩部のビームヘビーマシンガンを後方の四脚獣型へ向けて斉射。振り返る際の勢いを載せ、超熱振動クローを叩き込む。

 四脚獣型はビームヘビーマシンガンの砲口がこちらを向くとほぼ同時に右後方への跳躍による回避を敢行しており、カルカリアスの超熱振動クローによる一撃は不発に終わった。

 しかし、クローの熱量により雪が一気に蒸発。水蒸気により視界を塞ぐ。


「そこ……!」


 水蒸気に隠れるような位置取りから全領域対応ミサイルを放ち、注意をそれらに向けつつ自身は左側方へと抜け、腕部高エネルギービーム砲を連射し十字砲火を行う。

 しかし四脚獣型は右後方へのバックステップと共に頭部両側面に搭載された機銃を連射しミサイルを迎撃、ビーム砲を紙一重で回避しつつ、再び駆け出す。



──ズザザッ!!



 そしてドリフト。

 直後、



──ガガンッ!!



 二連装レールキャノンが火を噴く。


「戦い方が上手い……!」


 こいつ大戦期の生き残りか、と歯噛みしつつドリフトによって巻き上げられた雪の中から発射された電磁加速式の砲弾をガントレットシールドの角度を調整することで後方へといなすように弾き、その際の衝撃による仰け反りを背面のスラスターの噴射で帳消しにしつつ前身。……相変わらず無茶をする。

 強烈なGに歯を食いしばりながら耐え、尚もペダルを踏み込み続ける。

 レールキャノンをバレルロールで躱し、超熱振動クローによる刺突を放つ。四脚獣型はバックステップで回避するが、回避先に向けてもう片方の超熱振動クローを突き立てる。

 寸でのところで四脚獣型はスラスターを一気に噴かせて右側面へと回避する。


「……っ」


 アリアは回避先に向けて四脚獣型の左側面から回り込みつつ背面から伸ばした可変速ビームランチャーを範囲を取った低速モードで照射。更に同時に撃つと見せかけたフェイントを交え時間差による偏差射撃を行う。



──ッ!?



 四脚獣型から伝わる明らかな同様。

 ビームの熱量が機体右側面を焼く。


「……大体わかった」



 終わらせようか。



 アリアはスラスターを吹かし突撃。

 両肩部のビームヘビーマシンガンを斉射し牽制をしつつ、再び超熱振動クローを振り被る。

 若造め、また同じことを──四脚獣型の左目に眼帯を付けた老獪のパイロットはほくそ笑みつつ操縦桿を倒し、回避を行う。



──ッ!?



 次の瞬間には体当たりにより突き飛ばされていた。

 再びの動揺。

 機体が言うことを聞かない。

 否、右方向への反応が鈍い。


「……アンタ、さっきから”右方向”にばかり躱してるよね。回避先が同じなら仕掛けやすいよ」


 公開通信からは若い女──アリアの声が響いていた。

 よく見ると焼かれた機体右側のいくつかの回路が焼き切られており、反応速度に深刻な支障を齎していた。


「それにアンタ……左目、見えてないんじゃないか?」


 左側面から放った偏差射撃──それは疑念を核心へと変えた。

 反応速度が若干遅れていたのである。

 それを見て、アリアは考えたのだ。


 左目が見えていない、と。


「お喋りはここまで」


 刹那。



──Bzzzzzzzzzzzzzzz!!!!



 四脚獣型は悶え苦しみ始める。

 機体には電磁ムチ《セーピア》が巻き付けられていたのだ。

 一体いつ──電撃で思うように動かずその身を焼かれる苦しみに叫ぶ老兵は気付く。


 あの時だ。


 体当たりを食らった時だ。


 あの一瞬で巻き付けていたのだ。


 モニターの回路が焼き切れ、コンソールがショートし爆ぜる。

 内部人員すら殺傷せしめる電磁ムチは機体各所の回路をオーバーロードさせ続けていた。


 徐々に回転し始める超熱振動クロー。



「……黒、夜叉、め」



 暗転する視界の中、脳裏に浮かぶは大刀を担いだ黒鬼のエンブレム。



「……アンタが弱かったわけじゃない。相手が悪かっただけだ。……さよなら」



 アリアは静かに──操縦桿を倒した。














 "雪狼"──かつてはそう呼ばれた老兵。



 四脚獣型EFWを駆り数多のEFWを屠った老兵。



 その日、独りの生き残りがこの世を去った。














黒夜叉

 大戦期のアリアの異名。

 由来は大刀を担いだ黒鬼のエンブレムから──とされているが、実際は彼女を"バケモノ"たらしめたとある戦線から。

 憧憬の対象であり、畏怖の対象でもある。

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