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「……なんか、これ、体から抜けてた力が戻ってくるような……」
「ああ。体力回復させる効果があるのか」
「そうみたい。ポーションだけじゃ戻り切らなかった分は、とりあえずそれとこれで補って」
フーゴが地面を指差す。そこには光るコインがあり、コイン周辺の地面もわずかに発光していた。
「これも回復アイテムなのか」
「そう。戦闘中とか休憩中に使うのに良さそうだろ」
カシアとニームは受け取ったリンゴを黙々と食べる。
「……くそっ。ヒースの野郎……」
食後、カシアが悔しげにつぶやく。
「ヒースはあの後どうしたんだ?」
「ヒースは、爆炎が収まった後、この部屋を通過していったな」
フーゴは盾で防御しつつ、石像の影からそれを見ていたのだった。
「そうか」
ニームは沈痛な表情でただ頷いた。カシアも同じく浮かない顔をしている。
ヒースのことを良く知るらしい二人にとって、彼の行動は裏切りに等しいものに思えたのだろう。
だが、フーゴの目から見てそうではなかった。
「彼、手枷のようなものを嵌めていたな」
フーゴの一言にカシアとニームが顔を上げる。フーゴは巻物を投げつけるヒースのその腕に彼の装いと似合っていない装飾品とも思えない腕輪が巻き付いているのを目撃していた。服に隠されていたことからも、それは装飾品などではなく「手枷」なのだろうと思えたのだ。
「手枷?」
「多分、これと同じ類のものだ」
フーゴは自身の頭に嵌まった輪を指差す。その動作ひとつでカシアとニームはああ、と嘆息した。
「ヒースは二重に命令を受けているんだろう。それも、最初の命令の方が彼にとってより重かった」
その重さの差は人質の差なのかもしれない。扉を閉めるときのヒースの表情はかなり切迫したものだった。
「まあ、命令された内容は同じようなことだろうけどね。他を出し抜いて攻略せよってね」
フーゴはヒースの事情をそう推測した。推測を聞いたカシアとニームは浮かない表情は変わらず浮かべていたものの、先ほどの混乱まじりの状態からは抜け出せたようだった。
フーゴはヒースに対する前知識がないからこそ、ヒースの事情を冷静にすぐ推測することができた。そして、できた上で思う。
だから、なんだ。と。
「ヒースはそれでも裏切り者とは言えないんだよな。結局、王家の誰かの命令を受けてるだけだし。王家の意思に反したわけでもない」
「ああ、そうだな」
「うん……」
フーゴの言葉に、カシア達はうなずく。それを聞いて、彼らの気は幾分か軽くなったようだったが、フーゴが言いたいのはそういうことではなかった。
「真の裏切り者は俺ですよ」
「え?」
「ん?」
フーゴの言葉に、カシアとニームは一拍遅れて反応する。
「は? お前、何て言った?」
「だから、真に裏切ろうとしてるのは、俺」
「は? はあ?」
「え? 裏切りって、俺らを嵌めようとかそういう?」
カシアはひたすら戸惑い、ニームはなんとか冷静に問い質そうとする。フーゴはぶんぶんと横に首を振る。
「違うよ」
「なんなんだよ、お前はよお!」
訳が分からず、カシアは叫んで拳で地を打った。立ち上がっていれば地を踏み鳴らしていただろう。
「俺は、このダンジョンの攻略者になる。だが、このダンジョンで得た物は王家には渡さない。ダンジョンで得た物はダンジョンを実際に歩いた者が持ってこそ、ふさわしい。汗もかかず、ふんぞり返ってるだけの馬鹿野郎には金貨の一枚だってくれてやらないね。王家の秘された宝だろうが、関係ない。丸ごと全部手に入れてやる」




