9 裏切りの気配
「あああああ!」
フーゴは自身が走る前方に床板の消失している箇所を視認した。なんとか床板のあるところまで飛ぶ必要がある。だが、上手く飛べば背後に迫る大石だけが下に落とせて危機を回避できる。
「よっしゃあああ!」
フーゴは気合を入れて飛んだ。
ふー……と長い息を吐く。無事に危機を脱した。安堵から脱力しそうになる。
「……いつの間にか、カシアいなくなってんだよなあ」
フーゴは逃げている自分の前にカシアの姿があるのを認識していたが、その姿が気づけば見えなくなっていたのだ。
「どっか、横に抜け道があったのかな」
カシアはどうやらフーゴより足が速い。だが、それでも一気に逃げられるほど速くはないようだ。なので、フーゴはカシアがどこかに抜け穴を見つけてそこに逃げ込んだのだと思った。
「いいなあ。俺もそういうの見つけられたい……」
フーゴはないものねだりをする。
「協力して攻略しないと、そういう恩恵にはありつけない……」
フーゴはカシア達を説得しきれない己の口下手を口惜しく思った。しょうがないと再び歩みだす。
「お、ようやく出てきた」
攻略を進めた先に、他と一線を画す荘厳な雰囲気のする扉が出現した。すでに二度他のダンジョンを経験しているフーゴにとっては、すでに馴染みの光景である。
「いけるか、これ……?」
単独での攻略をしたことのないフーゴの口から不安が出る。いけなくてもいくしかないのだ、と思い直す。
「頭使うの苦手なのになあ」
フーゴはガシガシと頭を掻き、手持ちのアイテムを見直して、突入する前に手順を考える。フーゴとしては誰か考える人が別でいて欲しい。作戦を立てる人間に従って、己は決まった通りに体を動かす方が楽でいいと彼は考えている。
「ええと、これは事前に読む必要があって、これは戦闘中に使えるか。これがなんなのかはよくわかんない……適当に使ってみるか」
知識のないアイテムの扱いが雑になるが、本人はそれを気にしていない。結局は力押しでどうにかしようと考えてしまう。
扉を開けた先は広い部屋になっていた。壁際にずらりと大きな石像が並んでいる。その石像の姿はこれまで何度か壁画で目にしていた。壁画の中では神のように扱われていた存在だ。
仮面をかぶった神、犬頭に人の体の神、猫頭に人の体の神、蛙頭に人の体の神……その神々の足元に、神の使いとして出てきていた鳥のような羽の生えた獣達が侍っている。
フーゴが一歩室内に足を踏み入れた途端、石像だった神の使い達が血肉の通った生き物のごとく、すっくと立ちあがる。
そして、石像の内の一体が身じろいだのが見えた。
「壁画に描かれた神が顕現して、墓を荒らす侵入者を倒すべく立ち塞がる……一見正しいように思えるけど、侵入者を埋葬されてる王の末裔に限定してるわけだろ? なおかつ、その王が信仰していた神の姿を模した存在に王の末裔を倒させようって……」
フーゴは剣を抜き、構えながらぶつぶつとぼやく。
「いい趣味してるねえ。ここのダンジョンマスターは!」
一声叫んで、動き出した魔物達に斬りかかる。
すでに信仰が廃れている古い神だから、そんなことをしていいと思っているのか。自分達、新しい神こそが正しい存在だと見せつけたいのか。
中々意地の悪いことだと思う。フーゴはつい皮肉気に口角を上げて見せた。




