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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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番外編 アビーのお手伝い

番外編です

辺境での暮らしにも、すっかり慣れた頃。


玲と雷電、そしてアビーは、今日もいつものように街を散歩していた。


先を歩くのは、赤柴の雷電。


その後ろを、ブラックタンのチワワであるアビーが小さな足でついて歩く。


玲はそんな二匹を眺めながら、のんびり歩いていた。


『おはよう、リナ!』


「アビー、おはよう! 今日も元気ね」


パン屋の店先から、リナが笑顔で手を振る。


『うん! リナも元気そうだね』


「アビー、今日も来たのね」


『この前もらったパン、美味しかったよ!』


「あら、本当? また今度犬用のパンあげるわね」


『本当? 楽しみにしてる!』


アビーは嬉しそうに尻尾を振った。


玲はその様子を見ながら、くすりと笑う。


「アビーって、本当にみんなの名前をよく覚えてるよね」


『だって、毎日会うもの』


「それだけじゃないでしょ?」


『名前を呼んだほうが、みんな嬉しそうだから』


「……なるほど」


アビーは、とにかく人と話すのが好きだった。


すれ違う領民の名前を覚え、挨拶を交わす。


以前もらったもののことまで、ちゃんと覚えている。


『おはよう、トーマス!』


「おはよう、アビー」


『今日もお仕事頑張ってね!』


「ありがとう。アビーも気をつけてな」


『うん!』


少し先では、エドガーが店先の荷物を運んでいた。


『エドガー、おはよう!』


「おう、アビー。今日も散歩か?」


『うん!』


「元気だなぁ」


アビーは得意そうに胸を張った。


そんなアビーを、辺境の人々もすっかり可愛がっていた。


いつしかアビーは、街のあちこちで名前を呼ばれるようになっていた。


玲にとっても、そんな光景を見るのは嬉しいことだった。


「本当に人気者だね、アビー」


『みんな優しいからだよ』


「そっか」


玲が笑った。


その時だった。


少し先を歩いていたアビーが、突然立ち止まった。


『……あれ?』


「どうしたの?」


アビーは道の向こうをじっと見つめている。


そこには、一人のおばあさんが歩いていた。


「こんにちは、おばあちゃん」


アビーが声をかける。


けれど――。


返事がない。


アビーが首を傾げた。


『玲』


「うん?」


『ちょっと待って』


アビーは、おばあさんのところへ駆けていった。


「アビー?」


玲も後を追う。


おばあさんは道端で立ち止まっていた。


いつもならアビーを見ると、笑顔で挨拶をしてくれる。


けれど、今日は違った。


顔色が悪い。


そして、片手で胸元を押さえている。


「おばあちゃん、大丈夫?」


玲が声をかける。


「あ……玲さん……」


おばあさんが、ゆっくり顔を上げた。


「ちょっと……急に、ふらっとして……」


その瞬間。


おばあさんの身体が、ぐらりと傾いた。


「危ない!」


玲が慌てて身体を支える。


アビーも心配そうに、おばあさんの足元へ駆け寄った。


『玲、大丈夫じゃないよ』


「うん。そうだね」


玲はおばあさんをゆっくり道端に座らせた。


「少し休みましょう」


「でも……買い物が……」


「荷物は私が持ちますから」


玲が足元に落ちた籠を拾い上げる。


アビーは、おばあさんの顔をじっと見つめていた。


『今日は無理しちゃ駄目だよ』


おばあさんにはアビーの言葉は聞こえた。


心配そうに寄り添ってくれる小さなチワワの姿を見て、少しだけ表情が和らいだ。


「まあ……この子、本当に優しいねぇ」


玲は笑った。


「ええ。とても優しい子なんです」


***


玲はおばあさんを家まで送り届けた。


家に着くと、水を渡して椅子に座ってもらう。


「今日は無理をせず、ゆっくり休んでくださいね」


「ありがとう、玲さん……」


おばあさんはほっとしたように息を吐いた。


「今日は本当にどうしたのかしら。いつもなら平気なのに……」


アビーは玲の足元から、おばあさんを見上げている。


『玲』


「ん?」


『この前会った時は、もっと元気だったよ』


「そうだね」


『だから、今日はすぐ分かったの』


玲はアビーを見つめた。


普段から街の人たちと触れ合い、一人ひとりの顔や様子をよく見ている。


だからこそ、いつもとの違いに気づけたのだ。


「アビー、ありがとう」


『どういたしまして』


その時、玄関の外から雷電の声が聞こえた。


「ワン!」


アビーが振り返る。


『雷電が、そろそろ帰るって』


「ふふ。雷電は待ちくたびれたかな?」


雷電は玄関の外で、じっとこちらを見ている。


『たぶん』


玲は笑った。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


おばあさんに向き直る。


「今日はゆっくり休んでくださいね」


「ありがとう、玲さん」


そして、おばあさんがアビーを見る。


「アビーちゃんも、ありがとうね」


アビーは嬉しそうに尻尾を振った。


『またね、おばあちゃん』


***


それから数日後。


玲と二匹がいつものように散歩をしていると――。


「あら!」


聞き覚えのある声がした。


振り返ると、あのおばあさんが立っていた。


「おばあちゃん!」


玲が笑顔になる。


「もう元気になったんですか?」


「ええ。もうすっかり元気よ」


おばあさんは笑いながら、手に持っていた籠を見せた。


中には、新鮮な野菜やパン、それに手作りのお菓子まで入っている。


「この前のお礼よ」


「そんな、気にしなくていいのに」


「いいの、いいの」


おばあさんは笑う。


そして、アビーの前にしゃがみ込んだ。


「アビーちゃんにも、ありがとうって伝えたくてね」


アビーは嬉しそうに、おばあさんを見上げた。


『元気になってよかった!』


玲が笑う。


「アビーも喜んでます」


「ふふっ」


おばあさんはアビーの頭を優しく撫でた。


「本当にありがとうね」


アビーは嬉しそうに尻尾を振る。


そして、少しだけ胸を張った。


玲はその姿を見て、思わず笑った。


「アビー、大活躍だったね」


『うん!』


「自信満々だね」


『だって、玲の役に立てたもん』


玲はアビーを抱き上げた。


「そっか」


その横では、雷電が二人をじっと見ている。


「雷電も心配してたのかな?」


「ワン」


アビーが雷電を見る。


『雷電も心配してたんだって』


「そうなの?」


雷電は、ぷいっと顔を背ける。


『……って言ってる』


「ふふっ。素直じゃないなぁ」


玲は笑った。


アビーは玲の腕の中で、嬉しそうに辺境の街を見渡した。


今日も、みんなが笑っている。


いつもの道。


いつもの人たち。


そして、いつもの散歩。


アビーにとっては、そんな毎日が大切だった。


『玲』


「なあに?」


『明日もみんなに挨拶しようね』


「うん」


『それから、困ってる人がいたら助けようね』


「もちろん」


その時、雷電が歩き出した。


「ワン」


アビーが雷電を見る。


『雷電が先に行くって』


「はいはい。雷電様の巡回ね」


アビーも玲の腕から降りると、雷電の後を追いかける。


『私も行く!』


玲は笑いながら、二匹の後を追った。


今日もまた、穏やかな一日が過ぎていく。


辺境の人々と挨拶を交わしながら。


小さな異変に気づきながら。


誰かのために、ほんの少しだけ手を差し伸べながら。


アビーの「お手伝い」は、これからも続いていく。




――番外編 終――

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