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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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番外編 雷電様に子分ができました

番外編 


辺境に、穏やかな時間が流れていた。


あれから、数年。


パール化粧品は今では辺境を代表する店の一つとなり、玲の研究室からは今も新しい商品が生まれている。


街も少しずつ大きくなり、人々の暮らしも豊かになった。


そして――。


玲とレオンハルトの間には、一人の男の子が生まれていた。


名前は、アンソニー・トニー・ヴァレンシュタイン。


普段は、みんなから「トニー」と呼ばれている。


レオンハルト譲りの金色の髪。


そして、玲と同じ黒い瞳。


二人の面影をそのまま受け継いだような男の子だった。


「らいでん!」


小さな声が、辺境の街に響く。


ててて、と短い足で走っていく。


その先を歩いているのは――赤柴の雷電。


「らいでん、まって!」


雷電はちらりと後ろを振り返った。


そこには、小さなトニーが一生懸命に追いかけてくる姿。


雷電は立ち止まった。


トニーが追いつく。


「ついた!」


嬉しそうに笑う。


雷電は、ふう、とでも言いたげに鼻を鳴らした。


「ワン」


そして、また歩き出す。


「まってー!」


トニーが慌てて追いかける。


少し離れたところから、その様子を玲が見ていた。


「ふふっ」


隣に立つレオンハルトも笑っている。


「また雷電の後を追いかけてるな」


「毎日だよ」


「雷電も大変だな」


「でも、ちゃんと待ってあげてるでしょ?」


「……そうだな」


玲が笑う。


「雷電、なんだかんだ優しいから」


***


「らいでん!」


トニーが雷電の隣に並ぶ。


「きょうはどこいくの?」


雷電は答えない。


もちろん、雷電は人間の言葉を話すことはできない。


ただ、ちらりとトニーを見る。


そして、ゆっくり歩き出す。


トニーも、その後ろをついていく。


「ぼくもいく!」


雷電は少しだけ歩く速度を落とした。


トニーが嬉しそうに笑う。


「まってくれた!」


少し離れたところで見ていた玲は、その姿に目を細めた。


「……完全に子分だね」


アビーが玲の足元で尻尾を振る。


『そうだね』


「雷電、嫌がってないかな?」


アビーは雷電を見る。


雷電はトニーが転ばないように、少し前を歩いている。


時々振り返っては、ちゃんとついてきているか確認している。


『ちょっと迷惑そう』


「やっぱり?」


『でも、ちゃんと見てるよ』


玲は笑った。


「雷電らしいね」


***


その日の午後。


トニーが走っている途中で、石につまずいた。


「わっ!」


尻もちをつく。


「うぇ……」


泣きそうになった、その時。


雷電がすぐに戻ってきた。


トニーの前に座る。


じっと顔を覗き込む。


「……らいでん」


トニーは涙を拭った。


雷電は鼻先で、トニーの手をちょんと押した。


「ワン」


トニーには雷電の言葉は分からない。


けれど――。


「だいじょうぶって?」


少し考えてから、トニーは笑った。


「うん。だいじょうぶ!」


立ち上がる。


そして、また雷電の後を追いかける。


「らいでん、まってー!」


雷電は振り返った。


そして――。


ほんの少しだけ、歩く速度を緩めた。


***


夕方。


家に戻ると、玲がトニーを抱き上げた。


「おかえり」


「ただいま!」


「今日は雷電と何してたの?」


「おさんぽ!」


「そう」


玲が笑う。


「雷電は?」


「そこ!」


トニーが指を差す。


雷電はいつもの場所で丸くなっていた。


少し疲れたような顔をしている。


玲は思わず笑った。


「雷電、お疲れ様」


「ワン……」


アビーが雷電を見る。


『今日は大変だったって』


「ふふっ」


玲は雷電の頭を優しく撫でた。


「でも、嬉しいんじゃない?」


雷電は少しだけ顔を上げる。


その視線の先には――トニーがいる。


「らいでん!」


トニーが駆け寄る。


雷電は一瞬だけ目を細めた。


そして、逃げることもなく、その場に伏せた。


トニーが雷電の隣に座る。


小さな手で、そっと雷電の背中を撫でる。


「らいでん、だいすき!」


雷電は何も言わない。


ただ、尻尾が一度だけ、ゆっくり揺れた。


玲とレオンハルトは、その光景を静かに見つめていた。


「……良い子分ができたな」


レオンハルトが言う。


玲は笑った。


「うん」


アビーも2人を見つめる。


『雷電、嬉しそう』


「そう?」


『うん』


玲は笑いながら、雷電とトニーを見つめた。


かつて、日本で玲と出会った小さな保護犬。


異世界へ一緒に召喚され。


辺境で「雷電様」と呼ばれるようになって。


そして今では――。


小さな男の子の、頼れる相棒になっている。


雷電は、ちらりとトニーを見る。


トニーは雷電の隣で、もう眠そうに目をこすっていた。


雷電は少しだけ身体をずらす。


トニーが寄りかかれるように。


玲はその姿を見て、優しく笑った。


「雷電」


雷電が顔を上げる。


「これからも、トニーのことよろしくね」


「ワン」


短い返事。


アビーが笑う。


『任せろ、だって』


玲は笑った。


辺境の夕暮れ。


家の中には、家族の穏やかな時間が流れている。


玲。


レオンハルト。


トニー。


アビー。


そして――雷電。


たくさんの出会いを重ねてきた先にあったのは、特別な何かではなかった。


大切な人たちと過ごす、何気ない毎日。


それこそが、玲がこの異世界で見つけた幸せだった。


そして今日も――。


雷電様には、小さな子分がついている。


少し迷惑そうに。


でも、どこか嬉しそうに。


赤柴の雷電の後ろを、金色の髪の小さな男の子が追いかけていく。


「らいでん、まってー!」


雷電が振り返る。


そして、ほんの少しだけ歩く速度を緩めた。


――番外編 終――

あとがき


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


実は私、今までずっと小説を読む側でした。


いわゆる「読み専」で、自分が小説を書くなんて、考えたこともありませんでした。


それが、ふとしたきっかけで「自分でも物語を書いてみようかな」と思い、この作品を書き始めました。


人生で初めて書く小説です。


文章の書き方も、物語の作り方も、最初は何も分かりませんでした。


最初は一つの物語になるのかも分からなかったお話が、気がつけば78話。


そして番外編まで書き終えていました。


自分でもびっくりしています。


一ノ瀬玲という主人公を作って、雷電やアビーと一緒に異世界へ行かせて。


玲がどんな場所で暮らしたら幸せになれるのか。


どんな人と出会ったら笑えるようになるのか。


そんなことを考えながら、一話ずつ書いてきました。


気がつけば、玲にはレオンハルトという大切な人ができ、辺境という「居場所」を見つけていました。


そして、パール化粧品という新しいものを生み出し、辺境の人々とも繋がっていきました。


雷電の「雷電様の結界」。


アビーの「お手伝い」。


そして最後には、二人の間に生まれたトニーと雷電の姿まで書くことができました。


どの場面も、書いていて本当に楽しかったです。


そして、この作品を読んでくださった皆さん。


私の人生で初めて書いた小説を、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。


「小説を書く」という、自分でも想像していなかったことに挑戦できたのは、読んでくださる方がいてくれたからです。


最初は「最後まで書けるかな」と思っていました。


でも、玲たちの続きを考えているうちに、気がつけばここまで来ていました。


この物語は、ここで完結です。


でも、辺境ではきっと今日も。


玲とレオンハルトが笑っていて。


アビーが領民たちに挨拶をして。


雷電がせっせと「結界」を張っていて。


その後ろを、トニーが「らいでん、まってー!」と追いかけているのだと思います。


そんな未来を想像しながら、私もこの物語を終えたいと思います。


人生で初めて書いた小説。


最初の一歩を踏み出せたこと。


そして最後まで書き終えることができたこと。


そのこと自体が、私にとって大切な経験になりました。


最後まで一緒に旅をしてくださって、本当にありがとうございました。


そして、玲、レオンハルト、雷電、アビー。


私の頭の中から生まれてくれて、ありがとう。


またいつか、どこかで新しい物語を書くことがあったら、その時も読んでいただけたら嬉しいです。


本当に、本当にありがとうございました。



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