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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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番外編 雷電様の結界

雷電の番外編です お楽しみ


辺境での暮らしにも、すっかり慣れた頃。


玲と雷電、そしてアビーは、今日もいつものように散歩をしていた。


「雷電、また?」


玲が呆れた声を出す。


道端の木の根元で、雷電が匂い付けをしている。


「ワン!」


雷電は何事もなかったように玲のところへ戻ってきた。


「さっきもしたでしょ?」


「ワンッ」


「……アビー、何て?」


玲が聞くと、アビーは雷電の顔を見た。


「『ちゃんと確認してるんだって』」


「確認?」


「『ここは俺たちの場所だから』って」


「……まあ、雷電らしいけど」


玲は苦笑した。


雷電は、日本にいた頃からこうだった。


子犬の頃に玲に保護されて以来、ずっと玲と暮らしてきた。


そしてアビーとも、日本にいた頃から一緒だった。


三人一緒に異世界へ召喚されてからも、それは変わらない。


ただ――。


この辺境に来てから、雷電のいつもの習慣が、思わぬことを引き起こしていた。


***


「最近、この辺りは魔物が少ないな」


街の冒険者たちが、そんな話をするようになった。


「そういえば、街の近くまで来ることが減った」


「特にこの辺りだ」


冒険者が指差したのは、雷電がよく散歩する道だった。


「雷電が歩いてる場所じゃないか?」


「……まさか」


最初は誰も気にしなかった。


だが、何度も同じことが続く。


雷電が歩いた場所。


雷電が匂い付けをした場所。


その周辺には、魔物が近づかない。


「これ……」


「結界じゃないか?」


誰かが冗談半分に言った。


ところが、その噂はあっという間に広がっていった。


――雷電様が辺境を守っている。


――雷電様が歩いた場所には魔物が近づかない。


――雷電様の匂いが、魔物を寄せ付けないらしい。


そして、いつの間にか。


「雷電様の結界」


そんな名前までついてしまった。


***


「……雷電様の結界?」


玲は、街の人から聞いた話に目を丸くした。


「はい!」


住民は嬉しそうに頷く。


「雷電様が毎日街の周りを歩いてくださるでしょう? そのおかげで、魔物が近づかないんです!」


「いや……」


玲は隣にいる雷電を見る。


雷電は何事もない顔で座っている。


「雷電はただ……」


玲が言いかける。


「ワン!」


雷電が鳴いた。


アビーが雷電を見る。


「『何か問題でも?』って」


「いや、問題はないけど……」


玲は雷電を見つめた。


「結界って言われてるよ?」


「ワン」


「『別にいいんじゃない?』だって」


「……いいんだ」


雷電は堂々としている。


玲は思わず笑った。


「まあ、雷電がそれでいいならいいか」


すると、近くにいた子どもたちが駆け寄ってきた。


「雷電様!」


「今日も結界をお願いします!」


「雷電様がいるから安心だね!」


雷電は子どもたちをじっと見つめる。


「ワン!」


「『任せろ』だって」


アビーが通訳する。


「雷電、分かってるのかな?」


玲が笑う。


雷電は胸を張った。


そして――。


堂々と歩き出す。


「ワン!」


「『行くぞ』だって」


「はいはい」


玲とアビーも後を追う。


しばらく歩いたところで。


雷電が立ち止まった。


玲は嫌な予感がした。


「……雷電?」


雷電は、いつものように匂い付けをする。


「…………」


玲は無言になった。


アビーが雷電を見る。


「『ここも大事な場所だから』って」


「やっぱりただの匂い付けじゃん!」


玲が笑う。


雷電は振り返り、少し不満そうに鼻を鳴らした。


「ワン……」


「『ただのじゃない』って」


「はいはい。雷電様の大事なお仕事ね」


玲が頭を撫でると、雷電は満足そうに尻尾を振った。


***


それからも、雷電の散歩は続いた。


歩いて。


匂いを付けて。


また歩いて。


そのたびに、辺境の人々は安心したように笑う。


「今日も雷電様が来てくださった」


「これで大丈夫だ」


そんな声を聞きながら、玲は思う。


「……雷電、すごい人気者になったね」


「ワン!」


アビーが笑った。


「『当然だ』って」


「何でアビーまで雷電の気持ちが分かるのよ」


「ずっと一緒だからだよ」


「そっか」


玲も笑った。


日本にいた頃からずっと一緒だった二匹。


異世界に来ても、結局こうして玲のそばにいる。


それだけで、玲には十分幸せだった。


そして今日も。


雷電は辺境を歩く。


本人はただ、いつもの習慣を続けているだけ。


けれど街の人々にとって――。


それは、辺境を守る頼もしい「雷電様の結界」だった。


「雷電、帰ろうか」


「ワン!」


「『まだもう一周する』って」


「えぇ……」


玲の声が辺境の街に響く。


今日もまた、穏やかな一日が過ぎていく。


そして雷電の結界は、今日も辺境を守っている――。


……たぶん。




―番外編 終―

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