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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第72話 宰相の末路

王城。


国王の執務室には、数冊の帳簿と書類が並んでいた。


その前に立つのは、宰相グスタフ・ローゼンベルク。


いつもの威厳は、すでに消えていた。


「グスタフ」


「……はい」


国王は一枚の書類を手に取った。


「これは、過去数年間の税の徴収記録だ」


「……」


「徴収した額と、国庫へ納められた額に小さな差がある」


グスタフは黙っている。


「一年だけなら、記載ミスで済んだかもしれぬ」


国王は別の帳簿を開いた。


「だが、何年も続いている」


「……」


「しかも、私が調べ始めた途端、数字を書き換えたな」


「そ、それは……」


グスタフの額に汗が浮かぶ。


「帳簿に間違いがあったので、訂正を……」


「昨日までは間違っていなかったのにか?」


「…………」


言葉が詰まる。


国王は冷静に続けた。


「税を少しずつ誤魔化していたな」


「……少しだけです」


「何?」


「本当に、少しだけなのです!」


グスタフは慌てて弁明する。


「一度に大金を奪ったわけではありません! 何年もかけて、ほんの少しずつ……」


「それを横領というのだ」


「ですが――」


「黙れ」


低い声が響いた。


グスタフの肩が跳ねる。


国王は、次の書類を取り上げた。


「まだある」


「……」


「一ノ瀬玲の食事についてだ」


グスタフの顔色が変わった。


「本来の配膳担当者は別だった」


「…………」


「それを、お前が変更させた」


「それは……」


「そして、その食事には毒が入っていた」


グスタフは何も言えなかった。


「毒を入れた者についても、すでに調べがついている」


「……!」


「誰から命じられたのかもな」


グスタフの膝から力が抜けそうになる。


「違います……」


「何が違う?」


「私は……ただ……」


言葉が続かない。


国王はグスタフを見つめた。


「玲が聖女であると、正式に判定されたわけではない。それは私も分かっている」


グスタフが顔を上げる。


「だが、召喚された者である以上、聖女である可能性はあった」


「…………」


「お前は、その可能性を確かめることもせず、自分にとって面倒な存在になりそうだという理由だけで、命を奪おうとした」


「……違います」


「何が違う」


「そんな大それたことを考えていたわけでは……」


「命を奪おうとしたことに変わりはない」


グスタフは俯いた。


「私は……」


震える声が漏れる。


「ただ、少し税をごまかしていただけで……」


国王の目が鋭くなる。


「その『少し』を何年続けた?」


「…………」


「そして、その罪を隠すために、さらに罪を重ねた」


グスタフは何も言えない。


国王は最後の書類を机に置いた。


「グスタフ・ローゼンベルク」


その名を呼ばれ、グスタフが顔を上げる。


「宰相の職を解く」


「……!」


「長年にわたる税の横領」


「……」


「その証拠の隠蔽」


「……」


「そして、召喚された玲の毒殺未遂」


グスタフの唇が震える。


「これらの罪により――」


国王は静かに告げた。


「死刑を言い渡す」


「…………」


グスタフは呆然と立ち尽くした。


そして、かすかな声で呟いた。


「……まずい」


最後まで、その言葉だった。


グスタフ・ローゼンベルク。


欲に目がくらみ、ほんの少しの横領から始めた小さな悪事。


それを隠そうとして、取り返しのつかない罪を犯した男の末路だった。


***


その日の夕方。


ヴァレンシュタイン侯爵家では、ハンクが一通の手紙を書き終えていた。


宛先は――レオンハルト。


玲の件が決着したことを知らせるためだった。


「これで……終わったか」


ハンクはペンを置いた。


ケイトが隣から尋ねる。


「レオンハルト様には、全部伝えるの?」


「ああ。玲を守るためにも、知っておいた方がいい」


「そうね」


ハンクは少しだけ表情を緩めた。


「ただし、玲には今まで通り知らせない」


「ええ」


玲は何も知らず、辺境で暮らしている。


それでいい。


やっと手に入れた穏やかな日々なのだから。


***


辺境。


レオンハルトのもとへ、侯爵家からの手紙が届いた。


「……父上から?」


封を開き、読み進める。


その表情が、次第に険しくなる。


そして最後まで読み終えると、静かに息を吐いた。


「……そうか」


玲に毒を盛った者。


それが、宰相グスタフ・ローゼンベルクだった。


そして――。


「死刑、か」


レオンハルトは手紙を握りしめた。


怒りは、簡単には消えない。


だが、もう玲を狙う者はいない。


そう思えば、少しだけ肩の力が抜けた。


「……玲には、言わなくていい」


手紙を机に置く。


「今は、何も知らずに笑っていてくれれば、それでいい」


その頃、何も知らない玲は――。


「雷電、また毛が抜けてる!」


「……」


雷電は、何とも言えない顔で玲を見上げていた。


王都で一つの事件が終わったことなど、知る由もない。


そして辺境では――。


いつもの穏やかな日常が、今日も続いていた。


―72話 終―

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