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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第62話 大切な人たちに見守られて

玲は、ゆっくりとバージンロードを歩いていた。


 隣には雷電がいる。


 いつもなら自由気ままに歩く雷電が、今日は不思議なくらい大人しい。


 玲の歩幅に合わせるように、一歩ずつ進んでいる。


「雷電……」


「ワン」


 小さく返事をする雷電に、玲は微笑んだ。


 その先には――レオンハルトがいる。


 黒を基調とした正装に身を包み、まっすぐに玲を見つめていた。


 普段は辺境騎士団の団長として、多くの騎士たちを率いる凛々しい姿。


 けれど今、その瞳に映っているのは玲だけだった。


 一歩。


 また一歩。


 少しずつ距離が縮まっていく。


 玲の胸が、じんわりと熱くなった。


(……ここまで来たんだ)


 ほんの八ヶ月ほど前。


 玲は、この世界で生きていけるのかさえ分からなかった。


 王城で毒を盛られ、命を狙われていることを知った。


 そして――必死で王城から逃げ出した。


 何も分からない。


 誰を信じていいのかも分からない。


 ただ、生きなければと思っていた。


 そんな玲の前に現れたのが――レオンハルトだった。


『王都を出るなら、辺境へ行くか?』


 そう言ってくれた。


 玲はレオンハルトと共に王都を離れ、辺境を目指した。


 けれど、その旅は決して穏やかなものではなかった。


 魔物に襲われた。


 王家の騎士たちにも追われた。


 何度も危険な目に遭った。


 それでも二人で進んだ。


 異世界通販で手に入れた物に助けられ、スマホのチート機能にも助けられながら。


 そうして、二人で辺境へ辿り着いた。


 あの時は、こんな未来が待っているなんて想像もしていなかった。


 ただ、生き延びることだけを考えていた。


 それなのに――。


 今、自分の隣にはレオンハルトがいる。


 玲は足元を見る。


 そこには雷電。


 少し離れたところには、アビーがいる。


 二匹は玲が召喚されたその時から、ずっと一緒だった。


 何も分からなかった時も。


 怖かった時も。


 ずっと玲のそばにいてくれた。


(アビーも雷電も……ずっと一緒だったね)


 玲の目に涙が浮かぶ。


 そして、レオンハルトと目が合った。


 彼が優しく微笑む。


 それだけで、玲の胸がいっぱいになった。


 やがて二人の距離がなくなる。


 雷電が、レオンハルトの前で立ち止まった。


「ワン!」


 会場に、雷電の大きな声が響く。


「雷電?」


 レオンハルトが少し驚いたように雷電を見る。


 雷電はレオンハルトをじっと見上げた。


 そして――前足をちょこんと上げる。


「ワン!」


 その顔は、ものすごく誇らしげだった。


 アビーが雷電を見る。


『レオン』


「アビー?」


『雷電がね』


 アビーが少し笑った。


『玲を頼んだぞ、って言ってる』


「……」


 レオンハルトは雷電を見つめる。


 そして、ゆっくりとしゃがんだ。


 雷電と目線を合わせる。


「分かった」


 レオンハルトが静かに答えた。


「任せてくれ」


「ワン!」


「玲は俺が必ず幸せにする」


「……」


 玲の目から、一粒の涙がこぼれた。


「雷電……」


 雷電は満足そうに尻尾を振る。


『うん』


 アビーが頷いた。


『合格だって』


「ははっ」


 レオンハルトが笑う。


「それは良かった」


『でも、雷電ちょっと偉そう』


「アビー!」


『だってドヤ顔だもん』


「ワン!」


 雷電が抗議するように鳴いた。


 会場から小さな笑い声が起こる。


 玲も涙を拭いながら笑った。


「もう……雷電ったら」


 雷電は何事もなかったかのように、元の場所へ戻っていった。


     ◇◇◇


 玲はレオンハルトの隣に立つ。


 それだけで、不思議なくらい安心した。


「玲」


「うん?」


「綺麗だ」


「……ありがとう」


 玲の頬が赤くなる。


「レオンハルトも……格好いいよ」


「ありがとう」


 二人は少し照れながら笑った。


 周囲を見渡す。


 ハンク侯爵。


 ケイト侯爵夫人。


 マットとエレナ。


 辺境伯夫妻。


 グレン。


 セドリック、マリア、エミリア。


 そしてエレノア。


 今日、この場にいるのは大勢ではない。


 けれど――。


 玲とレオンハルトにとって、大切な人たちばかりだった。


 その視線が、二人を優しく包んでいる。


     ◇◇◇


 小さな足音が聞こえた。


『玲!』


 アビーだった。


 アビーの背中には、小さな白いリングピローが乗っている。


 二つの指輪が、大切に収められていた。


「アビー」


『レオン!』


 アビーは嬉しそうに尻尾を振る。


『指輪、持ってきたよ!』


「ありがとう、アビー」


『今日の私の大事なお仕事だから、絶対に落とさないようにしたの!』


 玲は思わず笑った。


「偉いね」


『えへへ』


 アビーが胸を張る。


 ケイトが微笑ましそうに見つめる。


「本当に可愛いわね」


 エレナも笑った。


「アビー、大役ね」


『うん!』


 アビーは誇らしげに答えた。


 玲はアビーを見つめる。


 召喚された時から、ずっと一緒だった。


 何も分からなかった玲のそばに、いつもいてくれた。


「ありがとう、アビー」


『うん!』


 アビーが嬉しそうに笑う。


     ◇◇◇


 レオンハルトがリングピローから指輪を取る。


 そして、玲の左手を優しく取った。


 玲の指に、ゆっくりと指輪が通される。


 玲もレオンハルトの手を取る。


 そして、同じように指輪をはめた。


 二人の指に、同じ輝きが宿った。


「……綺麗」


 玲が自分の指を見る。


「玲の方が綺麗だ」


「もう……」


 玲が照れて俯く。


 その様子を見て、エレノアがそっと目元を押さえた。


「本当に素敵……」


 マリアも微笑んでいる。


 エミリアはすでに目を潤ませていた。


「よかった……」


 セドリックも静かに二人を見守っている。


 ハンク侯爵は満足そうに頷き、ケイトは嬉しそうに微笑んでいる。


 マットとエレナも、温かな表情で二人を見つめていた。


 誰もが、二人の幸せを願っている。


 それが玲には嬉しかった。


     ◇◇◇


 そして、誓いの言葉。


 二人は互いを見つめる。


 玲は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「これから先も……レオンハルトと一緒にいたい」


 少しだけ声が震える。


「楽しいことも、辛いことも……全部、一緒に乗り越えていきたい」


 レオンハルトの瞳が優しく細められる。


「俺もだ」


 静かな声。


 けれど、そこには強い想いが込められていた。


「玲。これから先も、俺の隣にいてほしい」


「……はい」


 玲の目から涙がこぼれる。


 レオンハルトが、その涙をそっと拭った。


「泣くな」


「だって……」


 玲は涙を拭いながら笑う。


「嬉しいんだもん」


「……そうか」


 レオンハルトも笑った。


     ◇◇◇


 その光景を見ていた雷電が――。


「ワン!」


 大きな声で鳴いた。


 玲が振り返る。


「雷電?」


 アビーが雷電を見る。


『……』


 そして、くすっと笑った。


『雷電が、「いつまで玲を独占してるんだ」って』


「雷電!」


 会場から笑い声が起こる。


「ワン!」


 雷電は堂々としている。


『今日は結婚式だよって言ってるのに』


「ワン!」


『俺も家族だからいいんだって』


「ふふっ……」


 玲は涙を流しながら笑った。


 こんな日が来るなんて、あの日の自分は知らなかった。


 怖くて、不安で、ただ生きることに必死だった。


 けれど今は――。


 自分の隣には、愛する人がいる。


 足元には、召喚されたその日からずっと一緒だったアビーと雷電がいる。


 周りには、自分たちを祝福してくれる大切な人たちがいる。


「……幸せ」


 玲が小さく呟いた。


 レオンハルトが、その手を握る。


「ああ」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、微笑んだ。


 王城から逃げたあの日には、想像もできなかった未来。


 玲は今、こうして大切な人たちに囲まれている。


 愛する人と手を取り合い、これから先の人生を歩いていく。


 その一歩を、今日ここから踏み出す。


 こうして――。


 一ノ瀬玲とレオンハルト・ヴァレンシュタインの結婚式は、温かな祝福に包まれて幕を開けた。


 玲がこの世界で築いてきた大切なもの。


 そのすべてが、今日という日に繋がっていた。


――第62話 終――

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