第56話 パール化粧品、新店舗完成
翌日。
昨日、みんなで見に行った店舗候補の建物を、玲はもう一度眺めていた。
大きすぎず、小さすぎない。
街の人が歩いている通りからも見えやすく、女性一人でも入りやすそうな場所だ。
「……やっぱり、ここがいいです」
玲が頷く。
「私も賛成よ」
グレイスが微笑む。
「店内も明るいし、商品をゆっくり見られそう」
「警備もしやすい場所だ」
グレンも周囲を確認している。
セドリックは商業ギルドから渡された書類に目を通した。
「では、こちらの店舗で正式に契約を進めます」
「お願いします」
玲は改めて建物を見上げた。
「ここが……パール化粧品のお店になるんですね」
「ああ」
隣に立つレオンハルトが頷く。
「楽しみだな」
「はい!」
玲の顔に自然と笑みが浮かんだ。
◇◇◇
それから、忙しい日々が始まった。
「この棚は、こちらの壁にお願いします」
「分かりました」
マリアが商品の並びを考える。
「石鹸は手に取りやすい高さにした方がいいですね」
「そうね」
グレイスも商品を置く場所を確認していく。
「こちらには化粧水とクリームを」
「では、こちらは石鹸類にしましょう」
セドリックは必要な物を書き出していく。
「棚、看板、包装材……他にも必要なものがありますね」
「結構ありますね」
エミリアもメモを覗き込む。
「接客用の机も必要では?」
「そうですね」
新しくパール化粧品の店員となるエミリアも、積極的に準備に加わっていた。
「エミリアさん、無理しなくて大丈夫ですよ」
「いえ! 私のお店でもありますから」
「……」
玲はその言葉に、少し驚いた。
そして――嬉しくなった。
「そうですね」
玲は笑う。
「これから一緒に頑張りましょう」
「はい!」
◇◇◇
そして玲も、シャンプーの開発を進めていた。
「うーん……」
作業部屋に籠もり、試作品を並べていく。
「シャンプーの泡立ちは良くなったけど、もう少し髪がしっとりした方がいいかな」
昨日までとは違う配合のものが、いくつも並んでいる。
『玲、いっぱいあるね』
「うん。全部ちょっとずつ違うんだよ」
『どれが一番いいの?』
「それを今、探してるの」
「ワン」
「雷電も分からないよね」
「ワン!」
『雷電は食べられるかどうかしか考えてないよ』
「アビー!」
玲が笑う。
「でも、シャンプーが完成したら、今度は新しい石鹸も作りたいし……」
玲は作業台を見渡した。
「せっかく新しいお店ができるんだから、商品も増やしたいよね」
玲の目が輝く。
「よし。頑張ろう!」
◇◇◇
数日。
また数日。
そして――
少しずつ、店が形になっていった。
壁が整えられ。
棚が設置され。
商品を並べる場所が決まり。
店内には、パール化粧品の名前が入った看板が取り付けられた。
「……完成に近づいてきましたね」
セドリックが店内を見渡す。
「商品も揃ってきました」
マリアが在庫を確認する。
「石鹸、化粧水、クリーム……」
そして玲が開発していた新商品も、少しずつ加わっていった。
「シャンプーも、ようやく納得できるものになりました!」
玲が嬉しそうに言う。
「本当に?」
グレイスが興味津々に覗き込む。
「はい。まだ大量生産の前に確認は必要ですけど、試作品としてはかなり良いと思います」
「楽しみね」
「それと、新しい石鹸も作りました」
「また増えたのか?」
レオンハルトが苦笑する。
「だって、お店ができるんですよ?」
玲が少し頬を膨らませる。
「商品が少ないより、いろいろ選べた方が楽しいでしょう?」
「確かに」
「でしょう?」
玲が満足そうに笑った。
その様子を見て、レオンハルトも笑う。
「玲が楽しそうなら、それでいい」
「……」
玲の動きが止まる。
「え?」
「どうした?」
「い、いえ……何でもないです」
玲は慌てて顔を逸らした。
『玲、また赤いよ』
「アビー!」
『だって本当だもん』
「もう……!」
「ワン……」
雷電が呆れたように鳴いた。
◇◇◇
そして――。
「玲様!」
エミリアの声が店内に響いた。
「見てください!」
「え?」
玲が振り返る。
そこには、完成したばかりの店内があった。
棚には、パール化粧品の商品が綺麗に並んでいる。
石鹸。
化粧水。
クリーム。
そして新しく加わった商品たち。
どれも一つ一つ、玲が心を込めて作ったものだ。
「……」
玲は言葉を失った。
「すごい……」
まだ、誰もお客様がいない。
けれど。
ここには、これからたくさんの人が訪れる。
商品を手に取り。
香りを確かめ。
気に入ったものを買って帰る。
そして、その人たちの毎日の生活の中で使われていく。
「本当に……お店になったんですね」
「はい!」
エミリアが嬉しそうに笑う。
「パール化粧品のお店です」
「……うん」
玲はゆっくり頷いた。
◇◇◇
「玲、こっちへ来てくれ」
店の外からレオンハルトの声がする。
「はい?」
外へ出ると、そこにはみんなが集まっていた。
レオンハルト。
アルベルト。
グレン。
グレイス。
セドリック。
マリア。
そしてエミリア。
足元には雷電とアビー。
「どうしたんですか?」
「記念撮影をしよう」
「記念撮影?」
玲が目を丸くする。
「せっかく店が完成したんだ」
グレイスが笑う。
「みんなで記念に残しておきましょう」
「いいですね!」
エミリアも嬉しそうだ。
「では、並びましょう」
セドリックが声をかける。
「雷電とアビーは前でいいんじゃない?」
グレイスがしゃがみ込む。
「ワン!」
『私、玲の隣がいい!』
「アビー、ちゃんと前に座って」
『えー』
「ほら」
玲がアビーを抱き上げる。
「ワン!」
雷電も玲の足元へ座る。
「よし」
みんなが並ぶ。
その後ろには――
真新しい看板。
そこには堂々と、
『パール化粧品』
と記されている。
「では、撮りますよ」
声がかかる。
「はい!」
玲が笑う。
その瞬間。
新しい店舗の前で、みんなの笑顔が一枚の写真に収まった。
パール化粧品にとって――
新たな一歩を踏み出した、大切な記念の日となった。
――第56話 終――




