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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第54話 新たな出会いと新店舗

翌日。


 玲は朝食を終えると、さっそく作業部屋へ向かった。


 昨日採取した三種類の植物が、作業台の上に並んでいる。


 月雫草。


 泡花。


 そして、白露花。


「今日は、この子たちを使ってシャンプーを作ってみよう」


 玲は腕まくりをした。


 日本にいた頃、化粧品メーカーで研究開発をしていた玲にとって、シャンプーの開発は決して初めてではない。


 けれど、ここは異世界。


 地球には存在しない植物を使う以上、同じ配合がそのまま通用するとは限らない。


「まずは、それぞれの性質を確認して……」


 玲は少量ずつ植物を加工し、香りや色、泡立ちなどを確認していく。


「月雫草は香りがいい」


 次に泡花。


「これは名前の通り、泡立ちに関係してそう」


 そして白露花。


「こっちは……髪への馴染みが良さそうね」


 玲の頭の中で、少しずつ組み合わせが出来上がっていく。


「よし。試してみよう」


 いくつかの配合を調整し、小さな容器に入れる。


「試作品第一号!」


 玲が嬉しそうに掲げる。


 その足元から、アビーが顔を出した。


『何それ?』


「シャンプー」


『食べられる?』


「食べられません」


『残念』


「残念じゃないの」


 雷電も作業台を覗き込む。


「ワン」


「雷電も気になる?」


「ワン!」


 玲は笑いながら、試作品を少量取り出した。


「まずは泡立ちを確認して……」


 手のひらで泡立てる。


 もこもこ。


 もこもこ。


 さらに、もこもこ。


「……」


『わあ!』


「……泡立ちすぎね」


 アビーが目を輝かせる。


『雲みたい!』


「これはシャンプーであって、泡遊び用じゃないからね」


『でも楽しそう』


「楽しそうじゃなくて、失敗なの」


 玲は苦笑しながら、配合を書き留めた。


「泡立ちは十分。むしろ抑えた方がいい。次は洗浄力と、洗い上がりを確認しないと」


 研究者としての玲の目が輝く。


 新しいものを作る。


 試して、失敗して、また改良する。


 その時間が、玲は好きだった。


     ◇◇◇


 一方、その頃。


 レオンハルト邸の別室では、セドリックとマリアが帳簿と在庫表を広げていた。


「……やはり、そろそろ限界ですね」


 セドリックが呟く。


「何がです?」


 マリアが顔を上げる。


「商品の管理です」


 セドリックは帳簿を指差した。


「口コミで広がったパール化粧品ですが、最近はお客様の数も商品の種類も増えています」


「確かに……」


 マリアも在庫表を見ながら頷く。


「最初の頃とは比べものになりませんね」


「ええ。玲様が新商品を開発されるたびに、管理するものも増えていきます」


 二人は顔を見合わせた。


「そろそろ、実店舗を構えた方がいいのではないでしょうか?」


「私もそう思っていました」


 セドリックが頷く。


「ですが、私たちは裏方です。店頭に立って接客をする人間が必要になります」


「それに、店舗の場所や人員、警備のことも考えないといけませんね」


「その辺りは――」


 セドリックが少し考える。


「商業ギルドに相談してみましょう」


「そうですね」


 パール化粧品は、すでに商業ギルドを通して正式な販売を行っている。


 商標登録も済ませている。


 だからこそ、今回も新しい商売を始めるというより、今ある事業を一段階大きくするための相談だった。


     ◇◇◇


「なるほど。実店舗ですか」


 商業ギルドの担当者は、セドリックたちの話を聞くと頷いた。


「最近、パール化粧品について問い合わせが増えているんです」


「やはり、そうでしたか」


「ええ。口コミだけでここまで広がる商品は珍しいですから」


 担当者は資料を確認する。


「店舗を構えるのであれば、いくつか候補をご紹介できます」


「助かります」


「それと……」


 担当者が一枚の書類を取り出した。


「販売員をお探しでしたら、商業ギルドに登録している者の中から紹介することもできます」


 マリアの目が輝く。


「それはありがたいです!」


「接客経験があり、化粧品にも興味を持っている女性が一人います」


「ぜひ、話を聞いてみたいですね」


「では、後日こちらへ来てもらいましょう」


 こうして、パール化粧品の実店舗計画が動き始めた。


     ◇◇◇


「店舗を作ることになったのか」


 報告を受けたレオンハルトが頷く。


「はい」


 セドリックが説明する。


「商業ギルドから店舗候補も紹介していただけることになりました」


「ならば、俺も見に行こう」


「ありがとうございます」


「警備のことも考える必要があるからな」


「そうですね」


 そこへグレンとグレイスもやって来た。


「店舗を作るんだって?」


 グレンが話を聞く。


「ああ」


「なら、警備は任せてくれ。女性客が多くなるなら、安心して買い物できる場所にした方がいい」


「私も内装を見てみたいわ」


 グレイスが微笑む。


「女性が入りやすくて、商品をゆっくり見られるお店にしたいもの」


「それは頼もしいな」


 こうして、玲が知らないところで、みんなが着々と準備を進めていく。


     ◇◇◇


「……うーん」


 その頃、玲はというと。


 相変わらず作業台の前で悩んでいた。


「泡立ちはいい。でも、これだと洗い上がりが少しきしむ」


 玲は配合を変更する。


「月雫草を少し減らして、白露花を増やしてみよう」


 新しい試作品を作る。


 その横では、アビーと雷電が並んで座っていた。


『玲、まだやるの?』


「うん。もう少しで良くなりそうだから」


『頑張ってね』


「ありがとう」


 アビーが尻尾を振る。


 雷電も、


「ワン!」


 と鳴いた。


「二人とも応援してくれるの?」


「ワン!」


『もちろん!』


 玲は嬉しそうに笑った。


 そこへ――


「玲」


 扉の向こうから声がした。


「レオンハルト?」


「ああ。入ってもいいか?」


「どうぞ」


 レオンハルトが部屋へ入ってくる。


「まだ研究していたのか」


「はい。シャンプーを作ってるんです」


 玲は試作品を見せる。


「まだ完成していませんけど」


「そうか」


 レオンハルトは頷いた。


「店舗の方は、こちらで進めておく」


「ありがとうございます」


「君は開発に集中すればいい」


「でも……」


「心配するな」


 レオンハルトが穏やかに笑う。


「君が作りたいものを作ればいい」


「……」


 玲の胸が、少しだけ温かくなる。


「はい」


 レオンハルトが部屋を出ていく。


 玲はその背中を見送った。


「……優しいな」


 小さく呟いた、その時。


『玲、また顔赤いよ』


「アビー!」


『だって本当に赤いもん』


「もう……!」


 雷電が玲を見上げ、


「ワン……」


 と、どこか呆れたように鳴いた。


「雷電まで……」


 玲は頬を押さえながら、作業台へ向き直る。


「よし!」


 気持ちを切り替える。


「絶対に、いいシャンプーを作ろう!」


 その頃――。


 商業ギルドでは、パール化粧品で働くことになる女性へ、声がかけられていた。


「明日、パール化粧品の方々と顔合わせをしていただきます」


「はい。楽しみにしています」


 新しい出会いが、すぐそこまで近づいていた。


――第54話 終――

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