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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第52話 白露花と森のお弁当

森の中へ入ると、草原とは違うひんやりとした空気が肌を撫でた。


 木々の葉の隙間から差し込む陽射しが、地面にまだらな光を落としている。


「白露花は、この辺りのはずなんですけど……」


 玲は図鑑の写しを手に、辺りを見回した。


 白露花。


 名前の通り、朝露のような白い花を咲かせる植物で、日当たりの良い場所に群生することがあるらしい。


「日当たりのいい場所なら、もう少し先かもしれないな」


「そうですね」


 玲が歩き出そうとすると――


『玲、こっち!』


「アビー?」


 アビーが尻尾を振りながら、少し先へ進んでいく。


「今度はちゃんとゆっくりだよ」


『分かってるって!』


 そう言いながらも、アビーの足取りはどこか嬉しそうだ。


「アビー、張り切ってるな」


「はい。こういう探し物、好きなのかもしれません」


「ワン!」


 雷電も負けじとアビーの後をついていく。


「雷電も?」


「ワン!」


『雷電も一緒に探そうね!』


「ワン!」


 二匹が並んで歩いていく。


 その後ろを、玲とレオンハルトが並んで歩いた。


「なんだか……」


「どうした?」


「遠足みたいですね」


 玲が笑う。


「遠足?」


「はい。お弁当を持って、みんなで出かけて……」


 そう言ってから、玲は少し照れたように笑った。


「こういうの、久しぶりなので」


「そうか」


 レオンハルトが玲を見る。


「なら、今日は楽しめばいい」


「……はい」


 その言葉が、なぜか嬉しかった。


     ◇◇◇


「玲!」


 突然、アビーが声を上げた。


「どうしたの?」


『あそこ! 明るいところ!』


 アビーが前方を指すように鼻先を向ける。


 木々の間から、陽の光が差し込んでいる。


「行ってみましょう」


 玲が近づく。


 すると――


「あ……!」


 小さな白い花が、いくつも咲いていた。


 陽射しを受けて、花びらがきらきらと輝いている。


「白露花……!」


 玲はしゃがみ込み、図鑑の写しと見比べた。


「間違いないです!」


『やったー!』


「ワン!」


 二匹も嬉しそうに鳴く。


「アビー、雷電、ありがとう!」


『えへへ。今回は転ばなかったよ!』


「そこを自慢するの?」


『大事なことだよ!』


「確かに」


 レオンハルトが小さく笑った。


「アビーは賢いな」


『もっと褒めて!』


「こらこら」


 玲が笑いながらアビーの頭を撫でる。


 そして玲は、白露花をじっくり観察した。


「これも必要な分だけにしましょう」


「ああ」


「全部採ってしまったら、ここからなくなってしまいますから」


 玲は傷つけないように、慎重に白露花を採取していく。


 三種類すべて揃った。


「これで全部です!」


 玲は採取した植物を大切そうに包む。


「よくやったな」


「はい!」


 玲が嬉しそうに笑った。


 すると――


 ぐぅぅぅ……。


「……」


「……」


 森の中に、小さな音が響いた。


 玲は固まった。


「……今の、誰ですか?」


 レオンハルトが玲を見る。


「俺ではない」


「じゃあ……」


 玲が二匹を見る。


 雷電は知らん顔をしている。


 アビーは――


『玲だよ』


「……」


「……玲?」


「違います!」


 玲の顔が赤くなる。


『だって朝ご飯食べたのに、お昼ご飯も楽しみにしてたじゃん』


「アビー……」


 レオンハルトの口元が緩む。


「そういえば、昼食を持ってきていたな」


「……はい」


 玲は観念したように頷いた。


「ちょうどお腹が空いてきました……」


『私も!』


「ワン!」


「雷電もアビーも?」


 二匹の尻尾が、ぶんぶんと揺れている。


「では、少し早いが昼にするか」


「いいんですか?」


「ああ。採取も終わったことだしな」


「やった!」


 玲の顔がぱっと明るくなる。


 レオンハルトはそんな玲を見て、また小さく笑った。


「やはり、玲も食べることが好きなんだな」


「……」


「アビーの言った通りだ」


「レオンハルトまで……!」


『ほらね!』


「アビー!」


 森の中に、玲たちの笑い声が響いた。


     ◇◇◇


 少し開けた場所を見つけ、昼食を広げる。


 レオンハルトが持ってきたバスケットの中には、パンや肉料理、野菜、それに果物まで入っていた。


「すごい……」


 玲は思わず目を輝かせる。


「これは……かなり豪華ですね」


「執事が張り切ったらしい」


「ありがとうございます」


 玲が笑う。


 そしてもう一つのバスケットを開ける。


「雷電、アビーの分も開けようか」


「ワン!」


『待ってました!』


 中には二匹が食べやすいように用意された肉や野菜、犬用のパンまで入っていた。


『すごーい!』


 アビーが目を輝かせる。


 雷電も尻尾を大きく振っている。


「良かったね」


「ワン!」


『いただきます!』


 二匹が嬉しそうに食べ始める。


 玲も自分の昼食を手に取った。


「いただきます」


 一口食べる。


「……美味しい」


「そうか」


「はい。外で食べると、いつもより美味しく感じますね」


 玲は森の景色を見渡した。


 木々の間から差し込む光。


 鳥の声。


 心地よい風。


 そして、隣にはレオンハルト。


 足元には雷電とアビー。


「……こういうの、いいですね」


「俺もそう思う」


 レオンハルトの声が、すぐ隣から聞こえた。


 玲は少しだけ顔を上げる。


 視線が重なった。


「……」


「……」


 なぜか二人とも、少しだけ黙ってしまう。


『玲』


「な、何?」


『顔赤いよ』


「……もう!」


 玲は慌ててアビーから視線を逸らした。


「アビーはご飯食べてなさい!」


『はーい』


 雷電はそんな二人を見ながら、


「ワン……」


 と、どこか呆れたように鳴いた。


 こうして、三種類の薬草採取を終えた玲たちは、森の中で穏やかな昼食の時間を過ごした。


 そしてこの日、玲はまだ知らなかった。


 今日採取した三種類の植物が、これから辺境の街で始まる新たな出来事へと繋がっていくことを――。


――第52話 終――

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