第49話 王都で話題のパール化粧品
玲がレオンハルト邸で新しい暮らしを始めた頃。
王都では、ある商品が少しずつ話題になっていた。
「最近、パール化粧品の石鹸を使い始めたのですけれど、とても良いんですの」
「まあ、私も使っていますわ」
「化粧水も評判がいいそうですわよ」
貴族令嬢たちの間で交わされる会話。
始まりは、一人の令嬢が使い始めたことだった。
それが友人へ。
友人からまた別の令嬢へ。
口コミは少しずつ広がり、気がつけば王都でもパール化粧品の名前を知らない者は少なくなっていた。
「肌の調子が良くなった気がするの」
「私もですわ」
「香りもきつくなくて使いやすいですもの」
評判は日に日に広がっていく。
けれど、まだ誰も知らない。
この化粧品を生み出したのが、王都から遠く離れた辺境で暮らす玲だということを。
◇◇◇
「愛莉、これを」
「え?」
王太子から手渡された箱を、愛莉は不思議そうに見つめた。
「最近、王都で評判になっているらしい。お前もこういうものが好きだろう?」
「ありがとう!」
愛莉は嬉しそうに箱を受け取る。
蓋を開けると、中には綺麗に包装された石鹸が入っていた。
「石鹸?」
「ああ。パール化粧品という店の商品らしい」
「パール化粧品……」
愛莉は箱から石鹸を取り出す。
ふわりと漂う香り。
そして、その石鹸を見つめた瞬間――。
「……あれ?」
「どうした?」
「ううん……」
愛莉は首を傾げる。
「なんか……これ、似てる気がする」
「何に?」
「……分からない」
愛莉は石鹸を手のひらで転がす。
どこかで見たことがあるような。
使ったことがあるような。
そんな気がする。
「玲……?」
ふと、頭に浮かんだ名前。
けれど――。
「……気のせいかな」
愛莉は小さく呟いた。
玲がこの世界にいるなんて、考えもしなかった。
あの日、王城から姿を消した玲。
愛莉の知る限り、玲はもうこの世界にはいない。
「愛莉?」
「あ、ごめん。何でもないよ」
愛莉は笑って、石鹸を箱へ戻した。
「ありがとう。大切に使うね」
「ああ」
王太子も満足そうに微笑む。
その時の二人は、まだ知らなかった。
この小さな石鹸が――。
遠く離れた場所で暮らす玲と、再び繋がるきっかけになることを。
◇◇◇
一方その頃。
「最近、パール化粧品という店が人気らしいな」
王都では、そんな噂が貴族たちの間を駆け巡っていた。
そして玲自身は、まだ何も知らない。
遠く離れた辺境で、婚約者との新しい暮らしを始めたばかりだった。
――第49話 終――




