↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/89

第47話 辺境での婚約披露宴

レオンハルトとの婚約が決まってから、一週間。


「……本当に、今日なんですね」


 玲は鏡の前で、少し落ち着かない様子で呟いた。


「ええ。婚約披露宴ですもの」


 隣では、エレノアが楽しそうに微笑んでいる。


「でも、準備期間が一週間しかないのに……」


「大丈夫ですわ」


 エレノアがそう言うと、侍女たちが一着のドレスを運んできた。


「え……?」


 玲は目を丸くする。


 淡い色合いの生地に、繊細な刺繍が施されたドレス。


 華やかではあるけれど、派手すぎない。


「綺麗……」


「実は以前から用意していたのです」


「え?」


「玲さんに、いつか夜会に出ていただくことがあれば着てほしいと思って」


 エレノアが優しく笑った。


「まさか、こんなに早く出番が来るとは思いませんでしたけれど」


「エレノア様……」


 玲はドレスを見つめる。


「ありがとうございます。すごく嬉しいです」


「ふふ。さあ、着てみましょう」


     ◇◇◇


「玲様、こちらを少し締めますね」


「はい」


 侍女たちに手伝ってもらいながら、玲はドレスに着替えていく。


 腰回りを整えていた侍女が、ふと手を止めた。


「……まあ」


「どうしました?」


「玲様、本当に腰がお細いですわ」


「え?」


「これならコルセットは必要ありませんね」


「そうなんですか?」


「ええ。むしろ、そのままの方がドレスの形が綺麗に出ます」


「……なんか、恥ずかしいです」


 玲が照れていると、今度は化粧を担当していた侍女が声を上げた。


「まあ……玲様、お肌がとてもお綺麗ですわ」


「そうですか?」


「ええ。とても滑らかで……」


「本当ですわ!」


 別の侍女まで覗き込む。


「これはメイクのしがいがありますわね」


「そんなに見ないでください……」


 玲は苦笑した。


(毎日ちゃんとお手入れしてて良かった……)


 玲が愛用しているのは、もちろんパール化粧品。


 石鹸で肌を整え、化粧水や乳液で丁寧に手入れしている。


 けれど――。


 玲自身がパール化粧品の開発に関わっていることは、まだ秘密だ。


「玲様、完成です」


「……わぁ」


 鏡に映った自分を見て、玲は思わず声を漏らした。


 普段とは違う。


 ドレスも、髪も、化粧も。


「これ……私?」


「とてもお綺麗ですわ」


「ありがとうございます」


 玲は照れくさそうに笑った。


     ◇◇◇


 その頃。


「団長、そろそろ時間ですよ」


「ああ」


 グレンの声に、レオンハルトが立ち上がる。


 金色の髪を整え、正装に身を包んだ姿は、普段の騎士服姿とはまた違っていた。


「今日は随分と雰囲気が違いますね」


「そうか?」


「ええ」


 グレンが笑う。


「玲様が見たら、きっと喜ばれますよ」


「……そうか」


 レオンハルトの口元が、ほんの少し緩んだ。


「グレン、レオンハルト様のお顔が緩んでいますわよ」


 グレイスが楽しそうに言う。


「グレイス」


「ふふ。婚約披露宴ですもの。少しくらい浮かれてもよろしいのでは?」


「……浮かれてはいない」


「そういうことにしておきましょうか」


「グレイス……」


 レオンハルトが苦笑する。


 グレンも肩を揺らした。


「では、そろそろ参りましょう」


「ああ」


     ◇◇◇


 そして――。


 披露宴会場。


 玲が姿を現した瞬間。


「……」


 レオンハルトが固まった。


「レオンハルト?」


「ああ……」


「どうしました?」


 レオンハルトは玲を見つめたまま、しばらく言葉を探す。


「……綺麗だ」


「……!」


 玲の頬が一気に赤くなる。


「もう……急に言わないでください」


「思ったことを言っただけだ」


「それが恥ずかしいんです!」


 玲は慌てて視線を逸らした。


 けれど――。


 今度は玲がレオンハルトを見る。


 金色の髪。


 整った顔立ち。


 普段とは違う正装姿。


「……レオンハルトも、かっこいいです」


「そうか」


 レオンハルトが微笑む。


 玲はその顔を見て、胸が小さく跳ねるのを感じた。


(……やっぱり、かっこいい)


 初めて会った時から、ずっと思っていた。


 どこか誰かに似ているような気がする。


 その雰囲気が、玲の好みだった。


「玲?」


「えっ?」


「どうした?」


「な、何でもないです!」


 玲は慌てて前を向いた。


 その足元から――。


「ワン!」


「雷電?」


 雷電が大きく尻尾を振っている。


 その隣には、可愛らしく飾りつけてもらったアビー。


『玲、顔赤いよ』


「アビー!」


『レオンハルトのこと、好きなんでしょ?』


「ちょっと!」


 玲が真っ赤になる。


「ワン!」


「雷電まで!」


 雷電が、まるで同意するようにもう一度大きく吠えた。


 レオンハルトは二匹と玲を見て、楽しそうに笑っている。


「……何なんですか、もう!」


     ◇◇◇


「玲さん、とてもお似合いですわ」


 エレノアが玲のもとへやって来る。


「ありがとうございます、エレノア様。ドレスも本当にありがとうございました」


「喜んでいただけて良かったですわ」


 そこへアルベルトもやって来た。


「玲、よく似合っているぞ」


「ありがとうございます、アルベルト様」


「レオンハルトも、今日は随分と立派ではないか」


「ありがとうございます、アルベルト様」


「ふふ」


 エレノアが二人を見比べる。


「本当にお似合いですわね」


「……ありがとうございます」


 玲は照れながら頭を下げた。


 その少し離れたところでは、グレンとグレイスが二人を見ていた。


「団長も、こうして見ると随分と嬉しそうですね」


 グレンが呟く。


「ええ。玲さんが隣にいると、表情が柔らかくなりますもの」


 グレイスも微笑む。


「普段からあれくらい柔らかければいいんですが」


「グレン」


「はい?」


「聞こえているぞ」


「……失礼しました」


 グレンが苦笑する。


 その横でグレイスが小さく笑った。


     ◇◇◇


「玲様!」


「あ、セドリックさん、マリアさん!」


 パール化粧品店を任せている二人も、今日は正装して参加していた。


「ご婚約、本当におめでとうございます」


「ありがとうございます」


 玲が嬉しそうに笑う。


「玲様、今日はいつも以上にお綺麗です」


「本当ですよ」


 マリアに続いてセドリックも頷く。


「ありがとうございます。でも、なんだか今日はずっと見られている気がします……」


「それは仕方ありませんよ」


 セドリックが笑う。


「今日は玲様が主役ですから」


「……そうでした」


 玲は苦笑した。


 セドリックとマリアは、玲がパール化粧品の開発者であることを知っている。


 けれど、二人ともその秘密を口にすることはない。


 今日もただ、玲の婚約者としての晴れ姿を祝うためにここにいる。


     ◇◇◇


 披露宴が進むにつれ、玲の周りには少しずつ人が集まってきた。


「玲様、お肌がとてもお綺麗ですわね」


「ありがとうございます」


「何か特別なお手入れをされているのですか?」


 玲は少し考えてから答えた。


「パール化粧品を使っているんです」


「まあ!」


「やはり、そうなのですね!」


「私も最近使い始めましたの」


「私もですわ」


 令嬢たちは楽しそうに話している。


「どの商品がおすすめですの?」


「えっと……」


 玲は少し困ったように笑った。


「私は化粧水を使っていますけど……肌質によって合うものも違うと思うので、セドリックさんかマリアさんに相談してみてください」


「まあ、それなら後でお店にも伺ってみますわ!」


「ぜひ!」


 玲は笑顔で答えた。


 自分が作っていることは、まだ言わない。


 今はただ、一人の愛用者として振る舞う。


 セドリックとマリアも、何も言わずに微笑んでいた。


     ◇◇◇


 やがて、婚約披露宴も終盤に差しかかった。


 玲はレオンハルトの隣で、会場を見渡す。


 たくさんの人が、自分たちの婚約を祝ってくれている。


 少し前まで、こんな未来が来るなんて思っていなかった。


 王城で毒を盛られ、命からがら逃げ出した。


 それから辺境へ来て。


 雷電とアビーと暮らして。


 たくさんの人に出会って。


 今では――。


「玲」


「はい?」


「疲れていないか?」


 レオンハルトが心配そうに尋ねる。


「大丈夫です」


 玲は笑った。


「それに……嬉しいです」


「そうか」


「はい」


 玲はレオンハルトを見上げる。


「婚約して良かったなって、今思ってます」


 レオンハルトの目が少しだけ細められる。


「ああ。俺もだ」


 玲は照れながら笑った。


     ◇◇◇


 華やかな婚約披露宴は、無事に終わった。


「……終わったぁ」


 玲が小さく息を吐く。


『お疲れ様』


「アビーも疲れた?」


『ちょっとね』


「ワン」


「雷電もお疲れ様」


 玲が二匹を撫でる。


 少し離れたところでは、アルベルトとエレノア、グレンとグレイス、セドリックとマリアが談笑している。


 玲はその光景を見て、自然と笑顔になった。


 こんなふうに自分の婚約を喜んでくれる人がいる。


 それが、とても嬉しかった。


「玲」


 レオンハルトが声をかける。


「はい?」


「三ヶ月後だな」


「……結婚式」


「ああ」


「結婚式は、今日みたいに大勢の人を呼ばないんですよね?」


「そのつもりだ」


 レオンハルトが頷く。


「教会で、近しい者だけを呼ぶ」


「……うん」


 玲も頷いた。


「その方がいいです」


 今日のような華やかな婚約披露宴も素敵だった。


 でも――。


 三ヶ月後は、大切な人たちだけに囲まれて静かに結婚したい。


 玲は、そう思った。


 その時の玲はまだ知らない。


 パール化粧品の評判が、少しずつ辺境の外へ広がっていることも。


 自分がその化粧品を作っていることを、いずれ誰かが知ることになることも。


 そして、その噂がいつか王都へ届く可能性があることも。


 けれど――。


 その時には、もう遅い。


 三ヶ月後。


 玲はレオンハルトと夫婦になる。


 その日までに、二人の距離はさらに縮まっていくことになる。


「帰ろう、玲」


「はい!」


 玲はレオンハルトの隣に並んだ。


 雷電とアビーも二人の後をついていく。


 こうして、二人の婚約披露宴は幕を閉じた。

#__i_bcf359f7__#

――第47話 終――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。