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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第46話 私……結婚します

翌朝。


 玲は朝から落ち着かなかった。


「……どうしよう」


 朝食を前にして、何度目か分からないため息をつく。


 向かいでは雷電が黙々と食事をしている。


 足元ではアビーが玲を見上げていた。


『何をそんなに悩んでるの?』


「だって……今日、レオンハルトに返事するんだよ?」


『昨日からずっと、それ言ってるよ』


「だって大事なことじゃん!」


 玲は頬を膨らませる。


 けれど、心の中ではもう答えが決まっていた。


 昨日。


 レオンハルトから突然告げられた言葉。


 ――俺と結婚してほしい。


 最初は驚いた。


 結婚なんて、今まで真剣に考えたことがなかった。


 日本にいた頃は仕事をして、家に帰れば雷電とアビーがいる。


 それで十分幸せだった。


 誰かと結婚して家庭を持つことなんて、自分にはまだまだ先の話だと思っていた。


 それなのに――。


 この世界に来て、玲の環境は大きく変わった。


 王城では聖女として扱われるどころか、存在を無視され。


 そして、食事に毒を盛られた。


 雷電とアビーが気づいてくれなければ、どうなっていたか分からない。


「……王城には、もう戻りたくない」


 玲は小さく呟いた。


『うん』


「怖いんだよね……あの場所」


 玲は胸元に手を当てる。


 王家が自分に何をしたのか。


 玲には分からない。


 ただ、あの場所で命を狙われたことだけは事実だった。


 だからこそ――。


 辺境に来てからの日々が、余計に大切に思える。


 アルベルトも。


 エレノアも。


 グレンもグレイスも。


 そしてレオンハルトも。


 誰も玲を無理にどこかへ連れて行こうとはしなかった。


 玲のやりたいことを尊重してくれた。


 商品を作れば一緒に喜んでくれた。


 危険があれば守ってくれた。


「私……この辺境で暮らすのが好き」


『知ってる』


「雷電とアビーと一緒にいられるのも嬉しいし」


「ワン」


「商品を作るのも楽しい」


 玲は窓の外を見る。


 ここには、自分の居場所がある。


 そして――。


 レオンハルトがいる。


「……昨日、レオンハルトに言われた時、嫌じゃなかったんだよね」


『うん』


「むしろ……嬉しかった」


『うん』


「だから……」


 玲は一度目を閉じた。


 そして、ゆっくり開く。


「ちゃんと自分の気持ちで答えよう」


 玲は立ち上がった。


「レオンハルトに会ってくる」


『頑張って』


「ワン!」


「二人とも……」


 玲は笑った。


 そして、レオンハルトのもとへ向かった。


     ◇◇◇


「レオンハルト」


 執務室の扉をノックする。


「玲か?」


「はい。入ってもいいですか?」


「ああ」


 扉を開ける。


 レオンハルトは机の前に立っていた。


 玲の顔を見た瞬間、その表情が少しだけ硬くなる。


 きっと、玲が返事をしに来たことに気づいたのだろう。


「……昨日の話なんですけど」


「ああ」


 レオンハルトも玲を見る。


 玲は緊張しながら、ゆっくりと言葉を選んだ。


「私……結婚って、今までちゃんと考えたことがありませんでした」


「分かっている」


「だから、昨日すぐに答えられなくて……ごめんなさい」


「謝る必要はない」


 レオンハルトは穏やかに言った。


「玲が考えて答えを出してくれれば、それでいい」


「……はい」


 玲は小さく息を吸った。


「私、この辺境で暮らすのが好きです」


「……」


「雷電とアビーと一緒にいて、商品を作って……毎日すごく楽しい」


 レオンハルトは黙って聞いている。


「王城に戻るのは……正直、怖いです」


 玲の声が少しだけ震える。


「でも、この辺境なら安心できます。アルベルト様やエレノア様、グレンさんやグレイスさんもいて……レオンハルトもいてくれる」


 そこで玲は、少し照れながら笑った。


「だから私……ここにいたいです」


「玲……」


「それに」


 玲はレオンハルトを見上げる。


「レオンハルトとも、一緒にいたいと思っています」


 レオンハルトの目が僅かに見開かれた。


「……それは」


「はい」


 玲は頷く。


「私の答えです」


 一瞬、部屋が静かになった。


 そしてレオンハルトが、ふっと表情を緩める。


「……ありがとう」


「え?」


「その言葉が聞けただけで十分だ」


 その笑顔を見た瞬間、玲の胸がまたドキンと鳴った。


(……やっぱり、好きなのかな)


 昨日、アビーに言われた言葉が頭をよぎる。


 玲は少しだけ頬を赤くした。


「それで……」


「ん?」


「結婚についてなんですけど」


 玲は少しだけ姿勢を正した。


「いきなり結婚するんじゃなくて……まずは婚約、ですよね?」


「ああ」


「じゃあ……」


 玲は小さく息を吸った。


「私、レオンハルトと婚約します」


「……本当に?」


「はい」


 今度は、はっきりと答えた。


「よろしくお願いします」


 レオンハルトは一瞬だけ黙っていた。


 そして――。


「ああ。こちらこそ、よろしく頼む」


 玲の手を、そっと取った。


 大きくて、温かい手。


 玲は少し照れながら、その手を見つめた。


「……なんだか、まだ実感ないです」


「俺もだ」


「レオンハルトも?」


「ああ」


「ふふっ」


 二人で顔を見合わせる。


 不思議と、玲の胸にあった緊張はもう消えていた。


     ◇◇◇


 その日の午後。


 辺境伯邸。


 アルベルトとエレノア、グレンとグレイスが集まる部屋に、玲とレオンハルトが入ってきた。


「どうした?」


 アルベルトが二人を見る。


 玲はレオンハルトと顔を見合わせた。


「えっと……」


 少し恥ずかしそうに玲が口を開く。


「私たち、婚約することになりました」


「おお!」


 アルベルトが嬉しそうに声を上げた。


「そうか! よく決めたな、レオンハルト!」


「ありがとうございます、アルベルト様」


 エレノアも嬉しそうに微笑んでいる。


「まあ……玲さん。本当におめでとうございます」


「ありがとうございます」


 グレンも笑顔を見せる。


「団長もようやく腹を決めたか」


「グレン……」


「ははは!」


 グレイスも楽しそうに笑っている。


「玲さん、これで少し安心できますね」


「はい」


 玲は頷いた。


 けれど――。


「では、婚約のお披露目についても考えなくてはいけませんね」


「……え?」


 玲が固まった。


「お披露目?」


 エレノアが不思議そうに首を傾げる。


「ええ。婚約したのですもの。正式に皆様へお知らせする必要がありますでしょう?」


「そ、そうなんですか?」


「もちろんですわ」


「……」


 玲の顔が引きつる。


 結婚だけじゃない。


 婚約にも色々あるらしい。


「……結婚って、思ってたより大変かも」


 玲が小さく呟いた。


 その隣で、レオンハルトが笑った。


「大丈夫だ。俺がついている」


「……それ、昨日も聞いた気がします」


「なら、今日も言っておこう」


「もう……」


 玲は呆れたように言いながらも、どこか嬉しそうに笑った。


 こうして。


 一ノ瀬玲と辺境騎士団長レオンハルトの婚約が決まった。


 玲の新しい人生は――。


 また一歩、大きく動き始めた。


――第46話 終――

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