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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第34話 試作品二号、完成

翌朝。


 玲はいつもより早く目を覚ました。


「……よし」


 身支度を整え、作業スペースへ向かう。


 昨日のうちに、試作品二号に使う材料と器具はすべて準備してある。


 作業台の上を確認する。


「大丈夫」


 玲は小さく頷いた。


 今日は――二号を作る。


『玲、朝からやる気満々だね』


「だって、早く試したいんだもん」


 アビーが玲の足元を歩く。


『昨日からずっと二号のこと考えてたでしょ』


「……まあね」


『寝てる時も?』


「それは寝てたから分からない」


『寝言で言ってたよ』


「えっ!?」


 玲が振り返る。


『二号……って』


「嘘!」


『ほんと』


「アビー!」


 楽しそうに尻尾を振るアビー。


 その隣で雷電が、


「ワン」


『俺も聞いた』


「雷電まで!?」


 玲は二匹を見つめる。


「……もういい。作るよ!」


『開き直った』


「うるさい!」


 玲は笑いながら作業台へ向き直った。


 * * *


 まずは材料を量る。


 油脂。


 水。


 そして苛性ソーダ。


 一つずつ、慎重に確認していく。


「……よし」


 分量に間違いがないことを確認する。


 温度も測る。


 一号を作った時よりも、玲の動きには迷いがない。


 けれど、雑にはならない。


 むしろ一号で得た経験がある分、慎重になっていた。


「ここから」


 玲は二号の製作を始めた。


 材料を合わせ、状態を確認しながら混ぜていく。


「……」


 玲の目は真剣だ。


 粘度。


 温度。


 香り。


 変化を一つずつ確認する。


「うん……いい感じ」


 しばらくして。


 玲は手を止めた。


「これなら大丈夫」


 型を用意する。


 そこへ、ゆっくりと流し込んでいく。


「……」


 表面を整える。


 ほんのりとした香りが漂った。


「できた……」


 玲は型を見つめる。


 これが二号。


 一号とは配合を変えた。


 目的も明確だった。


 洗浄力を保ちながら、もっと肌に優しく。


「ちゃんと固まってね」


『お願いする相手、石鹸?』


「そうだよ」


『石鹸にお願いするんだ』


「こういうのは気持ちが大事なの」


『研究者なのに?』


「研究者だって祈る時はあるの!」


 玲がむっとする。


「ワン」


『頑張れよ』


「雷電は優しいね」


『俺は応援係だからな』


『じゃあ私は研究助手』


「アビーは何もしてないでしょ」


『精神的に支えてる』


「……はいはい」


 玲は笑った。


 * * *


 そして――数日後。


「……できた」


 玲は完成した二号を手にしていた。


 一号よりも、見た目が少し整っている。


 手に取った感触も悪くない。


「よし」


 玲はさっそく使ってみる。


 手を濡らし、二号を泡立てる。


「……」


 泡が立つ。


 一号の時よりも、きめ細かい。


「いい」


 玲は泡を手に広げる。


 そのまま洗い、しっかりと流した。


 タオルで水分を拭き取る。


「……」


 玲は自分の手を見つめた。


 少し待つ。


 さらに待つ。


「……つっぱらない」


 思わず声が漏れた。


『成功?』


「うん」


 玲の顔がぱっと明るくなる。


「一号より、ずっといい!」


『やったね』


「やった!」


 玲は二号を両手で持ち上げた。


「完成!」


「ワン!」


『おめでとう』


「ありがとう!」


 玲は嬉しそうに笑う。


 けれど――。


「……よし」


 ふと、表情が変わった。


「これなら、グレイスさんにも使ってもらえる」


『グレイス?』


「うん。実際に使う人の感想を聞きたい」


 玲にとって、これはまだ研究の途中。


 自分だけで判断するつもりはない。


「レオンハルトにも見せよう」


『団長さんにも?』


「一応ね」


 玲は二号を大事そうに包んだ。


 * * *


 夕方。


 騎士団の仕事を終えたレオンハルトが屋敷へ戻ってきた。


「ただいま」


「お帰りなさい!」


 玲が出迎える。


「今日はずいぶん嬉しそうだな」


「分かります?」


「ああ」


 玲は隠しきれない笑顔を浮かべている。


「完成したんです」


「何が?」


「石鹸!」


 レオンハルトが一瞬、目を瞬かせた。


「……ああ」


「二号です!」


「二号?」


「はい!」


 玲は包みを開く。


「これ」


 レオンハルトが石鹸を見る。


「前に見せてもらったものとは違うな」


「そうなんです。一号より肌に優しくなるように改良しました」


「もう完成したのか」


「試してみたら、洗った後のつっぱり感がかなり減りました」


「そうか」


 レオンハルトが石鹸を眺める。


「これが商品になるのか?」


「まだ分かりません」


「そうなのか?」


「実際に使ってもらって、感想を聞いてからです」


 玲は頷く。


「だから、グレイスさんにも試してもらいたいんです」


「なるほど」


「女性の肌でどう感じるかも知りたいし」


「それなら、グレンに頼んでみよう」


「お願いします!」


 玲の返事が早い。


 レオンハルトが苦笑する。


「明日にでも話をしておく」


「ありがとうございます!」


 その時。


「玲?」


 廊下から声がした。


 レオンハルトが振り返る。


「どうした?」


「何か楽しそうな話をしていると思ったんだけど」


 グレイスだった。


「グレイスさん!」


 玲の顔が明るくなる。


「ちょうど良かった!」


「何かしら?」


 玲は手にしていた石鹸を見せた。


「これ、二号です」


「二号?」


「この前話していた石鹸。試作品二号」


 グレイスが石鹸を受け取る。


 手の中で転がし、じっくり眺める。


「……綺麗ね」


「一号よりは、少しだけ」


「香りもいいわ」


「本当ですか?」


「ええ」


 グレイスは嬉しそうに笑った。


「使ってもいい?」


「もちろん!」


 * * *


 翌朝。


 グレイスが石鹸を使ってみた感想を聞かせてくれた。


「すごくいいわ」


「本当ですか?」


「ええ。泡も柔らかいし、洗った後の感じが違う」


「つっぱりませんでした?」


「ほとんど感じなかったわ」


 玲の目が輝く。


「良かった……!」


「それに」


 グレイスが自分の手を撫でる。


「洗った後なのに、肌がしっとりしている感じがする」


「……!」


 玲は思わずノートを取り出した。


「もう一回お願いします」


「え?」


「今のところ、詳しく聞きたいです」


「ふふっ」


 グレイスが笑う。


「そういうところ、本当に研究者なのね」


「だって大事なことだから!」


 玲は真剣に書き留めていく。


 泡立ち。


 香り。


 洗浄感。


 洗った直後の肌。


 少し時間が経ってからの肌。


「他に気になるところはありませんでした?」


「そうね……」


 グレイスが考える。


「強いて言うなら」


「はい!」


「もっと香りがあってもいいかもしれないわ」


「香り……」


 玲のペンが止まる。


「なるほど」


 玲は考え込む。


「香りを変えるなら……」


 薬草。


 精油。


 植物。


 頭の中にいくつもの候補が浮かんでくる。


 けれど――。


「まずは、この二号を基本にした方がいいですね」


「どうして?」


「肌に優しいっていう部分は、このまま残したいから」


 玲は頷く。


「香りは、その次」


「なるほど」


 グレイスが笑う。


「玲さんの頭の中では、もう次の商品ができているんじゃない?」


「え?」


「だって、今すごく楽しそうよ」


「……」


 玲は黙った。


 そして――。


「実は」


「やっぱり」


「石鹸を使った後に、肌を整えるものも欲しいなって」


「肌を整えるもの?」


「はい」


 玲は少し考える。


「化粧水」


「化粧水……」


「洗った後に使うものです」


 玲の頭の中には、日本で使っていた化粧水が浮かんでいた。


 洗う。


 整える。


 そして、乾燥から守る。


「石鹸だけじゃなくて」


 玲の目が輝く。


「化粧水も作ろう」


『玲、また始まった』


 アビーが呆れたように呟く。


「だって思いついちゃったんだもん」


『次から次へと出てくるね』


「仕方ないでしょ」


 玲は笑う。


「研究って、そういうものだから」


 雷電が、


「ワン」


『また忙しくなるな』


「大丈夫」


 玲は自信満々に頷いた。


「楽しいから!」


 グレイスがそんな玲を見て、柔らかく笑う。


「完成したら、また一番に試させてね」


「もちろん!」


 玲は元気よく答えた。


 そして――。


 新しいノートを開く。


 最初のページに、玲は大きく書いた。


 『化粧水』


 石鹸二号が完成した。


 次に作るものも決まった。


 玲の研究は、まだ始まったばかりだった。


――第三十四話 終――

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