第19話 王都に広がる異変
――王都。
玲たちが辺境へ着いた頃さ。
王城では、普段とは違う緊張感が漂っていた。
「また、魔物が?」
「はい。王都からそう遠くない場所で目撃されたとの報告が」
報告を受けた騎士が、険しい表情を浮かべる。
ここ最近、王都周辺で魔物の目撃が増えている。
さらに――
「天候もおかしいな」
窓の外では、灰色の雲が空を覆っている。
季節に似つかわしくない冷たい風。
突然の豪雨。
そして、雷。
「一体、何が起きている……」
王城の者たちが不安を募らせる中――
「殿下!」
廊下を走ってきた侍女が、慌てた様子で頭を下げた。
「愛莉様が……」
「愛莉がどうした?」
それまで険しい顔をしていた王太子が、すぐに反応する。
「外の騒ぎを聞いて、不安がっておられます」
「そうか」
王太子は立ち上がった。
「すぐに行く」
向かった先には、愛莉がいた。
「殿下……」
不安そうな顔で王太子を見上げる。
「怖いです……」
「心配するな」
王太子は愛莉の手を取った。
「私がいる」
「でも……魔物が……」
「お前のことは、私が必ず守る」
「殿下……」
愛莉の顔が少しだけ和らぐ。
二人の様子を見ていた侍女たちは、そっと視線を逸らした。
王都の異変。
増える魔物。
荒れる天候。
そんな状況でも――
王太子の頭の中にあるのは、愛莉のことばかりだった。
「愛莉、怖ければ私の部屋にいればいい」
「……はい」
愛莉は嬉しそうに頷く。
その時。
王太子の側近が、遠慮がちに声をかけた。
「殿下」
「なんだ」
「少々、お耳に入れておきたいことが……」
「後にしろ」
「ですが――」
「今は愛莉が不安がっている」
「……承知しました」
側近は引き下がった。
そして、しばらくして。
王太子の執務室。
「ところで――」
王太子がふと思い出したように呟く。
「一ノ瀬玲は、どうした?」
側近の顔から、わずかに表情が消えた。
「……その件ですが」
窓の外で、雷鳴が轟く。
王都を覆う黒い雲。
そして――
王太子の知らない場所で。
玲はすでに、王都から遠く離れた辺境へ辿り着いていた。
物語の歯車は、静かに動き始めていた。




