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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第14話 前編 王家の追手

――パカッ、パカッ、パカッ。


夜の街道に、複数の馬の蹄の音が響いている。


玲たちも馬に乗ったまま、街道を進んでいた。


けれど、その音は玲たちのものではない。


後ろから近づいてくる音だった。


玲は手綱を握りしめ、レオンハルトを見る。


「……近いね」


「声を落とせ」


レオンハルトが玲を見る。


「ごめん」


雷電は玲の馬の横を歩き、アビーは玲のマジックバッグの中から顔だけを出している。


『玲、まだ近づいてくるよ』


「うん……」


再び、蹄の音。


そして松明の明かりが、木々の隙間からちらちらと見えた。


王家の使者。


間違いない。


玲の胸が大きく跳ねる。


「……どうしよう」


「このまま街道を進むのはまずい」


レオンハルトは後ろを確認した。


「街道を外れる」


「でも……」


玲は街道の先を見る。


「街道を外れたら、辺境へ向かう道が分からなくならない?」


「それが問題だ」


レオンハルトは周囲を見回した。


「森へ入れば追手から姿を隠すことはできる。だが、夜の森を馬で進むのは危険だ」


「……あ」


玲が何かを思い出したように声を漏らした。


「どうした?」


「私、道が分かるよ」


「……どういう意味だ?」


玲はポケットからスマホを取り出した。


「これ。地図が見られるの」


「地図?」


レオンハルトが眉を寄せる。


「うん。えっと……」


玲はスマホを操作する。


王都を出てからの現在地。


そして、辺境へ向かう道。


地図には街道だけではなく、周辺の道や森まで表示されている。


「ほら」


玲が画面を見せる。


レオンハルトが覗き込んだ。


「……」


「この森を抜けて、少し南へ。それから西に向かえば、街道の先にある別の道へ出られる」


玲が指で地図をなぞる。


「ここを通れば、王家の使者と鉢合わせしないで先へ進めると思う」


レオンハルトは画面をじっと見つめた。


「……本当に道が分かるのか?」


「うん。これがあれば大丈夫」


「どうして?」


「スマホだから」


「……そうか」


「いや、絶対分かってないでしょ」


玲が小声で突っ込む。


レオンハルトは少しだけ口元を緩めた。


「分からなくても、お前が分かるならそれでいい」


「……」


玲は一瞬、言葉に詰まった。


「な、なにそれ」


「何がだ?」


「……なんでもない」


玲は慌ててスマホへ視線を戻した。


その様子を見ていたアビーが、雷電に小声で話しかける。


『玲、また顔赤いよ』


「ワフ」


『ね?』


「ちょっと、アビー!」


玲が睨む。


「今は静かにして!」


『はーい』


アビーは素直に口を閉じた。


「……本当に仲がいいな」


レオンハルトが小さく笑う。


「もう……」


玲はため息をついた。


その時。


――ヒヒーン!


近くで馬が嘶いた。


玲たちの表情が一気に変わる。


「来た……!」


レオンハルトが馬を街道脇へ寄せる。


「降りろ」


「え?」


「森へ入る。馬には乗らない」


「置いていくの?」


「いや。連れていく」


レオンハルトは馬から降り、手綱を握った。


「森の中で乗れば、蹄の音が響く。歩かせる方が見つかりにくい」


「なるほど」


玲も急いで馬から降りた。


そして自分の馬の手綱を握る。


雷電もすぐに玲の横へついた。


「よし……行こう」


玲達は馬を連れて、街道から離れ木々の間へ入った。


玲はスマホの画面を確認する。


「こっち!」


「分かるのか?」


「大丈夫!」


玲が先を進む。


「この先、少し下り坂になってる」


「……見えているのか?」


「地図に出てる!」


「便利なものだな」


「でしょ?」


玲は少し得意げになった。


馬を引きながら森の中を進んでいく。


枝が服に引っかかる。


足元も悪い。


時々、馬が不安そうに鼻を鳴らす。


「大丈夫だよ」


玲が優しく声をかける。


「もう少しだからね」


レオンハルトも自分の馬を落ち着かせながら進んでいる。


その時。


「止まれ」


レオンハルトが玲の腕を引いた。


「え?」


レオンハルトが玲の前に立つ。


そして、口元に指を当てた。


「静かに」


玲は息を止める。


――パカッ。


――パカッ。


馬の蹄の音。


玲の目が見開かれる。


「……!」


街道から聞こえてくる。


レオンハルトは玲の馬の手綱を受け取り、馬を木々の奥へ寄せた。


そして玲の肩を抱くようにして、木の陰へ引き寄せる。


玲の背中が木に触れる。


レオンハルトとの距離が近い。


近すぎる。


玲は思わず顔を上げた。


すぐ目の前に、レオンハルトの顔がある。


「……」


「……」


二人とも黙った。


玲の心臓が、ドクンと大きく鳴る。


――今、こんなこと気にしてる場合じゃない!


そう思うのに、近い。


ものすごく近い。


レオンハルトも、ほんの一瞬だけ玲を見つめた。


だがすぐに視線を街道へ戻す。


「……来る」


玲は慌てて頷いた。


「う、うん」


木々の向こうを、松明を持った騎士たちが通り過ぎていく。


馬も数頭いる。


「この辺りを探せ!」


「はい!」


「街道を外れた可能性もある。森の中も確認しろ!」


玲の心臓がさらに跳ねる。


――森も探すの!?


玲は思わずレオンハルトの服を掴んだ。


レオンハルトが玲を見る。


玲は口元を押さえ、目だけで訴える。


どうするの?


レオンハルトは少し考え――


玲の耳元へ顔を寄せた。


「このまま動く」


「……え?」


「今ならまだ間に合う」


玲は慌てて頷いた。


二人は音を立てないように、ゆっくりと森の奥へ進む。


馬たちも慎重に歩かせる。


雷電とアビーも、驚くほど静かに後をついてくる。


しばらく進んだところで、玲がスマホを確認した。


「……大丈夫」


「何がだ?」


「ちゃんとルート上にいる」


玲が画面を見せる。


「このまま進めば、街道の先にある小さな道へ出られる」


レオンハルトは画面を見てから、玲を見る。


「お前のその道具……」


「スマホ?」


「ああ」


「便利でしょ?」


「……ああ。かなりな」


「ふふっ」


玲が笑う。


その時。


後ろから、かすかな声が聞こえた。


「いたか!?」


玲の笑顔が消える。


「……まだ追ってくる」


レオンハルトが剣に手を添える。


「急ぐぞ」


「うん!」


玲はスマホを握りしめる。


馬の手綱を握り直し、先へ進む。


王家の使者から逃げるため、街道を外れた。


そして今、玲たちはスマホの地図を頼りに、暗い森を進んでいる。


「こっち!」


玲が先を指す。


「あと少し!」


レオンハルトが玲の後を追う。


馬たちも懸命についてくる。


やがて木々の向こうに、わずかな明かりが見えた。


「出口!」


玲が声を上げそうになり――慌てて口を押さえた。


レオンハルトが苦笑する。


「声が大きい」


「ご、ごめん!」


玲達は森を抜けた。


そこには、小さな林道が続いていた。


玲はスマホを確認する。


「合ってる!」


「よし」


レオンハルトが周囲を確認する。


街道からはかなり離れた。


これなら追手も簡単には見つけられないだろう。


「……逃げ切れた?」


玲が呟く。


「まだ油断するな」


「うん」


玲はスマホをしまった。


レオンハルトが馬の鞍を確認する。


「ここからは乗れる」


「やった!」


玲は自分の馬に近づき、手綱を握る。


「森の中、歩くの疲れたぁ」


「文句を言うな」


「だって……」


玲が頬を膨らませる。


レオンハルトはそんな玲を見て、ふっと笑った。


「辺境まではまだ先だぞ」


「分かってるよ」


玲も笑い返した。


そして――


アビーが突然、玲を見た


『玲』


「どうしたの?」


アビーは森の奥を見つめている。


『……何かいる』


雷電も同じ方向を見た。


「……ワン」


玲の背中に、ぞくりと冷たいものが走った。


「え?」


レオンハルトも二匹の視線を追う。


「……何か聞こえるか?」


玲は息を潜めた。


森の奥から。


――ガサッ。


枝が折れる音。


王家の使者とは違う。


馬の蹄の音もしない。


ただ、何かがこちらへ近づいている。


玲はレオンハルトを見る。


「……ねえ」


レオンハルトは剣の柄に手を置いた。


「ああ」


その表情が険しくなる。


「どうやら、まだ休ませてもらえそうにないな」


――第十四話 前編 終――

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