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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第11話 前編 初めての異世界通販

 辺境を目指して旅を始めて、三日目。


 私たちは街道から少し外れた森の中で、馬を休ませていた。


「ふぅ……」


 私は木の根元に腰を下ろした。


 馬に乗るのにも、少しずつ慣れてきた。


 ……とはいっても、まだまだ初心者。


 最初の日なんて、馬が一歩進むたびに身体が揺れて怖かった。


 それでも三日も乗っていれば、多少は余裕が出てくる。


 私の腕の中にはアビー。


 少し離れたところでは、レオンハルトさんが馬の様子を見ている。


 そして――


「雷電?」


 雷電が、何やらそわそわしながら森の奥へ歩いていく。


「どこ行くの?」


「ワン」


 ――ちょっと行ってくる。


「……?」


 私は首を傾げながら、その後ろ姿を眺めた。


 すると。


「…………あ」


 何となく察した。


「雷電、ちょっと待って!」


 私は立ち上がった。


 アビーを抱っこしたまま、雷電のところへ向かう。


「雷電、そこで待ってね」


「ワン」


 雷電が立ち止まる。


 そして――


 しばらくして。


「……はい」


 私はバッグを開けた。


 ウンチ袋を取り出そうとして――


 手が止まった。


「…………」


 バッグの中をもう一度確認する。


 ない。


 もう一度探す。


 ない。


「……嘘でしょ」


 私はバッグの中身を少しずつ確認していく。


 犬たちのご飯。


 水。


 着替え。


 その他いろいろ。


 でも――


「ウンチ袋……」


 残っているのは、


あと一枚。


「…………」


 私は固まった。


 旅に出て三日。


 まだ三日。


 辺境まで、まだまだある。


「これ……足りないよね?」


 思わず雷電を見る。


「ワン」


 ――知らん。


「いや、雷電のせいじゃないけどさ……」


 アビーが私の腕の中から雷電を見る。


『玲』


「何?」


『残り一枚ね』


「そうなの」


『じゃあ、買えばいいんじゃない?』


「…………」


 私はアビーを見る。


「……買う?」


『うん』


「どこで?」


『お店』


「この森の中に?」


『…………』


 アビーが黙った。


「ほら!」


『でも、玲にはあれがあるじゃない』


「あれ?」


『スマホ』


「あ……」


 私は目を瞬いた。


 そして――


「ああああっ!」


 思わず声が出た。


 アビーがびくっとする。


『びっくりした!』


「そうだよ!」


 私はスマホを取り出した。


「私、異世界通販があるじゃん!」


『最初から思い出してよ』


「だって、今まで実際に使ったことなかったんだもん!」


 そう。


 異世界へ来た翌日。


 スマホに突然現れた【異世界モード】。


 そこには、


【異世界通販】


【異世界銀行】


【アイテム収納】


【マップ】


【翻訳】


【ステータス】


 いくつもの機能があった。


 その中に【異世界通販】があったことは、ちゃんと覚えている。


 でも――


 今まで、実際に商品を購入したことはなかった。


「……使ってみよう」


『何を買うの?』


「もちろん、ウンチ袋」


『…………』


「何その顔」


『初めての買い物がウンチ袋って……』


「仕方ないじゃん! 今、一番必要なんだから!」


『そうね』


「納得するの早いな」


 私はスマホの画面を操作する。


【異世界モード】


 そして――


【異世界通販】


 タップ。


「……開いた」


 画面には、見覚えのない商品が並んでいる。


 食品。


 衣類。


 日用品。


 キャンプ用品。


 犬用品。


「……すご」


 改めて見ると、本当にいろいろある。


 私は検索欄をタップした。


 そして、


犬用 ウンチ袋


 と入力。


「検索っと」


 商品が表示される。


「……ある」


『あるの?』


「ある!」


 私は思わず画面をアビーに見せる。


 もちろん、アビーには画面そのものは見えない。


『玲、私には見えないわよ』


「あ」


 そうだった。


「でも、あるの!」


『ならよかった』


 いくつか商品を確認する。


 枚数もいろいろ。


 値段もそれぞれ違う。


「どれにしよう……」


『たくさん入ってるやつ』


「やっぱり?」


『だって、また一枚になったら困るでしょ』


「それもそうだね」


 私は少し多めに入っているものを選んだ。


 そして購入画面へ。


「…………」


 そこで、指が止まる。


「……あ」


『今度は何?』


「お金」


『お金?』


「これ、どうやって払うんだろう」


 私は商品価格を見る。


 日本円じゃない。


 異世界の通貨だ。


「……異世界銀行」


 私は一度、通販画面を閉じる。


 そして【異世界銀行】を開いた。


 そこには、異世界で使えるお金の情報が表示されていた。


「これ……」


 異世界で手に入れたお金が、ちゃんと表示されている。


「これを使えるのかな?」


『試してみれば?』


「……そうだね」


 私は再び異世界通販へ戻る。


 商品を選択。


 購入手続き。


 そして――


購入する。


「…………」


 私は画面を見つめた。


「押すよ」


『どうぞ』


「……えいっ」


 タップ。


 画面が一瞬だけ光った。


 そして――


購入が完了しました。


「…………」


 私は固まった。


「……え?」


 もう一度画面を見る。


 購入完了。


「……買えた?」


『どう?』


「買えた……」


 その瞬間。


 私の目の前に――


ぽんっ。


 小さな箱が現れた。


「…………」


 私は箱を見る。


 スマホを見る。


 もう一度、箱を見る。


「……届いた」


『玲?』


「届いたよ!」


 私は思わず箱を抱えた。


「本当に届いた!」


『だから通販なんだから、届くんじゃない?』


「そうなんだけど!」


 だって――


 ここ、異世界だよ?


 森の中だよ?


 お店なんてどこにもない。


 なのに、スマホで注文した商品が、目の前に届いた。


「……すごい」


 私は箱を開けた。


 中には、注文した犬用のウンチ袋が入っている。


「…………」


 一枚、取り出す。


「これが……」


 異世界通販で、私が初めて購入した商品。


「……ウンチ袋」


『玲』


「何?」


『もうちょっと嬉しそうにしたら?』


「してるよ!」


『そう?』


「だって、異世界通販だよ?」


『うん』


「もっとこう……最初に買うなら、異世界っぽいものとか……」


『でも、今必要だったんでしょ?』


「……そうだけど」


『ならいいじゃない』


「……うん」


 確かに。


 今、この瞬間に必要だった。


 そして――


 ちゃんと買えた。


「……便利」


 私はスマホを見る。


 異世界通販。


 異世界銀行。


 アイテム収納。


 マップ。


 翻訳。


 ステータス。


 第四話でこの機能を見つけた時は、ただ驚いただけだった。


 でも、実際に使ってみると――


「これ、かなり便利じゃない?」


『今さら?』


「今さらです」


 私は苦笑する。


 その時。


「玲」


 少し離れたところから、レオンハルトさんの声がした。


「はい!」


 私は慌てて振り返る。


「何をしている?」


「えっと……」


 手には犬用ウンチ袋。


 足元には通販で届いた箱。


 そして手にはスマホ。


 ……どう説明しよう。


「犬用品を……買いました」


「買った?」


「はい」


 レオンハルトさんが周囲を見る。


「この森で?」


「…………」


「店など、なかったと思うが」


「…………」


 私は笑顔を作った。


「……便利なものを使いました!」


「便利なもの?」


「はい!」


 レオンハルトさんは、私の手元をじっと見た。


 何かを考えているような顔。


「……そうか」


 それ以上は聞かなかった。


「じゃあ、これで大丈夫です!」


 私は新しく買ったウンチ袋をバッグへしまう。


 そして雷電の後始末を終える。


「よし!」


「ワン」


 雷電がこちらを見る。


『玲、よかったわね』


「うん」


 私はスマホを握りしめる。


 初めて使った異世界通販。


 ちゃんと買えた。


 ちゃんと届いた。


 そして――


 異世界でも、私の知っている便利なものが手に入る。


「……これなら、旅も何とかなるかも」


『玲』


「何?」


『今、ちょっと悪い顔してる』


「してない!」


『してるわよ』


「してません!」


 私とアビーのやり取りを、レオンハルトさんが不思議そうに見ている。


 そして――


 その日の夕方。


 私たちは、予定していた場所まで進むことができなかった。


 辺りが暗くなり始める。


 レオンハルトさんが周囲を確認した。


「今日はここで休む」


「ここ……?」


 私は辺りを見渡した。


 森。


 地面。


 木。


 そして――


 何もない。


「……ここで?」


「ああ。野営する」


「…………」


 私は固まった。


 野営。


 つまり――


 今日は、ここで寝る。


 私はゆっくりとスマホを見る。


【異世界通販】


「…………」


 もしかして。


 私は、あることを思いついた。


 そして――


 自分でも気づかないうちに、口元が緩んでいた。


『玲』


「何?」


『また悪い顔してる』


「……してないよ?」


 私はスマホを握りしめる。


 今度は――


 何を買おう?


 そんなことを考えながら、私は野営の準備を始めた。

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